レイキャビクの音風景 amiina 「THE LIGHTHOUSE PROJECT」

amiina  「The Lightning Project」


アイスランド、レイキャビク発の四人組アーティスト、アミナの良さを端的に表現するならば、その音楽性が可愛らしいおとぎ話のような幻想性を有しており、そして、幅広く雑多な楽器の音響性、どういうふうに音が伝わるのかという特質、オーケストラレーションにおいての管弦楽の基本をしっかり踏まえた上で、それらの楽器を実に巧みに使いこなしているところでしょう。

アミナは同郷の「Mum」にも通じる部分のあるエレクトロニカ・アーティストです。しかし、雰囲気自体は似ているところもあるかもしれませんが、実際聴くと、全然異なる音楽性であることがよくわかります。ムームに感じられるようなロック色は全くなく、このEPをはじめ、彼等の演奏の中で展開されていくのは、絵本にある童話をおもわせるような、とても自然なサウンドスケープです。

アミナの奏でる音楽性は、ポストロックというより、そこから枝分かれしたフォークトロニカ、トイトロニカの分類がなされるでしょう。

特徴的なアクのある声質をバンドの表情とし、電子音楽の印象が強いムームと比べると、ハンドメイドのクラフトを眺めているような素敵な趣きがあります。彼等は、メロトロン、アイリッシュハープ、バイオリン、アコースティックギターと、さまざまな楽器を面白く演奏している点で、ケルト音楽、セルティック的な古典性を感じさせながらも、現代においても全く古びることのない実験的な音楽性を擁しているのが侮れないところでしょう。

 

今回、ご紹介するのは、アミナのEP「The Lighthhouse Project」。他のアルバムも良いのがありますが、楽曲を通して気楽に聴けるという面では、このEPが彼等の作品では随一といえるでしょう。

 

とりわけ、アミナが使用している楽器の中で興味深いのは、テレミンという楽器。

これは、機械の両側に細長い銀色の振動針のようなものが取り付けられており、演奏者がその中央に手をかざし、指揮者のように手を慎重に上下に揺らしながら、音階と音調をコントロールする必要があり、その様子というのは何かしら小型の通信機器を操作しているような面白みがあります。

そして、このテレミンという楽器の「ホワーん」という響きが非常に哀愁が漂っていて、このアミーナの唯一無二の特色となっており、他のアイスランドのバンドよりもはるかに幻想的な個性を色濃く引き出しています。

そして、このテレミンという楽器の独特な揺らぎのある「ホワーん」という独特なトーンの印象が、たとえば、レイキャビクの港近くを吹き荒れる潮風の冷たい流れの音、海辺の岩を打ち付ける波の爽やかな音。

そういった音風景を脳裏に思い浮かび上がらせ、そこにまた、旋律に、哀切な叙情性のあるニュアンスがそっとやさしく添えられているというのが、このアミナというアーティストの奏でる音楽の特色といえそうです。

 

今回はアルバムではなく、EPなので、非常に簡単ではありますが、曲紹介をしておこうと思います。

 

・「Perth」

落ち着いたギターの音色、メロトロンの上に流れてくるテレミンの響きというのは非常に美しい清流の流れに目をつぶって、その音にじっと耳を澄ましているかのようにも聞こえてきます。

このテレミンの独特の揺らぎが曲の全体の雰囲気を支配し、さらにそのテレミンの弦楽的な演奏の上に奏でられるアイリッシュハープの爪弾きを聴くと、アミナの持つ独特な可愛らしい神秘的な世界にいざなわれていくかのよう。

 

・「Hilli LightHouse versoin」 

アイリッシュハープの音色がとても心に染み渡ってくる優しい曲です。

その上に自然な形、それほど歌うというような感じではなく、ハミングするように乗ってくるコーラスというのも穏やかな気分にさせてくれます。

この楽曲も又、一曲目と同じようにテレミンがとても印象的です。 

その上に無駄な付加物を削ぎ落としたシンプルな装飾的な和音が添えられることによって、どことなく哀感がこもっていながらもキラキラした輝きのあるインストゥルメンタル曲。 

 

「Leathe and Lace」

一転して、少し涼味のあるギターフレーズからはじまり、途中ではテレミンの低いトーン、そしてバイオリン、ビオラの美麗な旋律、そしてトレモロの技法がこの曲をドラマティックにしていて、映画の印象的なワンシーンに使われて違和感のない楽曲。

 

・「Kola」

グロッケンシュピールのイントロからして、幻想的な森の中を歩いているかのような気分になります。

ここでも、雰囲気作りとして、テレミンがグロッケンの背後にアンビエンスを形作っていて、音のマッチングがよくあっています。

コレ以上はないというくらい、楽器の特徴をよく知っているがゆえに、その楽器の魅力が生かされています。なんともオルゴールのようなグロッケンの響きをずっと耳をすませていたくなるようです。 

 

・「N65°16,21 W13°34,49」

この最後の楽曲だけ、汽笛の音風景を表したかのような音楽性で、他の曲とは異なる独立した雰囲気をにじませています。一貫しておとぎ話のような世界に浸っていたところへ、ついに、その外側へと踏み出していって、海辺の灯台のような景色が開けた場所が眼前にたちあらわれる。

それはジャケットににあらわされているイルランドのレイキャビクの海岸の風景が現実味を持って迫ってくるかのよう。この曲で、聞き手は長いおとぎ話から解き放たれて、現実世界に舞い戻ってくることがかなうでしょう。

 

 全体的には短い曲で、聴いていたらあっという間に終わってしまうのが惜しくなるようなEPです。もちろん、作業用のBGMとしても、その効果を最大限に発揮してくれるでしょう。

 そして、アミナの奏でる音というのは、生楽器の演奏がひとつずつ丹念に縫い合わされているような印象がありますから、それほど音楽にくわしくない人にも、穏やかな音の楽しみをあたえてくれます。

それは彼ら彼女らのつむぐ音というのが、やさしく頬を撫でる夏のそよ風のように澄んでいるからかもしれません。大人でも子供でも、なんとなくアミナの良さはわかるでしょうし、そして心の中にある塵をも取り払ってくれる、いわば癒やしの効果もあります。

たとえば、曇りがちで、あまり気分がはれないような日も、このEPの音に耳をすましてみれば、さわやかな涼味をおぼえさせてくれ、なおかつ塞いだような心をもパッと晴れわたらせてくれることは請け合いでしょう。

 

「参考」

last.fm amiina バイオグラフィーhttps://www.last.fm/ja/music/Amiina/+wiki

テルミンとは MaderinElectron.com https://www.mandarinelectron.com/theremin/