1.バンドフライヤーの概念
バンドフライヤーというのは、ごく簡単にいえば、ロックバンドのライブ告知を知らせるための、主に紙の形式で展開されるチラシ媒体。
例えば、何月何日に誰彼というアーティストのライブがありますという際に、バンド名やライブの日程といった事項をわかりやすく告知し、一般の不特定多数の人々にバンド名自体の認知度を高める効果もあります。もちろん、それは主要なバンド名とともに併記されている他の無名のバンドの知名度を高める相乗効果もいくらか見込めるでしょう。
これらのバンド広告は、プロのデザイナーが手掛けたわけではなく、その多くはミュージシャンのハンドメイドによって作製されたものです。
これを、例えば、ライブハウスのフロア内の壁などに貼っておけば、その日の公演に訪れたファンが、何月何日にこのバンドのライブがあると確認し、その日のライブを事前にチェックしておく、そんな効果が期待できます。
もちろん、これはライブハウスの中だけでに留まらず、街角の壁に貼っておけば不特定多数の人々の目に止まりますので、適法性如何はここでは言及しないでおくとしても、それなりに宣伝効果が見込めるわけです。
こういったフライヤー文化というのは、のちに、雑誌上、もしくは独立したファンジン誌、フリーペーパーなどにおいて紙媒体として展開されていきました。それは紙媒体がデジタル化として移行しつつある現在でも引き継がれている形であり、例えば、ライブ会場のHPの掲載される公演の日程を銘記した情報というのも、いわゆるデジタルフライヤーという概念の範疇に入るでしょう。
2,バンド・フライヤーの発祥
個人的には、おそらく、ウッドストック、もしくはセックス・ピストルズをはじめとする初期のロンドンパンクスのバンドフライヤーを見かけたことがあるので、他のジャンルでは別としても、ミュージック業界で使用されはじめたのは七十年辺りが原初だろうと思っていましたが、どうやら思い違いであったようです。
よく調べてみると、ビートルズの66年のコンサートフライヤーがありました。ということは、このあたりの年代がバンドフライヤーの発祥だろうと思われますが、全くそれ以前に存在しなかったのか、もう少し調査する余地があるかも知れません。
一方、アメリカでは、とりわけ、パンクロックバンドに、このフライヤーというものが親しまれており、バンドの活動の背骨を支えてきたといってもいいでしょう。ベルベット・アンダーグラウンドあたりはすでに、非常にクールでスタイリッシュなバンドフライヤーを作成していました。
また、ニューヨークの有名ライブハウスのcbgbのフライアーにも、イギーポップ、ブロンディ、テレビジョン、トーキングヘッズ、ディクテイターズといったニューヨークパンクを牽引したバンドの名が見られます。
3.フライヤー文化の隆盛
このバンドフライヤー文化は70年代のロンドンパンクあたりになると、非常に個性的なデザイン性が出てきます。
凝ったフォントを取り入れ、厳しい雰囲気を醸し出してみたり、強烈な印象を与えるような写真をレイアウトの中心に収めたりと、デザイン性においても多様性が出てきます。
このバンドフライヤー文化は、とりわけアメリカのパンクロック・バンドに親しまれ、独特なカルチャーを形成していきました。すでに六十年代には、ヴェルベットアンダーグラウンドが非常にクールなフライヤーを作成していました。これは今でも通用するような洗練されたデザイン性を有しています。
また、ニューヨークの伝説的ライブハウスcbgbのフライアーもありまして、イギーポップ、ブロンディ、テレビジョン、トーキングヘッズ、ジョーイ・ラモーン、ディクテイターズあたりのニューヨークパンクを牽引した華々しいバンドの名が見られます。
また、のちに有名なミュージシャンとなるアート・リンゼイ擁するノー・ニューヨークのdnaの名も、cbgbのライブ日程のフライヤーに見られるところがなんとも興味深い。こういったフライヤーをぼうっと眺めていると、リアルタイムでは味わえなかった往年のニューヨークのミュージックシーンの熱気がフライヤー自体から読み取れるかもしれません。
それ以降も、アメリカのパンク界隈のバンドにはこの文化がかなり浸透していき、カルフォルニアのデッドケネディーズ、黒人のみで構成されたバッドブレインズ、もしくは、DC界隈の主要なハードコアバンドはハンドメイド感を全面に押し出し、そこに個性と思想性を打ち出すことにより、派手なフライヤー活動を展開していくようになりました。また、フガジなどのフライヤーにはマルティン・ルーサー・キング牧師の名も見られ、ここに思想と分かち難く結びついたビラとしての効果が見受けられます。
こういったフライヤーというのは、コレクター所有欲を駆り立てるものの一つでしょう。透明な額縁に入れて壁に飾りたくなるようなかっこよさがあって、愛好家からしたらたまらないものがあるかもしれません。
4、現代のフライヤー
これらの英国や米国のパンクバンドを筆頭に、独自展開されていったバンドフライヤーというのは、今日のミュージシャンにも引き継がれていきます。
それはたとえば、HP上の広告として、また雑誌中に掲載されているのも見られるかもしれません。例えば現代の私たちが過去のフライヤーを見て、なんとなくノスタルジアを感じるように、今日のバンドフライヤーというのも時が経てば、なんともいえない味が出てくるのかもしれません。
概して、ミュージシャンというのは音楽とメンバーのキャラクターばかりにスポットライトが当てられるように思いますが、今回はフライヤーといあ普段あまり取り沙汰されないような側面から音楽を見つめてみました。
あらためて自分の好みのバンドのフライヤーのデザインに着目してみると、また一味違ったバンドの良さ、楽しみ方が見出せるかもしれません。