Belle And Sebastian 初心者向けディスクガイド 「BBC Sessions」


 Belle And Seastian



ベル・アンド・セバスチャンは、スコットランド、グラスゴーの大所帯インディー・ロックバンド。

アコースティックギター、ドラム、ベースという基本的な編成に加え、トランペットやホルンといった管楽器、チェロ、バイオリンといった弦楽器の専門のメンバーが在籍していて、多彩な音楽性を魅せてくれるグループです。

彼等は、1996年、ジープスター・レコーディングスから「タイガーミルク」という素晴らしいギターロック作品で鮮烈なデビューを飾る。それから2021年に至るまで、イギリスの名門インディーレーベル「ラフ・トレード」に移籍したりしながら、継続的なリリースを今日まで重ねている。

ベル・アンド・セバスティアン、通称、ベル・セバのアルバムジャケットにはこれまでのリリースにおいて一貫した特徴的な共通点があり、必ず、人物がデザインの中に使用されていて、それがまったく、このグループのメンバーとは関係ない人物であるという点では、かのザ・スミスの映画俳優をアルバムジャケットに大々的に取り入れるアートワークの狙いと近い印象をうけます。

二十代のはじめに「The Life Pursuit」を聴いた時、この心あらわれるような歌声はなんだろうと、驚かずにはいられませんでした。このベルセバの支柱的な存在、ギターボーカルのスチュアート・リー・マードックは、スコットランドの教会で神父を務めている人物であり、その傍ら、音楽活動を始めたという異色の経歴を持つアーティスト。しかし、バンド活動においては、それほど説教臭いわけではなく、むしろトム・ヨークのようなロックスター然とした立ち振舞をしているのが、このリー・マードックのユニークな人柄の感じられるところなんでしょう。

日本でも、お坊さんをしている方が休みにロックバンドをやっているという事例を耳にしたことがありますけど、たぶんそれは限られた特例なんでしょう。宗派によっては、「ロックバンドなんぞやってけしからん!!」と、破門を食らうこと請け合いでしょう。そういったところでは、イギリスのお隣のスコットランドという国は音楽文化にたいしていくらか寛容な部分があるかもしれません。

さて、ベル・アンド・セバスティアンの名盤を選ぶのは非常に難しい。何しろこれまで二十数年のキャリアでスタジオ・アルバムだけでも二十近い数にのぼり、こまごまとしたシングルEP等のリリースまで含めると、五十近いとんでもない多作さ。その音楽性というのもデビュー時からベルセバ節ともいうのがずっと引き継がれ、内向的なアンニュイさもありながらも、なぜかしれずからっと元気になってくるような不思議さのあるのが、このギターロックバンドの特徴です。

彼等の入門編としては、ベル・セバのベスト盤的な意味合いの強い「 Push Barman  to Open Old Wounds」を聴いておけば間違いなしといえるでしょう。ベル・セバのやさしいアコースティックソングの音楽性を掴むのには、このアルバムが最適です。このアルバムには、彼等の名曲「Lazy Line Painter」「Photo Jenny」「Legal man」「Snow Graffiti」が収録されており、いい曲を聴くという面ではこのアルバムをまず渉猟しつくしておくとわかりやすいかもしれません。

しかし、このアルバムのみでベルセバのことを全部わかってもらったような気になってしまうと、それはそれでまずいっちゃあ不味いわけです。

ベストリイシュー盤というのは、あくまでそのアーティストの感じを掴むだけのアルバムであり、もちろんだいたいは、そのバンドの代表的な曲は最低限網羅されているはずです。しかし、ベスト盤のアルバムの全体を通して、長く音楽を大切に聴くという音のたのしみが損なわれもし、また、必ずしも、その人にとってのベスト曲が収録されているとはかぎらないからです。

もっというと、ベストアルバムにおさめられていない楽曲が、その人の人生のベストワンになったりすることがありますので、アーティストの入り口、そこで足取りをピタリととめないで、スタジオ・アルバムにひたすら突き進んでいって下さい。その道すがら、スタジオ・アルバム、シングルなどにおいて自分好みの一曲、誰も知らない曲を見つけたりする。これこそ音楽という果てしない荒野の跋渉の欠かさざる愉楽であり、誰も全然好きではない曲がその人のベストワンになることがあって、そこに音楽というものの真の価値、面白さ、旨味があるわけです。

そのあたりの考え方をこのベル・アンド・セバスチャンに当てはめるのなら、

 

・1st「Tigersmilk」

 

・2nd「If You're Feeling Sinister」

 

・3rd「The Boy with the Arab Strap」

 

それから、近年の名作「The Life Pursuit」へ向かっていくのが、ベル・セバ通になるための一番の聴き方かもしれません。

 

 

The BBC Sessions 1996

 

 

 

そして、ここでひとつ、彼等、ベル・セバの補足的な名盤としてご紹介したいのが、 「BBC Sessions」です。

このBBCセッションというのは、レッド・ツェッペリン、ジミ・ヘンドリックスの時代からの伝統的な古い歴史を持つライブセッション。これは、英国近辺の良質なアーティストは必ず乗り越えねばならない登竜門ともいえ、そして、ここに、そのバンドの真の実力的なものが嫌というほど露呈してしまう放送向けに録音された音源。実は、このBBCセッションにはかなり名盤が多いです。

そして、このベル・アンド・セバスチャンの「The BBC Sessions」もまた名盤の一つとして数えられ、個人的なアルバム全体の印象から感じられる曲のタイトさという側面において、彼等の最高傑作のひとつに挙げておきたい。

 

一曲目の「The State I am In」のイントロの雰囲気、そして、すっと息が漏れるように歌われるスチュアート・リー・マードックのアコギを奏でつつの歌声からして、鳥肌が立ちそうな感じがある。

そして、その上に乗ってくるアナログ・ディレイのギターの音色というのも、非常に麗しくみずみずしい色彩を加えている。ドラミングというのも、少しミュート感を出すためにドラムの側面を上手く使っている。コーラスの雰囲気というのも心地よく、これらの要素がすべて絶妙に合わさり、良い空気が醸し出されている。アウトロのリーの線の細い歌声というのもこれ以上なく切ない味わい。

続いて、二曲目の「Like Dylan in the movie」の引き締まったドラミングからはじまるノリノリの曲展開というのも良い。しかし、そこに一抹の哀愁のよう雰囲気が漂っているのがいかにもベル・セバ節といえるもの、しかもその味がしっかり生演奏によって引き出されている所が本当に素晴らしい。

また、「Lazy Jane」では、アルバムバージョンのアレンジ演奏を聴くことができます。内省的な響き、叙情性に富んだ曲の運び方というのも良く、そこにハーモニカ、金管楽器がしっかりとアレンジメントで演奏されている。このあたたかで広やかな感じのあるフォークソングというのはおよそベル・セバにしか出しえない空気感でしょう。

また、彼等の名曲「Snow Graffiti」の切ないイントロは彼のバックグランドの神父的な表情をはっきり表している。心あらわれる曲というのがなんなのかというのは、この曲を聴いてもらえればはっきりと理解してもらえるはず。

ギターの癖になる玄人的なアップストローク、そして、ドラミングのリズムの刻みによって、何か雪の中の行進のように繰り広げられる美しい情景、そこに、フレンチホルン、ヴァイオリンの美しい響きが合わさり、また、そこに、リーの晴れやかで、清らかな歌唱というのは、ライブ演奏でしか味わえない素晴らしい雰囲気で、すべてのメンバーの個性がひとつの音を築き上げていく。

 

それから、この「The BBC Sessions」のリリースの面白いところは、ライブを収録したディスク2にあって、観客との掛け合いからはじまるザ・ビートルズのカバー「Here Comes The Sun」。

いかにもライブと言う感じの音合わせ、そして、MCからはじまり、カバーというよりも原曲をそのまま忠実に再現したような感じのあるこのベル・セバの演奏。それがさらにストリングスの高級感、分厚いコーラス。また、合間の手拍子によって美しく彩られている所がなんとも素晴らしい!! 

これは原曲を最大限の敬意を払ったがゆえ、ビートルズを超えた感じのある名カバーのひとつです。

また、もうひとつ、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの名カバー 「I'm Waiting for the Man」も聞き流せません。

ここでも原曲に最大限の敬意を払い、それに新たな妙味を付け加えるというのが、ベル・アンド・セバスチャン流の礼儀、品格であり、さらに、ここでは、ヴェルヴェッツよりもロック感がましているのが面白いところでしょう。

ボーカルにしろ、バックバンドのキレキレの演奏にしろ、演者がノリノリで心から楽しんで観客に向けて演奏している情景がはっきりと目に浮かぶような感じで伝わってくるという気がします。

このあたりの選曲というのが、ベル・セバなりの矜持で、「俺達はそこらの安っぽいロックバンドなんかじゅないんだぜ!!」というような彼等の強い意思表示が感じられte、そこにとても魅力を感じます。

 このアルバムには、若い人にとどまらず、耳の肥えたオールドロックファンの琴線にも触れうる何かが多く見いだせるはず。