ブロードウェイの哀愁 Goo Goo Dolls 「Dizzy up the Girl」

Goo Goo Dolls 「Dizzy Up Girls」


ニューヨーク、ブルックリン発のロックバンド、グー・グー・ドールズ。元は三人体制、いわゆるスリーピースでしたが、今は、ドラマーのジョージ・トゥトゥスカが脱退。現在、正式なバイオグラフィーとしては、二人組のロックユニットということになっているようです。

ギター・ボーカルのジョン・レズニックは、どことなくジョン・ボン・ジョヴィに近いハスキーで渋い低い声質をしていながら、ハイトーンもなんなくこなしてしまうというボーカリストとして最良の性質を擁しています。

このバンドの音楽性というのは、どことなくボン・ジョヴィに近いものがあります。けれど、かのバンドがニュージャージーの緑豊かな住宅街にあるような美しい自然のニュアンスを思わせる壮大なバラッド曲が多いのに対し、このグー・グーは1990年代辺りの、およそブロードウェイを思わせるような、都会的に洗練された紳士的ニュアンスあふれる音楽を奏でている印象をうけます。

 


彼等はまた、1980年代から現在まで、ボン・ジョヴィとともに、これぞまさしくアメリカン・ロックだというべき、良質な音楽をリスナーの元に届け続けてくれています。

なぜかしれませんが、同じくらいの良質な音楽性を有していながら、アメリカン・ロック界でのエアロスミスと、ボンジョヴィの知名度にくらべて、このグーグーは、それほど上記の二つのバンドに比べると、ここ日本ではあまり知られていないバンドといえるのではないでしょうか。

しかし、ロック・バラッドというジャンルにおいては、他のアメリカのバンドと比べても随一の完成度を誇るバンドで、先月の十六日、ワーナーから四曲入りのEP「EP21」がリリースされ、そこでも相変わらず美しいバラッドを聞かせてくれています。これまでにはあまりなかった要素、例えば、シンセサイザーのシークエンスも加わり、そこでは壮大な世界観が展開されいていて、以前よりグーグーという存在は早い速度でグングン進化してきているように感じられます。

グーグードールズは、彼等の代名詞的な作品ともいえる「A Boy Named Goo」においてセールス的にも大成功を収めましたが、次の作品「DIzzy Up Girl」では前作のスタンダードなハードロック色はなりをひそめ、代わりに、良質な大人向けのAOR色の強いバラードを展開しています。

このアルバムに収録されている「Black Balloon」や「Iris」において、彼等はロック・バラードという形の新たな境地を開拓したといえ、これまでにはなかった渋みのある都会的に洗練されたメロディーセンスを押し出していきました。

この二曲には、今までの路線とは異なり 、しっとりとしたバラードソングがレズニックのハスキーなヴォーカルによって情感たっぷりに歌われています。彼等の楽曲というのは非常にエモーショナルで、何か彼の人生から引き出される詩的な音楽性が、その中に込められているという気もします。

前の作品よりもはるかに大人な渋い雰囲気が醸し出され、飽きの来ない噛みごたえのある楽曲群で、スタイリッシュでクールな雰囲気に満ち溢れているところが彼等の魅力にひとつといえるでしょう。

1993年「Superstar Car Wash」、そして、1995年「A Boy Named Goo」時代のスタイルから大切に引き継がれてきたアメリカン・ハードロック路線を、このアルバムにおいてもしっかりと踏襲し、その新たな進化をはっきりと示したのが、「Bullet Proof」「Hate The Place」の二曲。

特に、個人的には「Bullet Proof」が彼等の最高傑作の楽曲のひとつではないかと思っています。

レズニックのハスキーでいながらも透明感、ヌケ感のあるハイトーンの歌唱の伸び方というのは、他のバンドにはない魅力で、彼の喉を引き絞るようにして歌われているところも切ないような響きが込められています。そして、上記の二曲においては、NYのブルックリン辺りに充ちている冷たい都会的なクールなアンビエンスがロックとして表現されているのが興味深いところ。

そして、スタイリッシュな雰囲気がありながら、古くからの日本の歌謡曲のようないわゆる「泣き」とよばれる要素があるため、それほど洋楽には馴染みがないという方にもオススメの作品のひとつ。


グー・グー・ドールズの楽曲というのは、よく商業的なアメリカン・ロックというように見做されているところはちょっとだけ彼等が可愛そうな気がします。

実は、彼等の楽曲というのは、使い捨ての安っぽい商業的な楽曲ではなくて、聴き込めばよく分かる通り、詩的な風味に富んだ美しい情緒的なバラードソングばかりです。

 2021年、新作「EP21」もリリースされたことから、アルバムリリースへの動きがあるように思えて、突発的にこの名盤を取り上げましたが、個人的には、グー・グー・ドールズという存在が、今一度、良質なアメリカンロックバンドとして多くのロックファンに再認識されることを切に願っています。