Angus MacRae  『Warren Suit』 


Label: Venus Pool

Release: 2026年2月6日

 

Review 


ロンドンの作曲家、アンガス・マックレイによる最新作『Warren Suit(ウォレン組曲)』は、バーナード・ショーによる舞台劇『ウォレン夫人の職業』のために書かれた10の組曲である。この舞台作品は、日本のトーホーシネマズでも上映された。


『ウォレン夫人の職業』は売春婦をテーマに母と娘の衝突、そして自立、家父長制が社会的規範であった時代の道徳とは何かを問う。1902年の発表まもなくバーナード・ショーの新作は上演禁止となった。文字通りの問題作である。

 

作曲家、アンガス・マックレイは、今回の音楽作品『Warren Suit』のために多角的な器楽のアプローチを図り、ピアノ、ハープ、弦楽器、電子音による女性声楽四重奏が導く、夢幻的な小品群として展開する。ミニマリズムとマキシマリズムを織り交ぜた音楽は、20世紀初頭のフォークとクラシックの伝統を汲み取りつつ、包み込むような現代的な音響世界へと再構築している。



「これは即興と実験のアルバムです。舞台作品とは並行世界として捉えてほしい——繋がりつつも独立した存在として」マックレイは語る。「原作のスコアの糸をひたすら引き続け、どこへ導かれるか見たかった。それは予想外の深淵へと私を誘った。このレコードの核心にあるのは言葉なき声たちだ。ショーの物語の中心に立つ女性たちの幽霊のような幻影として機能している。彼女たちの存在感を増幅させ続け、文章とは独立した形で物語を拡大させたかった」

 

制作者が語るように、どことなく舞台に登場する亡霊の声なき声が盛り込まれている。アルバムは「May Child」で始まり、電子音と女性のクワイアを中心にミステリアスな音楽性が組み上げられている。二声(以上)を中心とする女性のクワイアはこの物語の扉を開き、無限なる物語の道筋へと誘う。しかし、この舞台音楽が面白いのは、典型的なイギリスの響きが出てくることだろう。


「Warren Folklore」では、女性のメゾソプラノ/ソプラノを中心にさらにミステリアスな音楽が登場し、Secret Gardenのような音楽性を彷彿とさせるセルティック民謡(ケルト音楽)の要素が出てくる。この副次的なモチーフが独り歩きをして、物語の奥行きを広げるための導きを成す。曲の途中では、音楽そのものは本格的なオペラへと近づき、複数の声部の歌唱、ストリングスのハーモニーを通じて、ウォレン一家の悲哀のような感覚が露わとなってくる。賞賛すべきなのは、この音楽作品がそのまま、シナリオの暗示、もしくは道標となっていることだろう。

 

また、この舞台音楽のたのしみは、クワイアや弦楽と合わせてささやかなピアノの小品が収録されていること。そして「In Your Nature」のように印象音楽としての自然を描いたと思われる曲から「Nine Roses」のような物語の中枢に登場するような印象的なシーンを描いたものまで、それらが一貫してペシミスティックなピアノの音色で縁取られていることである。ここにはドラマ音楽の基本的な作曲法と合わせて、マズルカのような物悲しい音楽的なテーマが垣間見える。ここにも一貫して、古典的な家父長制度における女性の生き方という主題が、一つの物悲しさに結びついている。そしてその中には、女性たちの幽霊というショーの物語の中枢が見えてくる。その音楽的なテーマの中には、やはりイギリスの古典的な雰囲気を見いだせるだろう。

 

現代音楽としても興味をひかれる曲がある。四曲目に収録されている「Chalk Petal」は、Arvo Part、Alxander Knaifelのような東欧の作曲家の管弦楽法を受け継いだ曲として聞き入らせる。また、音響効果として舞台を演出する内容も、弦楽器の長いレガートにより培われるドローン音楽は、ワーグナーのオペラの通奏低音のような特殊効果を発揮する。 複数の主旋律が重なり合い、美しく可憐な音の構造を生み出すが、同時に、それはアンビエントのような音楽的効果を併せ持つ。しかし、ここまで一貫して、物悲しい音楽がいまだかつて存在しただろうか。音の旋律は美しさがあるが、それはまるで濃霧の中を永遠とさまよい続けるような無明の雰囲気がある。しかし、もっともこの曲が美しいのは、弦楽器の演奏のあとに登場するクワイアである。

 

そんな中で、ややコミカルな曲もある。「Forebears」のような曲は、悲哀溢れるウォレン夫人の物語のミステリアスな側面を強調付けるものであるが、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」のような音楽性を感じ取る事ができる。音楽全体は、室内楽のような感じで続いて、ピアノ、弦楽器の演奏を通して、ウォレン夫人を暗示するメインのボーカルが華麗な雰囲気を作り出す。この舞台音楽が最もアンビエント的な要素を強める瞬間が「Picking Fruit」である。シンセサイザーを通じて、作曲家のマックレイは電子音楽に近い音楽の手法を選んでいる。そして、クワイアやミステリアスなシンセサイザーの伏線を通じて、華麗な弦楽器のソロが登場する。ここではチェロと思われる芳醇な旋律が、力強く鳴り響く瞬間がこの曲のハイライトとなる。

 

声楽を中心とする曲の中で、最も目玉となる曲が「Bloodline」である。制作者が語る「亡霊的な響き」が最も色濃く表れ出た瞬間である。この曲は特に、夫人の売春婦としての艶やかな雰囲気がオペラティックな歌唱によく表れ出ている。一方でそれは艶やかで魅力的であるが、危険なバラのような棘を持った夫人の人物像を音楽の向こうに浮かび上がらせる。こういった劇伴音楽の手腕は本当に見事であり、たとえ舞台そのものの演出がなくとも、独立した音楽作品として十分自立していることを証し立てるものである。この曲に感じられるミステリアスな雰囲気はまさしく、バーナード・ショーの作品をくまなく読み込んだからこそなしえた凄技だろう。

 

本作『Warren Suit』はオペラティックな側面もありながら、バレエの組曲に近い音楽構成も発見出来る。そしてまた、アルバムの最後に収録されている「Ghosts In White Dress」は、ウォレン家の豪奢な暮らし、その裏に隠された物悲しいエピソード、当時の社会的な道徳という副次的な主題を鮮明に浮かびあがらせ、まるで音楽という舞台を中心に登場人物たちが甦るような不可思議な感覚に浸されている。音楽的には、Morton Feldmanの作品『Rothko Chapel』に近い感覚を見出せることもあった。近年聴いた劇伴音楽の中では随一の作品で、大いに称賛すべき組曲。

 

 

85/100 

 

 

 

 

 

Angus MacRae:

 

アンガス・マックレイは作曲家、マルチインストゥルメンタリスト、レコーディングアーティストであり、その作品はレコード、実験的なライブパフォーマンス、演劇・ダンス・映画のためのスコアの間をシームレスに行き来する。彼の音楽は容易に分類されることを拒むが、広くはクラシック音楽と電子音楽の交差点に位置し、即興がしばしばその核心をなす。


独特の音楽的世界構築で知られるマックレイの作品は、記憶と想像力をテーマに深く概念的な探求を続ける。数々の高評価を得たアルバムやEPを通じて、その音楽は世界的な聴衆に届いている。


彼の数多くの楽曲は、ナショナル・シアター、アルメイダ・シアター、BAM、ロンドンのウエスト・エンド、ブロードウェイなど、国際的に著名な会場で演奏、上映されています。ドミニク・クック、レベッカ・フレックナル、リンドジー・ターナーなどの監督、マイケル・ウィノグラッド、ナタリア・ツプリク、バレネスク・カルテットなどのミュージシャンとコラボレーションを行っています


昨年、新作アルバム『Getting Killed』をリリースしたニューヨークのロックバンド、Geeseがタイニー・デスクコンサートに出演した。今回珍しくバンドはアコースティックのステージを披露した。


コンサートは、Geeseが明日(2月11日)オーストラリア・シドニーで開幕する2026年「Getting Killed」ツアーの直前に開催された。ツアーはオーストラリア国内で公演を重ねた後、日本、ヨーロッパ、イギリスを経て北米に戻る予定。また、ツリーフォート、コーチェラ、プリマベーラ・サウンド、レディング、リーズなど、複数のフェスティバルへの出演も予定されている。


バンドはツアーで贈られた品々、おもちゃのガチョウ、スヌーピーのぬいぐるみ、イエスを抱くソニックのフィギュア、マインクラフトの付箋、メッツの帽子といった私物に囲まれて、3rdスタジオアルバムから選りすぐりの楽曲を披露する機会を得た。 パフォーマンスはNPRへの寄付金43,801ドルを集め、非営利放送組織が地域局への資金提供を継続する支援となった。


今回のタイニーデスクコンサートでは「Husbands」「Cobra」「Half  Real」の三曲がセレクトされた。ギーズのセットは、チャーミングなほど真摯で少し物憂げな雰囲気が漂い、『Getting Killed』の静かな瞬間を捉えている。まさにバンドの最も純粋な姿だ。 フロントマンのキャメロン・ウィンターは座ったままギターを弾き、前方を見つめながら歌う。


エミリー・グリーンは鋭いエッジの効いたギタープレイでバンドの鼓動を刻み、ここでも輝きを放つ。他のメンバーはほとんど目を閉じて演奏し、昨年春からツアーで磨き上げた楽曲に没入している。「Half Real」のように音楽が盛り上がるにつれ高みへと舞い上がる。ここでは聴かせるギースのサウンドを楽しむことが可能だ。


aus


ausが群馬/伊香保温泉で24年秋に展示したインスタレーション音源を、マンチェスターのアンビエント名手、The Humble Beeが丸ごと再構築したコラボアルバム。バスタブから温泉へ、全身で浴びる音泉音浴。空間に身体がほどけていく。昨年末に発表された『eau』以来の作品。2月13日にフィジカル(CD/LP)、そしてデジタルで発売。


aus が2024年秋に伊香保温泉に1ヶ月滞在・制作し、現地で公開され大きな話題を呼んだ八湯回遊型インスタレーション「いかほサラウンディング - アンビエント音泉」。「Chalybeate」は、その展示をThe Humble Beeが丸ごと再構築し、音そのものを伊香保の空気と湿気に1年間浸し、再発酵させた作品です。


The Humble Bee


温泉街全体を音の泉に見立て、源泉の湧動音、木造建築の反響、石段の賑わいや、あちこちに散らばる風鈴の音が重ねられ、町そのものの呼吸を写しとったというインスタレーション音源は、にごりのない澄んだモチーフから1年をかけて、テープヒスのざらつきやひそやかなうねり、黄金と白銀で知られる伊香保の湯の質感を染み込ませています。


終わることのない石段で疲れ切った ausからミックスのバトンを受け取ったのは、長年にわたって付き合いを続けてきた英マンチェスターのアンビエント名手 Craig Tattersall。微かに湯の中でこだまする倍音を丁寧に掬い取った繊細なサウンドデザインによって、儚くアトモスフェリックな音響に仕上げられました。


ビジュアルは、伊香保と同じ水源ともいわれる榛名の現地アーティスト フランシス・カナイによる湯らぐグラフィック。LPは温泉を模したハーフ・トランスパレントの特殊ヴァイナル、CDボーナストラックにはサウナ大国フィンランドより、Olli Aarniのリミックスが追加収録。



アルバムは2/13にCD/LPでリリース、現在先行シングルとして「i follow a barren path across the old mountain」「below the surface we shimmer and shine」の2曲が公開中です。

 

 

 「below the surface we shimmer and shine」


 

■ aus + the humble bee「Chalybeate」



タイトル:Chalybeate

アーティスト:aus + the humble bee

発売日:2026年2月13日

フォーマット:CD/LP/DIGITAL

レーベル:FLAU


Tracklist:

1 below the surface we shimmer and shine

2 i follow a barren path across the old mountain 

3 blushing copper light

4 specular ochre

5 in dark hours, your colours glow their brightest 

6 the mulberry and the stone

7 juniper

8 we flow ever downwards, until we blossom

9 the mulberry and the stone (olli aarni remix)* 


* = bonus track for CD ONLY


▪リリース詳細

https://flau.jp/releases/chalybeate/


▪MV「below the surface we shimmer and shine」

https://youtu.be/O0UnFUfmKPE


▪最新作のレビュー

WEEKLY MUSIC FEATURE: AUS 『EAU』 和楽器/箏とシンセサイザー、ピアノが織りなすモダンなテクノ/アンビエント


aus:

東京出身。10代の頃から実験映像作品の音楽を手がける。長らく自身の音楽活動は休止していたが、2023年に15年ぶりのニューアルバム「Everis」とシングル「Until Then」を発表。より室内楽へのアプローチを深めた「Fluctor」を2024年にリリース。Ulla、Hinako Omori、Li Yilei らとのインスタレーションや群馬・伊香保温泉でのインスタレーション「いかほサラウンディング」、Matthew Herbert、Craig Armstrong、Seahawksへのリミックス提供など、復帰後は精力的に活動している。最新作は箏を中心に据えた新しいプロジェクト/アルバム「Eau」。


the humble bee:

英マンチェスター在住Craig Tattersallによるプロジェクト。テープループと断片的でメランコリックな旋律を用いた作品で知られ、2000年代後半からMotion Ward、Astral Industries、Dauwなどからリリース。90年代からHood、The Boats、The Remote Viewerなど複数のプロジェクトを展開、人肌のあるノスタルジックなフォークトロニカ〜アンビエントで多数のコラボレーションも重ねてきた。繊細な反復と音の質感に焦点を当てた音楽は、親密で静かな強度を備えている。

 

NEW AUCTIONは2026年3月15日、「古道具坂田」を通じて長年にわたり蒐集された品々から成る、吉澤宏隆氏のコ レクションセールを開催いたします。このコレクションセールでは骨董や古い調度品、そして生活を彩った道具などがオークション展示される予定です。単なる収集品を眺めるだけではなく、美や粋の概念を通じて旧い暮らしに想いを馳せることが出来るかも知れません。


古道具坂田は、1973年に店主・坂田和實(1945‒2022)によって東京・目白に開かれた古道具店であり、骨董や古美術といった既存の枠組みにとらわれることなく、「古道具」という言葉のもと、日常のなかで使われ、時を重ねてきた物に宿る「美」を47年間にわたり示し続けてきました。 その独自性は、価格や時代、作家性といった評価軸に求められるものではなく、坂田の眼に「美しい」と映るかどう かに置かれており、欠けや疵、歪みなど時間の痕跡を含めた姿や、本来の用をなさないほどの姿にさえ「美」を見出 した点にあります。


そして時代や地域、用途を越えて坂田の審美眼が示してきた「ものさし」は、やがて多くの共感を呼び、古道具坂田 を通じて、人々がそれぞれの「眼」をもって物と向き合い、自ら選び取ってきました。 本コレクションにおいては、これらの品々に触れていただくことで坂田の美意識を感じていただくとともに、それらに向き合い、共感しながら蒐集してきたコレクターの思いにも触れていただけましたら幸いです。


本オークションに出品される品々はすべて、2024年に中国・杭州のBY ART MATTERS(天目里美術館)にて開催され た「古道具坂田 僕たちの選択」展において紹介されたものになります。またとない機会となりますので、皆さまのご参加を心よりお待ち申し上げております。

 

詳細: NEWWWAUCTION.COM






ーーこの度、私のコレクションをご紹介できる機会をいただき、心より感謝申し上げます。

私が、古道具坂田(目白)を訪れたのは、30年ほど前になります。

不遜な言い方かもしれませんが、そこは、私にとって、お互いの力量を探り合う真剣勝負の場。初対面の際、坂田さんから 「君、本当にこの美しさが分かるの?」と言われ、必死に弁明したことは、忘れもしません。一見穏やかそうな坂田さんですが、

実は、熱く頑固な方。そして、覚悟を持って骨董に対峙しておられたように思えます。私にはその姿勢も魅力的でした。

やがて、坂田さんが扱う品々の中で、特に私が共感できた「ピュアなもの」、「静かで内に秘めたもの」、「枯れはてたもの」を、 「この品を理解できるのは自分が一番だ」という想い、妙な確信をもって、少しずつ買い集めていました。

未だ想いは残りますが、「年齢を考え、次の方に引き継ぐのが私のまた使命」と思い、オークションに託すことにしました。

ちまたに古いものは溢れ、食傷気味の方は多いかも知れません。今般のオークションが契機となり、これらの中から拾いあげた 「坂田さんの眼」、その背後に隠れた「坂田さんの生きざま」を感じとっていただけたなら、私にとって、これ以上の幸せはありません。ーー吉澤 宏隆


▪️「The H.Y. Collection: Assembled from Furudougu SAKATA」



プレビュー

会期 : 2026年3月11日(水)- 3月14日(土) 時間 : 11:00 - 20:00

(最終日のみ17:00まで) 会場 : SAI

住所:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前 6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F

オークション

会期 : 2026年3月15日(日)

時間:START 13:00 - (OPEN 12:30- )

会場 : SAI

住所:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前 6-20-10

RAYARD MIYASHITA PARK South 3F


●ABOUT NEW AUCTION


INTRODUCTION:

2021年6月、東京の文化発信地である原宿を拠点に新たなアートオークションハウス 「NEW AUCTION」 がスタートしました。 私たちは従来のアートオークションという枠組みに縛られることなく、 新しい体験、 新しい価値観を提供することを目的とし、 オークションの可能性を、 原宿から世界に向けて拡張していきます。

 

APPROACH:

NEW AUCTIONでは、またアートマーケットの持続的な循環を促すための「アーティスト還元金」 の仕組みを導入している日本唯一のオークションハウスになります。 ご落札された作品の著作権者に対してアーティスト還元金を独自にお支払いすることで、NEW AUCTIONを通じた取引が少しでもアーティストの支援に繋がることを目指します。

NEW AUCTIONでは、国内外の様々なコレクターやギャラリー、ディーラーと独自のネットワークを構築すると同時にファッション、カルチャー、建築、食、インフルエンサーなど業界を超えたチームとの連携を積極的に取り入れ、作品を最大限にプロモーションいたします。


Le Makeupが久々の新曲「はじまり」をリリース、2026年をスタートした。今年はリリースやライブを精力的に行う予定だという。環ROY、鎮座DOPENESSなどと並んで注目すべきビートメイカーのひとり。


Le Makeupは大阪の街が輩出した個性的なプロデューサーだ。J-POPを思わせるモダンなポップソング、ヒップホップをベースにしたローファイなど、多角的な音楽を取り入れるシンガー/プロデューサー。その個性的なサウンドは、大阪の街の雑多性を反映している。楽曲に感じられるほのかなエモーション。それは大阪、いや、日本全国津々浦々によくある風景とリンクする。


最近はソロリリースにとどまらず、テレビ東京のドラマへの楽曲のリミックス/プロデュース、NHK-FMの番組への楽曲提供、また、リミックスなどを通じて柴田聡子、Elle Teresaとのコラボレーションを行ってきた。アジアにとどまらず、ヨーロッパでのステージをこなし、活躍の場を広げてきた。


本日、リリースされるニューシングルは文字通り、ル・メイクアップにとって2026年の出発の合図となる。ギター、シンセ、オートチューン/ボコーダーのボーカル、ヒップホップビートが重層的に折り重なり、それまで曖昧に過ぎなかった自己と世界を繋ぐ明瞭な橋がかたちづくられる。


詩情溢れる歌詞にも注目したい。車窓に映る自分の等身大の姿、そこから世界が膨らんでいき、他者への想いへと繋がり、パーソナルな視点からパブリックな視点へと移ろい変わっていく。ランタイムごとにラウンドスケープが変化していく不思議な感覚があり素晴らしい。ル・メイクアップは日々、自分の現在地をアップデートさせ、軽快なサウンドをファンのもとに届ける。



▪️Le Makeup「はじまり」



Digital | PURE011  | 2026.02.06 Release

Released by AWDR/LR2

[ https://ssm.lnk.to/hajimari ]


Le Makeup、久々の新曲。リリースやライブを精力的に行う予定の2026年、スタートを感じさせる「はじまり」。


印象的なミニマルなギター/シンセにブレイクビーツ、感情や自己を投影するリリックが融合したミニマル・アンビエント・ポップ。本楽曲は、NHK-FM「ミュージックライン」の2・3月度エンディングテーマにも起用されている。


▪️EN

Le Makeup, a new track after a long hiatus.“hajimari (The Beginning)” signals the start of 2026, a year planned for vigorous releases and live performances.


A minimal ambient pop track where striking minimal guitar/synth and breakbeats fuse with lyrics projecting emotion and self.This song has been selected as the ending theme for NHK-FM's “Music Line” for February and March.


作詞・作曲・編曲:Le Makeup

ギター、シンセサイザー、プログラミング、ミックス:Le Makeup

マスタリング:木村健太郎 (Kimken Studio)

アートワーク:Le Makeup

アーティスト写真:佐藤麻優子


Le Makeup:


シンガー/プロデューサー。関西学院大学在学中に作曲へと本格的に取り組みはじめ、以降国内外の様々なレーベルから作品を発表する。2020年にアルバム「微熱」をリリース。中国・韓国・オランダ・デンマーク・ドイツでもパフォーマンスを行う。


2023年2月にDove、gummyboy、JUMADIBA、Tohji、環Royが参加したアルバム「Odorata」をリリース。Pitchforkで取り上げられるなど話題となった。


2024年5月にオノ セイゲンがマスタリング・エンジニアとして参加したアルバム「予感」をリリース。東京・大阪で初のワンマン公演「予感」を行った。


▪️EN

Le Makeup is a japanese Singer/Producer/Beatmaker. He began seriously pursuing composition while attending  Kansei Gakuin University(Hyogo), subsequently releasing works on various domestic and international labels. In 2020, he released the album “Binetsu” After that he's performed in China, South Korea, the Netherlands, Denmark, and Germany.


In February 2023, he released the album ‘Odorata’ featuring contributions from Dove, gummyboy, JUMADIBA, Tohji, and Tamaki Roy. It garnered attention, including coverage by Pitchfork Magazine.


In May 2024, Le Makeup released the album ‘Premonition’ with Seigen Ono participating as mastering engineer. Held his first solo concerts, titled ‘Premonition’, in Tokyo and Osaka.

Weekly Music Feature:  John Cragie

 Photo: Bradly Cox

未知の才能と出会ったとき、大きな感動を覚える。今週紹介するジョン・クレイグのそのひとり。アメリカのシンガーソングライター、 John Craigie(ジョン・クレイギー)は人々を惹きつける音楽を作り続けてきた。彼の歌には理想的なアメリカの歌の魅力があり、そしてロマンやワイルドさもある。何よりクレイグの音楽はアメリカのローカルな魅力に満ち溢れていて本当にクールだ。


本日、フィジカルとデジタルで発売されるクレイギーのスタジオ・アルバム『I Swam Here』は、2025年1月にニューオーリンズで録音された。本作の大半は、ザ・デスロンズのサム・ドアーズが厳選したミュージシャンらがクレイギーを支えている。 ピアノ、オルガン、ボーカルを担当する彼と共に、ドラムにハウ・ピアソン、ベースにマックス・ビエン・カーン、ペダル・スティールにジョニー・カンポスを迎え、1曲ではデズィレ・キャノンがボーカルで参加している。


クレイギーがプロデューサーを務めたが、長年の友人で共同制作者であるアンナ・モスはほぼ全曲に参加している。ニューオーリンズで録音された10曲中7曲には、現地ミュージシャンの影響と才能が滲む。 次いで、 残りの曲は、数か月後にオレゴン州アストリアにあるロープ・ルームで、別のバンドとともに、ニューオーリンズでのセッションの美学を引き継いでレコーディングされた。それはツギハギではないアコースティックの生々しい録音の魅力という形にあらわれ出ている。また、ニューオーリンズに住んだ経験のある B. シャルが描いたカバーアートも粋だ。50年代および 60年代の多くのサンバやジャズのレコードのスタイルとデザインを反映している。


アルバムのファーストシングル「Fire Season」は、長年の協力者であるバート・バドウィグがエンジニアを務めた。この曲は、本プロジェクトのために最初に書かれた曲。アストリアで、クレイギーが『Mermaid Salt』で仕事をしたクーパー・トレイル(ドラム)とネバダ・ソウル(ベース)が再び参加して録音された。また、ルーク・イストシー(ベース、ブラインド・パイロット、マイケル・ハーレー)とジェイミー・グリーナン(ペダル・スチール)も参加しています。


さらに2ndシングル「Dry Land」は、別の道を進んでいる。録音の拠点のニューオーリンズで最初のバージョンを録音したものの、クレイギーはテンポが気に入らず、不必要な長いブリッジをどうにかする必要があった。数か月後、アストリアでピアノのラインと弓で弾くアップライトベースを変えて再録音した。


3rdシングル「エドナ・ストレンジ」はマーティ・ロビンスの楽曲や西部劇のガンマン・バラードに着想を得たという。クレイギーがスチール弦アコースティックを弾く唯一の楽曲で、マックス・ビエン・カーンがナイロン弦ギターのリードを担当。アンナ・モスのボーカルが入らない数少ない曲の一つであり、バックで聴こえる男性トリオのボーカルでマーティ・ロビンスへのオマージュが捧げられた。


2024年の『Pagan Church』——TK & The Holy Know-Nothingsとの絶賛され、アメリカーナ・アルバムチャートで6週連続1位を記録したコラボレーション作に続く本作は、クレイギーのミュージシャンとしての最盛期を捉えた作品といっても過言ではあるまい。ガルフコーストの音楽史と太平洋岸北西部の静かな自然音から着想を得て、広がりと親密さを併せ持つ作品となっている。


Forest Grove, OR


ジョン・クレイギーの音楽は、スタジオの枠を超えて共鳴し続けている。米国、欧州、オーストラリアでのソロ/バンドツアーは毎回満員となり、ニューポート・フォーク・フェスティバル、ピカソン、エドモントン・フォーク・フェスティバル、ハイ・シエラなどに出演している。ラングホーン・スリム、ブレット・デネン、シエラ・ハル、グレゴリー・アラン・アイザコフ、メイソン・ジェニングス、ベラ・ホワイト、ジャック・ジョンソンらと共演を重ねている。


また、ミュージシャンの慈善的な活動にも着目したい。毎年恒例のKeepItWarmツアーでは、チケット1枚の売上ごとに、1ドルが地域の食料不安対策に取り組む非営利団体に寄付される。また、カリフォルニア州トゥオルミ川やオレゴン州ローグ川で行われる「ジョン・クレイジー・オン・ザ・リバー」ツアーは、ファンや友人たちにとって唯一無二の集いの場となっている。こういった草の根の運動こそ、彼のファンを増やし続ける要因ともなっているのは事実だろう。


『I  Swam Here』はニューオリンズやオレゴンの土地に根ざし、共同制作によって形作られ、ソングライター兼プロデューサーとしてのしたたかな手腕に導かれている。ニューオーリンズの精神と太平洋岸北西部の静けさが溶け合い、自身の限界を探求するアーティストの密やかな自信が滲む。



 ▪️John Craigie『I Swam Here』- Zabriskie Point Records



ジョン・クレイギーの最新作は、一般的に言われるアメリカーナの醍醐味を余すところなく伝える作品となっている。近年では、アメリカーナがインディーズロックやポップスの中にごく普通に組み込まれることになったが、また、同時にアメリカの持つアクのような部分を薄めてしまうことが多い。アメリカーナはファストファッションのように気軽に取り入れるものではなく、木が根を張り、幹を伸ばし、そして枝をつけ、可憐な花をつける長い年月を示している。

 

それらはもちろん、フォークやカントリーの系譜において、キャッシュ、ディラン、ヤング、ミッチェルを中心に育てられてきた一本のたくましい大木でもあるのだが、枝葉末節だけではアメリカーナの本質を表すとは到底言えそうもない。その点において、グレイギーは、現代的なフォークシーンの中で最も強い幹を持ったミュージシャンだ。Lord Huron(ロード・ヒューロン)のような現代的なフォーク/カントリーのシンガーソングライターと並んで、強固なオリジナリティを持っている。彼のサウンドはときおり、ビング・クロスビーや西部劇のような古典的なサウンドの妙味を持つが、それらは時を越え、2020代に生きる私達の心にすんなり浸透してゆく。

 

今回のアルバム『I Swam Here』は音質が非常に良く、その艷やかな音の質感は、レコードの品質に近い。アコースティックギター、ささやくような歌唱から、包み込むように優しげな歌唱、そしてジャズや歌謡的な音楽に見いだせる楽器で作られたムードのあるアンビエンスに至るまで、強固な音楽的な世界が構築されている。フルアルバムとは、一つの強固な世界を意味し、それは文学や映像に視聴者が物語にがっつりと没入するように、音楽の持つ深層の世界に聴き手を潜りこませなければいけない。それはシリアスなものであれ、バカバカしいものであれ、絶対に必要な糸口でもある。これらがフィクションの醍醐味で、言ってみれば、現実的な世界を忘れさせる力があり、また、もう一つの並行する世界が実在することを証し立てるのである。

 

本作の音楽の中で、アコースティックギターに並んで強いベクトルを働かせるのが、ウッドベースのスタッカートを多用するベースラインだ。ジャズスタンダードの伝統的な音楽性を持ち込み、フォーク/カントリーと融合させる。それらの音楽の中には、ラグタイムジャズの範疇にあるピアノの旋律が華麗に駆け巡り、ノスタルジックな映画音楽のごとき世界観を形作る。

 

「Mermaid Weather」はミュージシャンが提示する音楽的な世界の序章でもあり、一連の物語の導入でもある。アルバム全体のイントロのように鳴り響き、それらが少し空とぼけるように歌われるボーカル、ブラシを使用したミュート効果を強調するドラム、また、ブギウギや歌謡の時代のロマンを反映させた、心地よいメロディーにより全体的な音楽が構築されていく。また、それらの音楽的な構成の中で、A-Bの楽節を対比させ、また調性を呼応させる。まるでやまびこのような曲のストラクチャーの中で、ムード歌謡のような雰囲気のある音楽を組み上げる。その中で、ハワイアンギターのように響くナイロン弦のギターが柔らかな雰囲気を生み出す。

 

「Fire Season」も同様に、ベースとドラムが連動し、「Stand By Me」のようなスタンダードなジャズソングのリズムの枠組みの中で、陶酔感のあるボーカルが温かい響きを作り出す。 リズムは時々、ボサノバのような南米音楽にも近いシンコペーションを作り、ノリの良いゆったりとしたリズムを作り出す。


また、この曲は、細野晴臣のボーカルを彷彿とさせ、『泰安洋行』の時代のサウンドを思い起こさせる。言うなれば、ワールドミュージックの音楽をセンスよく取り入れながら、ダイナミックなアメリカーナの曲に置き換えている。また、スティールギターは単体で鳴り響くだけではなく、オルガンとユニゾンを描くようにして、美しく穏やかな音楽的な空間性を作り出す。


また、全体的なリズムにも工夫があり、サンバの変拍子が全体的な拍に微分で組み込まれる。入り口こそ典型的なアメリカーナと思われたこのアルバム。しかし、意外なことに、少しずつその情景が移ろい変わっていくような感覚がある。また、サビの直前ではドラムフィルがざっくりと入っていき、心地よいリズムを生み出す。そして間奏の部分では再び、ウッドベースがスティールギターと美しく溶け合い、陶酔感のあるシークエンスを作り出している。この曲は、浜辺の風景を思い起こさせ、夕焼けと海のようなロマンティックな光景が音の向こうに霞む。

 

アンサンブルが際立つ序盤の収録曲の中で、「Follow Your Whisper」はアコースティクギターの弾き語り、つまりソロ演奏の性質が強まる。硬質なスティールギターで作り上げたシークエンスを背景に敷き詰めて、その音楽的な枠組みの中で気分良く紡がれるアコースティックギター、渋さを持つボーカル、その間に入るバスドラムのキック、これらが渾然一体となり、陶酔感があり奥行きのある崇高なサウンドを構築していく。また、ジョン・クレイギーはビートルズのカバーアルバムも制作していることからも分かるように、音楽的には60−70年代のポピュラーの楽曲の構成の影響を取り入れながら、見事なコントラストを持つ一曲に仕上げている。

 

これらは従来、フォークやカントリーそのものが形式主義の音楽から成立していることを踏まえて、新しく上記のジャンルの新しい構成を作り上げようという意図を汲み取ることができる。また、細かな音響効果にも気が配られ、シンバルを長く鳴らし、それらにエフェクトをかけ、メロディーの側面が強いこの曲にパーカッシヴな影響を及ぼしている。要するに、音ひとつひとつに細心の注意が払われ、それらはガラス細工のように精巧な音の作りになっている。さらに、それらのアンビエンス効果の多くはアコースティック楽器から作られているのである。

 

 

「Follow Your Whisper」

 

 

「Edna Strange」はシュールで風変わりな一曲であり、西部劇のサウンドトラックを思い起こさせる。砂漠、馬、カウボーイ、モーテル、果てしない国道など、お決まりの西部劇やガンマンの雰囲気があるが、この曲に個性的なダンディズムを添えているのが、ボブ・ディランを彷彿とさせるブルージーなクレイギーの歌声である。「風に吹かれて」のようなハードボイルドの世界。最終的には、ビング・クロスビーの音楽のような古典期なポピュラーソングに接近していく。


この曲で中心的な役割を担うスティールギターは、曲の雰囲気と良くマッチしていて、途中に使用されるエレクトリックギターのブルースの演奏の響きと上手く溶け合っている。また、他の曲よりも古典的なカントリーギターの影響が滲み出てくる瞬間もあり、ハンク・ウィリアムズやジョン・デンバーのような20世紀はじめのフォーク・ソングの源流を探し出すこともできる。この曲はジョン・クレイギーのボーカルが本当にかっこよくて、クールな雰囲気が漂う。


「Dry Land」は、ビートルズ直系のフォーク・ソングである。イントロのボーカルの節回しは明らかにビートルズを意識しているが、やはりその後の流れは少しずつ変化していく。アメリカーナのスティール・ギターとピアノの旋律が絡み合い、重厚な音楽世界を作り上げる。そしてその向こうから聞こえてくるクレイギーのボーカルは、まるで幻想的な砂上の楼閣の向こうに美しい情景が浮かんでくるような瞬間を捉えられる。また、ボーカルの重ね録りによって、アーティストが志向する平和で融和的な世界観が実現される。

 

「Call Me A Bullet」はフォークバラードの一曲で、やはり細野晴臣のボーカルを彷彿とさせる。ポップソングやヒット・ソングの定番の形を踏まえて、それらをオリジナリティ溢れる楽曲に仕立てている。クレイギーの楽曲は、全般的にも言えることであるが、宇宙の調和を大切にしていて、それは日常的な感覚からくる出来事と、壮大で神秘的な出来事の合致を意味する。


ここには音楽家の自然愛好家の姿が垣間見え、大きな、もしくは小さな自然と接するときに感じられる崇高な感覚が、美しいバラードに乗せて歌われている。音楽的にも、楽器のパートや全音の音域のバランス、また、倍音のような本来は意図しない音の残響に至るまで隈なく配慮され、一つに組み合わされ、調和的なハーモニーを作り出す。これらはどの音が心地よく響き、他のどの音が心地よくないのか、ミュージシャンとしての実地の体験の蓄積が滲み出たもので、単なる音楽理論や知識だけでは、まかないきれないものである。いわば、このアルバムの中心にあるのはミュージシャンとしてのみならず、一個人の体験や経験が表側にあらわれている。だから、このようなタイトルでさえも、ジョークに富んだ表現のように感じられるのである。全体的には、ニューオリンズのような米国南部の空気感が美しい響きを作り上げている。

 

しかし、同じようなタイプの楽曲を選ぼうとも、曲そのものはあまり似通うことがないのが美点だ。「Claws」はボブ・ディランやCSN&Yとならんで、最初期のトム・ウェイツの音楽性に近い。ブルースはもとより、ジャズスタンダードの影響を踏まえ、それらをフォークソングに昇華させている。 まるで観光者がミシシッピ川の近郊にあるニューオリンズのクラブにぶらっと入り、現地のバンドやミュージシャンの演奏を目撃する。そんなモーメントを思わせる。必ずしも、トム・ウェイツのようなシンガーが酔いにまかせて歌を実際に歌うとは限らないのだが、それに近い、酔いどれ詩人のような雰囲気に満ち溢れていて素敵だ。曲ごとに、時間が変化し、ある曲は朝の爽やかな光景、夕暮れ時の慕情があったかと思えば、この曲では夜の歓楽街のような扇情的な空気感が滲み出ている。これらの空気感と呼ばれるものもまた、実際の生活から汲み出されるもので、実際には音楽的な理論や作法だけで作り上げることは不可能である。

 

フォーク/カントリーというのは、ソロシンガーを中心に、デュエットの形式を通じて発展してきた。それは男性的なボーカルと女性的なボーカルの組み合わせでもある。「Mama I Should Call」は二拍子の簡素なデュエット曲で、フォーク/カントリーの重要なテーマである望郷(それらは戦時中には男女間の慕情へ変化し、戦後には反戦のような主題に変わることがあった)を引き継ぎ、ニュースタンダードを形作ろうとしている。カントリーのような音楽の主題であるトニック、ドミナント、サブドミナントを中心とする基本的な和声法の進行を通じて、またときどきジャズの和音を交えながら、スタイリッシュな感覚を持つフォークバラードに仕上げている。

 

最も深い瞑想的な音楽性が出てくるのが「I Remember Nothing」で、前の曲と繋がっているような感じである。ハモンドオルガンの向こうからエレクトリックギターの演奏が入り、ドアーズのような楽曲性を作り、同じように瞑想的なボーカルが美しい楽曲の展開を形作る。ボーカルの面にも注力され、ゴスペルのように荘厳なコーラスワークがメインのボーカルと組み合わされるとき、息を飲むような美しい楽の音が現れる。アルバムの終盤のハイライトとなりそうだ。

 

列車の汽笛を模したイントロのギターの余韻、そして古典的なジャズボーカルの世界を体現する「Don't Let Me Run Away」は聴いたあと、腑に落ちるような感覚がある。長いアーティストの旅を遠巻きに眺める感覚、それらはアルトサックスの船の汽笛を思わせる響きや、クレイギーの味のあるボーカル、そしてレコードの音質やノイズを体現させたようなサウンドにより培われている。とくにタイトルが歌われるとき、印象的な映画のワンシーンを見ている気分になる。


このクローズ曲には、ハモンドオルガンの古めかしい響き、そして、アメリカーナの典型的なスティールギターが混在し、重厚感のある音楽世界を構築している。聴いていてうっとりするような素晴らしいエンディング曲。それらはミュージシャンの人生の集約でもあるのだろうか。

 

 

 「I Remember Nothing」

 

 

 

92/100 

 


▪Listen/Stream: https://found.ee/JC-I-Swam-Here

 

▪︎ John Craigie HP: https://johncraigie.com/

 Lande Hekt  『Lucky Now』


Label: Tapete

Release: 2026年1月30日

 

 

Review

 

イギリスのシンガーソングライター、Lande Hekt(ランデ・ヘクト)は2022年のアルバム『House Without A View』以来の最新作『Lucky Now』を先週末にリリース。2022年のシングル「Romantic」を聴くと分かるように、パワーポップやジャングルポップを中心とする良質なソングライターで、甘酸っぱく切ないメロディーをさらりと書き上げる能力を持ち合わせている。『Lucky Now』は前作の延長線上に位置するアルバムで、良曲揃いのアルバムとなっている。

 

アルバムのサウンドは、インディーフォークやネオアコースティックが主体となっている。本作の冒頭曲「Kitchen Ⅱ」は、思わず口ずさんでしまいそうなキャッチーなフレーズ、どことなく懐かしい感じのするメロディーで満載となっている。ほどよく力が抜けたボーカル、そしてドラム、ベースと聞きやすさを重視したサウンドで、爽やかで軽快なオープナーとなっている。

 

タイトル曲は、同じくネオアコースティックに属するが、ランデ・ヘクト持ち前の甘酸っぱいメロディーセンスを活かした良曲となっている。これらのサウンドは、アズテック・カメラ、オレンジ・ジュース、パステルズ、ヤング・マーブル・ジャイアンツなど、このジャンルの代名詞となるグループを彷彿とさせるものがある。決して現代的なサウンドとは言えないけれども、独特な雰囲気の曲展開、そして柔らかな曲の雰囲気についつい惹き込まれてしまうことがある。


また、「Rabbits」などを聴くと分かる通り、The Undertonesのような北アイルランドのパンクバンドの影響を感じさせることもある。 そういった中、ギターに薄いフェイザーをかけたようなサウンドを中心とする「Favourite Pair of Shoes」は前半の一つのハイライトとなりえる。ボーカルメロディーの親しみやすさもさることながら、ギターワークに光る部分があるのに注目だ。『Lucky Now』は、純粋なボーカルアルバムというよりも、その向こうから聞こえるギターリフに一瞬のきらめきが込められている。ドラム、ベースというシンプルなバンド構成がそれらの曲をほんのり引き立てている。また、曲全体から感じられる叙情的な音楽性からはどのような風景が思い浮かべられるだろうか。曲そのものが何らかの換気力に富んでいるのにも着目したい。

 

そういった中で、インディーフォークに舵をとった「Middle Of The Night」は新鮮な響きが込められている。クリアな雰囲気の中で、美麗なギターのアルペジオ、そしてバンジョーのような響きが聞こえてくる。さらに、夜の澄んだ空のような神秘的な雰囲気が立ち上ってくることがある。ここには、ランデ・ヘクトの吟遊詩人的なミュージシャンの姿を捉えられる(かもしれない)。


パワーポップやジャングルポップの雰囲気で繋がる「Circular」は、おなじみの陰影のある曲調に、ザ・リプレイスメンツのようなサウンドが加わる。そしてそれらは、全般的なロックの文脈の中で行われ、依然としてキャッチーな曲調を維持している。また、ここでもサビ(コーラス)の最後の方で、チューブアンプを中心としたギターワークがキラリと光る。それはランデ・ヘクトのソングライティングの中で、ギターソロが大きな割合を占めることの証でもある。

 

 アルバムの後半では、さらにインディーフォークやネオ・アコースティックの性質が強まり、「My Imaginary Friend」ではレモンヘッズ、ザ・ポウジーズ、ヴェルヴェット・クラッシュにも比する甘酸っぱいメロディーが満載である。それらがセミアコースティックギターの演奏を中心にボーカルと合わさり、爽やかな雰囲気を呼び込む。今回のアルバムで少しわかったことは、ランデ・ヘクトのソングライティングは、物申すような自己主張的なサウンドではなく、控えめで抽象的なサウンドである。それが80年代から90年代にかけてのインディーロックやパワーポップと結びついている。それはまた続く「The Sky」にも共通する点であると思われる。

 

最終盤ではこれまでの主要な楽曲とは異なる雰囲気の曲が出てくる。異色ではあるが、良曲ぞろいである。「Submarine」、「Coming Home」などは、ビートルズやビーチボーイズのサウンドをパワーポップやジャングルポップの側面から再構築している。 特に、アルバムをしっかりと聴いたファンはきっと、「Submarine」が隠れた名曲であることに気づくはずだ。楽曲の構成は以前よりもダイナミックになっていて、より大きな構想を練っているような気配も感じられる。この曲でもギターソロがクールな箇所がある。2分以降を聞き逃さないようにしてもらいたい。


まだ、このアルバムで最終的な答えが出たとは言えないかもしれない。しかし、ランデ・ヘクトの音楽性はいよいよ核心に近づきつつある兆候を捉えられる。クローズ曲「Coming Home」は叙情的なサウンドで聴かせる箇所があり、フォークとロックの中間にある淡い感覚を見出せる。

 

 

 

78/100 


 

 「Submarine」- Best Track





▪️過去のレビュー


LANDE HEKT 『HOUSE WITHOUT A VIEW』


▪️リリース情報


LANDE HEKTが三作目のアルバム『LUCKY NOW』を発表。 1月30日にTAPETEよりリリース
©︎ Rachel Winslow


シカゴのピアニスト/作曲家、Gia Margaret(ジア・マーガレット)が2018年の『There's Always Glimmer』以来となる初ボーカルアルバム『Singing』を発表した。アコースティックピアノを中心に制作された前作『Romantic Piano』に続く待望の新作となる。アーティストは近年来日公演も行っている。


『Singing』の音楽は、沈黙の中で培った宝石細工師のような細部への繊細な感性を示している。「音を聴いて何かを感じる。だからこそ私たちは音楽に惹かれる。スタジオのあらゆる機材に深い感情的な愛着がある。各楽器には、私に特定の感情を抱かせる何かが宿っている」とマーガレットは語る。


『Singing』制作の過程は、そうした感覚一つひとつを信頼する方法を学ぶ旅だった。アルバムの一部はロンドンでFrou Frouのガイ・シグスワースと共に録音され、彼がマーガレットの奔放なアイデアを統合する手助けをした。  


次作には声楽の魅力が凝縮されている。ILĀによるグレゴリオ聖歌やターンテーブルのスクラッチなど、数多くの要素が込められいる。 またデイヴィッド・バザンとエイミー・ミラン、カート・ヴァイルとショーン・キャリーも参加。マーガレットの長年の共同制作者ダグ・サルツマンは本作の大半で演奏と共同プロデュースを担当。ザ・ウィーピーズ出身のデブ・タランは、アルバムの締めくくりであり決定的な声明とも言える「E-Motion」に歌声とピアノ、ギターを提供した。 


「こうしたコラボレーター(今は友人)との出会いの多くは、まったくの偶然の産物でした」とマーガレットは語る。 「まるで彼らが私の中に何かを感じ取ったかのよう。それは確かに、そもそも彼らに影響されたものだったと思う」しかし彼女が言うように、他のアーティストに音楽を開放しようとした試みは「結局、自分自身へと戻ってきた。なぜなら、私は本当にプロデュースが好きだと気づいたから。自分でそれらを探求しないことで、何かを見逃している気がした」


ジア・マーガレットは過去に声帯を痛め、シンガーとしては厳しい状態に立たされたものの、前作で自信を取り戻し、ボーカルアルバム『Singing』で復活を遂げる。先行シングル「Everyone Around Me Dancing」はピアノとエレクトロニックのビート、ボーカルを掛け合わせた優美な一曲。同楽曲はキャサリン・ロメディコ監督によるミュージックビデオが同時公開された。


「Everyone Around Me Dancing」


Gia Margaret 『Singing』


Label: jagujaguwar
Release: 2026年4月26日


Tracklist:

1.Everyone Around Me Dancing

2.Cellular Reverse

3.Alive Inside

4.Moon Not Mine

5.Rotten

6.Rotten Outro

7.Good Friend

8.Phenomenon

9.Ambient for Ichiko

10.Phone Screen

11.Guitar Duo

12.E-Motion


ニューヨークの作曲家/シンガー、Mitskiが2月27日、Dead Oceansよりニューアルバム『Nothing’s About to Happen to Me』をリリースする。本日、同作のセカンドシングル「I’ll Change For You」を公開した。ミツキの新アルバム『Nothing’s About to Happen to Me』が2月27日、Dead Oceansよりリリースされる。また、世界規模のツアー日程も発表された。


Nothing’s About to Happen to Me』では、ミツキが荒れ果てた家に閉じこもる女性を主人公とした豊かな物語に没入している。 家の外では彼女は異端児、家の中では自由。レキシー・アレイ監督、レナ・ジョンソン編集による「I’ll Change for You」のミュージックビデオは、この世界を拡張し、アレイが撮影したアルバム写真で提示されたタンジー・ハウスの混沌とした散らかった宇宙へと深く踏み込む。


ミツキは『Nothing’s About to Happen to Me』の全楽曲を作詞作曲し、全ボーカルを担当。パトリック・ハイランドがプロデュースとエンジニアリングを、ボブ・ウェストンがマスタリングを手掛けた本作は、『The Land Is Inhospitable and So Are We』(2023年)で確立された音楽的路線を継承し、『The Land』のツアーバンドによる生演奏とアンサンブルアレンジをフィーチャーしている。 オーケストラはサンセット・サウンドとTTGスタジオで録音され、ドリュー・エリクソンが編曲・指揮を担当、マイケル・ハリスがエンジニアリングを担当した。


ミツキは『Nothing’s About to Happen to Me』を世界各国の主要都市で披露し、主要会場でのレジデンシー公演を実施する予定。


ミツキの常連コラボレーターであるパトリック・ハイランドがプロデュースとエンジニアリングを担当した「Nothing's About to Happen to Me」は、ボブ・ウェストンによってマスタリングされた。ミツキはアルバムの全楽曲を作詞作曲し、全ボーカルを自ら担当。ツアーバンドがバックを務めた。また、ドリュー・エリクソンが編曲・指揮、マイケル・ハリスがエンジニアリングを担当したオーケストラとのレコーディングをサンセット・サウンドとTTGスタジオで行っている。


「I'll Change For You」

九段ハウス/東京・千代田区 ©︎Martin Margiela


登録有形文化財・九段ハウスにて、アーティストとして活動するMartin Margiela(マルタン・マルジェラ)の日本初となる大規模個展「MARTIN MARGIELA AT KUDAN HOUSE」を開催いたします。

 

1927年竣工の歴史的な邸宅という空間に、現代美術作品を展示するというコントラストに、Margielaは強い関心を寄せています。本展では、邸宅全体を舞台に、数多くの作品が儚くも一時的なインスタレーションとして展開されます。


 

・ABOUT THE EXHIBITION


Martin Margielaは、再利用、分解、変容といったテーマへの探究を継続しており、その創作において人間の身体は今なお重要なインスピレーションの源であり続けています。


Margielaの作品は、日常の中にありながら見過ごされがちな物や状況への鋭い観察から生まれ、平凡なものが非凡なものへと転化していきます。


本展では、コラージュ、絵画、ドローイング、彫刻、アッサンブラージュ、映像作品など、多様な技法による作品を紹介します。


生活の痕跡が残る古い邸宅に作品を設えるという選択は、Margielaにとって大切な「私的な空気感」を反映するものです。


来場者は、邸宅全体に広がるさまざまな部屋を巡りながら、極めて親密な距離感の中で作品と向き合う体験へと招かれます。


なお、展示構成およびキュレーションは、すべてアーティスト自身によって手がけられています。

 

・FROM THE ARTIST


「匿名性は、私の創造の自由にとって不可欠なプライバシーを守るために必要なものです。

ファッションの時代と同じ興味や強迫観念を、私は今も持ち続けていますが、人間の身体はもはや唯一の表現媒体ではありません。」


「私は常に観察者であり、日常的な物や状況から強いインスピレーションを受けています。

今日ではさまざまな技術的サポートを用いることが当たり前になっていますが、私は可能な限り、手仕事のプロセスを見せることにこだわっています。それが、不完全さやパティナ、未完成の美に対する私の深い愛情につながっています。」


「私は答えを示すよりも、問いを投げかけたいのです。」


・ABOUT THE EXHIBITION VENUE


本展の会場となる九段ハウスは、1927年に竣工したスペイン様式の洋館を改修した、会員制ビジネス・イノベーション拠点です。旧山口萬吉邸として知られ、現在は登録有形文化財に指定されています。


本年4月、Martin Margielaはこの場所において、かつての家族邸宅が持つ私的で親密な空気感を蘇らせることを選びました。


九段ハウスを訪れたMargiela自身もその佇まいや空気感に強い共鳴を覚えています。


2000年、彼は東京・恵比寿の歴史ある邸宅に、世界初となる「Maison Martin Margiela(メゾン マルタン マルジェラ)」の店舗をオープンし、浴室やキッチンを含む邸宅全体にコレクションを展示しました。


そして四半世紀を経た2026年、再び東京へと戻り、同じく歴史的な邸宅である九段ハウスで作品を発表することを選びました。


「再び東京に戻り、1927年に建てられたこの家で作品を見せられることを嬉しく思います。2000年のときと同じように、来場者が各部屋の親密な空間の中で作品と出会い、驚きを感じてもらえることを願っています。」 -Martin Margiela 

・SELECTED WORKS



・ABOUT THE ARTIST : Martin Margiela

1957年 ベルギー・ルーヴェン生まれ

1980年 アントワープ王立芸術学院卒業

1984–1987年 Jean-Paul Gaultier(ジャン=ポール・ゴルチエ)(パリ)のアトリエでデザインアシスタントをスタート

1988年 Jenny Meiren(ジェニー・メレンズ)とともにパリで「Maison Martin Margiela(メゾン マルタン マルジェラ)」を設立、初のショーを発表

1997–2003年 「Hermès(エルメス)」(パリ)ウィメンズ クリエイティブ・ディレクター

2008年 20周年ショーを機にファッション界を離れ、ビジュアルアートに専念

2019年 Bielefeld Kunsthalle(ビーレフェルト美術館)にて初のグループ展

2021年 パリのLafayette Anticipations(ラファイエット・アンティシパシオン)にて初の個展

2022年 同展が北京・MWoods(エムウッズ)に巡回

2023年 同展がソウル・Lotte Museum of Art(ロッテ美術館)に巡回

2023年 アムステルダム・Eenwerk Galleryにて個展

2024年 ブリュッセルおよびアテネのBernier / Eliades Galleryにて個展

・EXHIBITION DETAILS

会期:2026年4月11日(土)- 2026年4月29日(水)

開館時間:10:00〜19:00(最終入場18:00)

※2026年4月29日(水・祝)のみ最終入場16:00、閉館時間17:00

会場:九段ハウス

〒1020073 東京都千代田区九段北1-15-9

観覧料:一般 2,500円(税込)

チケット購入オンラインサイト:

https://artsticker.app/events/103820

【クレジット】

主催:原田 崇人(rin art association)

共催:kudan house

協力:Bernier / Eliades Gallery

 Gallery NAO MASAKI

Taka Ishii Gallery

協賛:株式会社ジンズホールディングス

制作:黒瀧 紀代士

Kornieieva Varvara

黒瀧 保士

   

制作協力:

株式会社 アートコア

株式会社 原人社

ハイロックデザインオフィス

糟谷 健三

 

ウェブデザイン・制作:

Thought. / SA .