American Grafitty soundtrack
巨匠映画監督、ジョージ・ルーカスといえば、まずはじめに多くの人は大作「スター・ウォーズ」を思い浮かべるはず。
しかし、彼の意外な一面、青春映画としての才覚が遺憾なく発揮されたのがこの映画、アメリカン・グラフィティです。
この映画は、とにかく、往時のアメリカの若者の甘酸っぱい青春を上手く切り取って、その淡い若いアメリカの白人社会の人間関係をものの見事に活写した作品。ストーリ的にも映像的にもなんら夾雑物のない美しいシンプルな映画というように称してもいいかもしれません。 主要な舞台となるカルフォルニアのメルズというきらびやかなネオンサインが印象的なドライブイン、そこに、女性ウェイトレスがいて、ローラースケートで店の中をくるくるせわしなく走り回って注文を運んでいる!あの様子というのはなんとも素敵でした。
アメリカン・グラフィティは、ストーリ性の魅力もさることながら、きわめて絵的に美しい映画です。 1962年のカルフォルニアが舞台であり、主要なストーリーとは別に、なんというべきか、クラシックカーのかっこよさ。そして、それが町中を走るシーン、これだけでうっとりしてしまう美麗さに富んでいるのがこの映画です。
ジョージ・ルーカスをはじめ、こういった大監督というのは、ストーリの運び方に無駄がなく、そして絵的にも、光と影の使い方、光の当て方、映画の専門用語でいうと、明度と暗度のバランスがきわめて素晴らしく、画面的に見ても、めちゃくちゃカッコいいんです。映像監督だから当たり前といったら当たり前なんでしょう。
仮に、音楽という表現方法が、音でひとつの独自世界を構築すると措定するなら、一方、映画というのは、映像でひとつの独自世界を築き上げられるか、その辺りが、作品の出来不出来というのを左右するのかなと勝手に思っています。正直なところ、私は、映画はそんなに詳しくないんですけれども、眺めているだけでうっとりなってしまう、なんともいいがたいような絵的な魅力のあふれる映画というのは、「アメリカン・グラフィティ」、もうひとつ、西ドイツ映画の「バグダッド・カフェ」くらいでした。まあ、もちろん、他にも探せば沢山あるんでしょう。
そして、このアメリカン・グラフィティは、ストーリ性、画面的な美しさ、この映画の3つ目の柱、土台を形作る礎ともなっているのが、この映画全編で一貫して流れているオールディーズというジャンルのロックミュージックです。
オールディーズという音楽のジャンルは、50〜60年代に流行ったロック・ミュージックの形で、ギター、ドラム、ベースという器楽編成に加え、いわゆるアカペラ、ドゥワップタイプの複数の混声のロックミュージックのジャンル。 チャック・ベリー風のスタンダードなロックナンバーから、ビーチボーイズの奏でるような甘ずっぱさのあるメロウなサーフロックまで多種多様です。
ビートルズや、ストーンズも、最初期のアルバムで、一度はこのあたりのドゥワップ的な風味のある楽曲を通過した後に、めいめいオリジナリティあふれるポップソングを生み出していきました。そのバンドもそういった意味では、始めは真似事から始まって、それから自分なりのスタイルを追求、のちになにかを発見していくわけです。
どうやらこのオールディーズという総体の呼称は、後になってからつけられたらしいですが、この辺りの音楽というのは、ロック、ブルース、R&B,ジャズ、コーラス、そういったニュアンスがごちゃまぜになっていて、白人も黒人もこぞって同じ音楽を目指していた数奇なジャンルのひとつ。この五、六十年時代という世界がこれから発展していく様相を映し出していて、明日の希望に夢を抱くような音楽家の感情がよく反映されています。
つまり、ある時代の雰囲気をあらわす鏡ともなりうるのが音楽のジャンルの流行であり、やはり、良い時代には明るい音楽が多く、悪い時代にはどことなく暗鬱な印象の曲が多くなるのかもしれません。それは作曲者の心の反映が音楽だからでしょう。全般的に、希望の満ち溢れる時代には、明るい音楽が流行し、絶望の多い時代は、暗い音楽が流行する。そんなふうにいっても暴論とはいえないかもしれません。
とにかく、今ではこういったスタイルの楽曲はなかなか見られず探すのが難しいタイプの楽曲が多いです。オールディーズというのは、それほど音楽的に高尚でもなければ、崇高でもないのに、なにか時折、無性に聞きたくなってしまう。反面、その楽曲の雰囲気から味わえる心の共鳴は、その音楽の質にかかわらず、非常に高尚であり、崇高となりえるでしょうし、上質で贅沢な時間を聞き手に与えてくれます。音楽自体の価値云々というのは、古典音楽とさほど変わらないはずです。
このアメリカン・グラフィティのサウンドトラックに収録されている楽曲は、そのほとんどが珠玉の宝石、つまり、ロックミュージックの歴史資料館というふうにっても過言ではなく、Bill haleyのロック音楽の金字塔、ロックアラウンドクロックからもガツンとやられること必至、クリケッツVer,のI'll be the dayのまったり感もいいですし、ビーチボーイズのサーフィン・サファリ、チャック・ベリーのオールモストグロウンもピアノのフレージングが渋く、良い味を出しています。
そして、ストーリの移行とともにサウンドトラックの楽曲の雰囲気も変わっていくのが興味深い所。なんといっても、ファイヴセインツの「To The Aisle」、スカイライナーズの「Since I Don't Have You」辺りのバラードソングの美しさは、甘く切ない若者たちの青春の雰囲気を上手く醸し出しています。
そして、物語の最後の方に進んでいくにつれ、このサウンドトラックも様変わりし、クリケッツのHeart and Soulをはじめ、収録曲の最初のトラックに比べるとメロウな印象のある楽曲が多くなってきます。
このあたりの選曲のセンスの良さというのは他の映画と比べても抜群です。最終盤のトラックはもうほとんどロックの王道をいかんとばかりで圧巻。
ブッカーTのグリーン・オニオンの激渋のロックも今聞くとむしろ新鮮みすら感じられ、また映画のクライマックスを彩るプラターズのオンリー・ユーのベタ感もむしろ愛くるしい。
そして、エンディングを華々しく飾っているのが、スパニエルズの「Goodnight, Sweetheart Goodnight」そして、ビーチボーイズの屈指の名曲のひとつ「All Summer Long」。このあたりはもう甘酸っぱすぎて切なくなり、胸がキュンキュンしっぱなしになることはまず間違いありません。
エンドロールに選ばれたビーチボーイズの楽曲は、アメリカの最も華々しい時代を象徴しているようで、他の年代のロックミュージックにはない青春時代のみずみずしさがあざやかに刻印されているような気がします。