キース・ケニフ ミステリアスな響き Goldmund「Sometimes」

Goldmund 「sometimes」


キース・ケニフは非常に多彩なミュージシャンで、Heliosというエレクトロニカのソロプロジェクトとして活動しているアーティストとして有名。一般的にはこちらのほうが知っている人が多いかなと思います。現在は、妻のHollieとともにシューゲイザーユニット、Mint Julepとしても活動しており、このユニットのリリースにも注目したい。

 

ケニフは元々、電子音楽を主体としたプロジェクトHeliosにおいて、「Eingya 」というアルバムで成功を収め、世界的にも有名なエレクトロニカアーティストの仲間入りを果たしました。メインでエレクトリックギターを使用し、民族音楽のエキゾチックなエッセンス、それとどことなく自然のおおらかさを感じさせるようなナチュラルな感じの美しいエレクトロニカを奏でています。

このGoldmundはキース・ケニフのサイドプロジェクトとして始動。Heliosのからりとした質感とはまったく対照的と言っていい、ケニフのヘリオスとは異なる仄暗い叙情性が垣間見れるプロジェクトです。

音楽性の方は、いわゆる、ピアノ・アンビエント、あるいは、ポスト・クラシカルの王道ド直球を放り込んでくるジャンルに属し、ニルス・フラームや、オラブルアーノルズが好きな人ならどストライクでしょう。

彼等二人と同じような音のニュアンスで、ピアノのハンマーをディレイやリバーヴで強調したサウンド面が彼の特色でしょう。

上記の二アーティストのようにケニフのピアノの演奏は静かな落ち着きと、そして叙情性を内面にはっきりとはらんでいます。

只、ニルス・フラームやオラブルアーノルズと異なるのは、このGoldmundのピアノ曲には危ういほどの陰鬱というか、甘美な雰囲気があたりに霧のように立ち込めていることでしょう。それは上記に引用したジャケットのミステリアスな雰囲気がそのままピアノ音楽として絶妙に表現されています。

「Sometimes」でひときわ目を引く点は、坂本龍一さんがゲスト参加している「A Word I Give」でしょう。

ここでは、坂本龍一らしい哀感のあるフレーズがリバーブによって音の奥行きが引き出されている。例えば、ギタリストのフェネスなどとのコラボレーションを見てもわかりますが、坂本さんは若手アーティストと共に演奏する時は、相手側の音楽性を尊重しつつ自分の個性を出していて、それが興味深い。

 

このアルバムには、まさしくGoldmund節ともいえる陰鬱でありながら甘美なピアノ曲が多く見られます、そっれはアルバムのジャケットを見ても分かる通り、ゴシック風の趣味を引き出したかったのかもしれません。

とくに、「Cascade」はゴシック風のピアノ曲といえ、独特な光輝を放っているように思えます。なんとなく暗い森のなかにピアノの旋律によって導かれていくような気分になることでしょう。

また、「The hidden Observer」もエキゾチックな音階を使った興味深い楽曲。ピアノの演奏の裏側に広がる妖しげなシンセサイザーのパッドが良い味を出しており、ピアノ・アンビエント、アンビエント・ドローンの代名詞的な楽曲と言えそうです。

只、もちろん、アルバム全体を見渡すと、暗い曲ばかりではなくて、一曲目の「As Old Roads」、「Sometimes 」、このあたりは少し明るめの曲目となっています。

そして、最終トラックの「Windmills」は、嬰児に聽かせるオルゴールのようなやさしさがあり、またどことなくノスタルジックな雰囲気がある秀作で、聴くとホッと一息落ち着けるように思えます。

「Sometimes」は、アルバム全体を通して非常に落ち着いていて、 ジャケットに提示されているイメージをそのままピアノ曲として表現したかのようなミステリアスな雰囲気が充溢している絵画的な作品といえ、また少しくストーリ性の感じられる楽曲群となっています。

もう一作のアルバム「The malady of Elegance」とともに Goldmundの入門編としてもおすすめしておきます。