Skaは白人社会に何をもたらしたか?
スカというジャンルの音楽性は、軽快なツービートをギターのアップストロークで刻むのが特徴である。
一見、単純明快なようでいて、いざ、演奏となるとハードルが高い音楽であることに気がつく。ただ、単に、ギターのアップストロークを習得すれば、それで済むという話ではなく、レゲエミュージックに対する理解度の深さが欠かす事ができない。なんとなく渋みのある風味が出るか否かによって、奏でる音楽に説得力が出てくるかどうかの瀬戸際になってくる。
どうもこれは、ジャマイカのオーセンティック・スカ、もしくは、その後のリバイバル・スカバンドにしか出しえない渋い雰囲気が存在するらしく、このあたりのレゲエからくる素養がないと説得力のない音楽になる場合がある。
これは正直、どういった理由なのかは上手く説明できそうにない。例えば、カリプソ音楽のHarry Belafonteの「Banana Boat」あたりの楽曲に、このレゲエ、ひいてはスカのルーツのようなものが発見できる気がする。
大袈裟にいうなら、普通のパンクのように音をがむしゃらに鳴らすというのではなく、そのバンドとしてのスタイル、精神性みたいなものが滲み出てくる音楽というように思える。
例えば、ジャマイカの音楽家というのは、他地域から見ると、ラスタファリ運動をはじめ独特な思想を持つアーティストが多い。
マーレー、クリフのレゲエの大御所を思い浮かべみててほしい。もしくは、ダブの元祖とされるアーティストを思い浮かべてほしい。スカ、そしてレゲエにあたる長い長い系譜、多分、これはジャマイカの単一の民族性の音としての伝統的表現なんだろうと思われる。
そして、このスカという音楽は、実は鑑賞者として聴く分には痛快なのに、演奏者としては結構高い技術を要する音楽である。
それなりに、ビックバンドとして完成度の高い音楽にしたいのならば、長い鍛錬、オーケストラ奏者のような胆力のある練習を積む必要がある。バンドとして音合わせを何度もしながら、完成度の高い音楽として洗練させていかねばならない。オールドスクール・パンクのような初期衝動の魅力もさることながら、そう簡単に完成しえないジャズバンドのような職人性も滲んでいるジャンルだ。つまり、ものすごくシンプルで親しみやすい音楽でありながら、抜けさがない部分もあるのが”スカ”の正体なのだ。
しかし、それでも、その分良い音楽として奏でられれば、コレほど楽しいジャンルというのは他に見当たらない。
スカ・バンドというのは、時に、ビックバンドの大御所、カウント・ベイシーのような豪華なビック・バンドの体制をとり、ギター、ベース、ドラムという編成に加え、金管楽器ーートロンボーンやトランペット——、もしくは、キーボードやエレクトーン奏者をグループ内に擁する。
また、ファッション性という面でも、これらのバンドには、オリジナリティあふれる特徴が見られる。
スカ・バンドのメンバーは揃って、往年の60'あたりのロック・ミュージシャン、二十世紀初頭のニュー・オーリンズのジャズマンが好んで着用していた細身のスーツ、少し丈の短いトラウザー、中折帽子をシックに着用し、バランスの取れた渋い演奏をするのがお約束だ。これはロンドン、モッズ隆盛時代の雰囲気と相まり、このスカ・バンド全体の印象にオシャレな印象を与える。
同じように、ステージ上の視覚性を語る上でも、顕著な特徴が見られる。実際、ライブで見ると、スカという音楽は楽しく、面白い。
編成の多さのためか、小劇団パフォーマーのような印象を与え、舞台的な演出の雰囲気のユニークさも感じられる。観客は、この大編成バンドのステージでの躍動感のあるユニークさ、そして、エンターテインメント性の高い音楽に接すると、思わず、腕を突き出し、陽気に踊りだしたくなる衝動をおぼえるはずだ。
スカというジャンルの発祥は、六十年初頭のジャマイカに求められる。その後、スカのムーブメントは、リバイバルとしてロンドンで再燃する。
これは、元々、カリプソの後に登場したジャマイカのオーセンティック・スカがイギリスで新鮮な息吹を与えたのと同じだ。
第二次世界大戦後、ジャマイカから英国に渡った移民がもたらした文化芸術が、英国の白人の奏でるパンクロックと邂逅を果たし、新たな「スカ・パンク」というジャンルが誕生したといえる。また、スカいうジャンルは、白人と黒人が人種の垣根を越え、音楽で人々が「一体」となるのに大きな貢献を果たした。
音楽的な軽快さとは裏腹に、歴史的に大きな意味を持つ。つまり、”人と人とを繋げる音楽”なのである。
ロンドンパンク・ムーブメントの後、イギリスの「2トーン・レコード」に所属するバンドが中心となって、70年代以降のスカ・リバイバル・ムーブメントを牽引していった。
その後、八十年代に入って他の国々へ、アメリカに続いて、九十年代に入ると、日本にも波及していき、東京スカパラダイス・オーケストラをはじめとする、往年のスカ・コアブームを形成していった。
今回、ここで、「Ska」というジャンルのブームを形作った2トーン・レコードのアーティストを中心に、スカという音楽に再度脚光を当てたい。
1.The Specials
「The Specials」1979
この2TONEのレーベル設立者、ジェリー・ダマーズをバンドメンバーに擁するスペシャルズというバンドのデビュー作を差し置いて、リバイバルスカを語ることは許されない。メンバー全員がシックなスーツを揃って身に纏ったアルバム・ジャケットのモノトーンのかっこよさも失われていない。
初期パンクのムーブメントの最中に登場したというのも、彼等スペシャルズの存在を華やかたらしめている。
もちろん、彼等は、センセーショナルな印象にとどまらない実力派のロックバンド。後のスカというバンドの音楽性を決定づけ、ファッション性にも大きな影響を後進に与えたバンドであり、2トーンというレーベルを代表するバンド。
1stトラック「A message to Rudy」のまったりしていて味のあるリズムが無性に癖になる。クラッシュのロンドン・コーリングの楽曲を彷彿とさせるフレッシュな名曲。
「(Drawing of a )New Era」の瑞々しさについては説明不要。ザ・スペシャルズという唯一無二の鮮烈なニュースターの登場をロックファンに告げ知らせることに成功し、Skaというジャンルの台頭を世間的に高らかに宣言した名曲。
このスペシャルズの黒人と白人の混成のバンド編成というのも先鋭的。当時としてはかなり驚きをもたらした。
また、他のスカバンドにはない生きの良いフレッシュな勢いがある。そして、音楽性のバックグラウンドの広さというのも、スペシャルズの魅力だ。オーセンティック・スカから、Oiパンク、そして、セックス・ピストルズ、ザ・クラッシュを彷彿とさせるオールド・スクールパンクに至るまで、70年代当時のイギリスの熱狂の雰囲気を余すところなく体感できるスカ音楽の歴史資料的な一枚!!
2.Madness
「One Step Beyond」1979
マッドネスもまた2トーンのバンド。今回、イギリスのスカバンドとしては白人のみの四人組というのはむしろ珍しいという印象を受ける。
彼等マッドネスの才覚が最も花開いた最高傑作として挙げたいのは、ニューウェイヴ、AOR色の強い「Mad Not Mad」で、これはカラッとした爽快味のあるかなり聴きごたえのある超名盤。
しかし、スカという文脈として紹介すべきなのは、この散々レコードガイドで紹介されているデビューアルバム「One Step Beyond」。
あらためて、マッドネスというバンドを聴いてみると、基本的なご機嫌でどことなく渋いスカ、もしくはダブ音楽ということになる。裏拍を強調したツービートサウンドもあって、どことなく都会的でユニークな陶酔があるというべきか、気のせいか、ブリクストン的な音の雰囲気も感じられる。
しかし、このマッドネスサウンドには他のバンドと違う点を見出すとしたら、ファッツ・ドミノだとかあたりのアメリカのモータウンレコード、つまりデトロイトの一連の黒人アーティストからの影響が色濃く、黒人音楽に対する憧憬が感じられる点でしょう。古くの、R&B,ソウルの風味が感じられるのが特徴、エディー・アンド・ザ・ホットロッズのようなパブ・ロックの雰囲気もあってクール。
R&B,ソウル音楽の持つ深みを、白人としてのロックに落とし込んだという意味では、このバンドは、実は、ローリング・ストーンズの白人としての、黒人ブルーズ、ゴスペルへの接近というような音楽アプローチ。
そして、このデビューアルバムの音楽性はザ・クラッシュと共に、後のマンチェスターをはじめとする80年代後半のイギリスのロックバンドサウンドのお手本になったというような感もあり。
3.The Selecter
「Too Much Pressure」1980
ザ・セレクターは、スペシャルズと共にツートーンを代表するバンドで、スカシーンを牽引してきた存在であり、やはり、名盤セレクションとしては外すことができない一枚。
このアルバムで展開されるのはスカの典型的なスタイルで、いわゆるツービートという裏拍(二拍目と四拍目)を強調したスチャスチャというスカサウンドの醍醐味を心ゆくまで味わう事ができる。
これはスペシャルズの勢いあるスカとは対極にある、渋いまったりとしたダブ寄りのサウンドがセレクターの良さ。聞いているとなんだか病みつきになってくるのがこのバンドの魅力といえるか。
レゲエとスカの違いがよくわからないという初心者にも、スカという音楽はこうやるんだと、カッコよく手ほどきをしてくれているのが、このセレクターのデビューアルバムである。
よく聴くと、ギターサウンドとしては荒削りであるものの、そのあたりのラフさというか、プリミティヴなサウンド面での特徴が他のスカバンドにはない良さ。 洗練されたサウンドというよりかは、着の身着のままの剥き出しのオリジナル・スカサウンドを体感できる。
もちろん、ここでは、リム・ショットやエレクトーンのオリジナル・レゲエからの音楽性もしっかりと受け継がれている。
もうひとつ、セレクターを語る上で忘れてはならないのは、女優でもあるポーリーン・ブラックのファッショナブルなボーカル。
ブラックは、実はフロントマンとして最適な音域を持っており、中音域の力強いボーカリスト、キュートさと力強さ、キャッチーさを兼ね備えた素晴らしいシンガー。彼女のボーカルというのは、どことなく中性的なカッコよさがあり、独特な渋みを感じさせてくれるはず。
4.The Beat
「I Just Cant Stop It」1980
ザ・ビートも、スペシャルズと同時期にデビューした2トーンの代表格。やはり、白人と黒人の混成バンドですが、スペシャルズに比べると、どちらかと言うと、パンク色は薄く、本格的なレゲエ色の強いのが特徴。
ボーカルのリズミカルな掛け合い、ドラムのリムショット(ヘリをスティックで叩くミュート奏法)、そしてテナーサクスフォンの豪華なフレージングがこのビートと言うバンドの際立った個性です。また、リバーヴ、フェーザー・エフェクトの効いたギターサウンドも、どことなく玄人好み。
このデビューアルバムでは全体的に、レゲエ音楽の白人的な憧憬、そして、独自の再解釈が見える。
バックバンドとしての音楽的な技術は洗練され、およそオールドスクールパンク界隈のバンドとは思えないほどの演奏力が感じられる。
アルバム全体の表向きの雰囲気には、ニューウェイブ的なサウンドが漂っているが、実際的なバンドとしての演奏が醸し出す雰囲気というのは、レゲエとロックの融合、フュージョン的な渋みのあるロックバンド。
しかし、そういった玄人的なサウンドが独りよがりにならない所が、The Beatというバンドの良さ。ボーカルのフレージングの現代的なポップセンス、もしくはそれと正反対に往古のレゲエサウンドの良さをそのまま凝縮したスカサウンドらしい雰囲気というのも、このバンドならでは。また、このアルバムの中で、とても興味深い名曲が「Best Friend」。どことなくニューウェイブ風の楽曲で、清涼感を感じさせる爽やかなサウンド。
これは、ロンドンの初期パンクスしか醸し出せない独特の時代感ともいうべきサウンドであり、青臭く、なんだか切なく、爽やかで痛快な感じがサウンドの中に感じられる。
きっと、それは往年のロンドンパンクスの音楽を愛した人なら、理解してもらえるかと思う。あらためて音楽というのは、音を紡ぐ演奏者の叙情性を表するものだというのを再確認できる一枚となっている。
5.Bad Manners
「Ska 'N B」1980
新旧、数あるスカバンドのなかでも未だに最もユニークな個性と魅力の輝きを放っているのが、Bad Manners。ビッグバンドのような大所帯、ボーカルのバスター・ブロックヴィッセルのユニークなキャラクターが異彩を放つ。
「バッド・マナーズ」と名乗るように、アルバム・ジャケットでバスターが自らお尻を出してしまっているところもお下品。このデビューアルバムのジャケットセンスというのも、B級映画のようなマニア向けの味わい。
しかし、そんな表向きのイメージとは逆に、スカという音楽の流儀をストイックに追求し続けているのが、このバッド・マナーズの真骨頂である。
2toneからリリースの「Ska 'n B」で展開されるのは、エレクトーンの楽器としての持ち味がいかんなく発揮された通好みのレゲエ、ダブ、スカの発祥地としてのジャマイカのサウンドを敬意をもって踏襲、それをユニークな形で演出してみせた力量というのは流石としか言いようがなし。
バスター・ブロックヴィッセルのコメディ俳優のようにコロコロと七変化する滑稽みのあるユニークなボーカル、トロンボーンの演奏というのも、アバンギャルド的な味わいがあって面白い。そこに、往年のレゲエ的なエレクトーンのフレーズも何度聴いても飽きの来ない良さがある。
聞いていると、わけもなく元気に陽気になってきてしまうのがバッドマナーズの音楽の素晴らしさ。バスター・ブロックヴィッセル以上のエンターテイナーは世界中どこを探しても見つからない!!
6.The Slits
「Cut」1979
スリッツは、メンバーの四人が全員女性という面で非常に珍しいアーティストで、世界で一番早くに登場した女性だけで構成されたパンクバンド。
このスリットというバンドは、女性のみという特異性を意識して聴くと、完全に本格派バンドとしての風格に圧倒されるはず。
スリットのバンドサウンドとしては雑多であり、最も早いミクスチャーバンドとしての聴き方も出来なくもないのかもしれない。
一曲目の「Instant Hit」からして、女性のバンドだとなめてかかると本当に痛い目を食らうでしょう。
ここで展開される、ダブ寄りの質の高いヌケ感の良いサウンド、そしてよく外国のパーティ等でかかるというのも頷くことのできる音楽性。これは、今聞いても新鮮に感じられるはず。
あらためて、今聴くと、画期的なサウンド。基本的には、ジャケットで暗示されているようなプリミティヴなサウンド面での特徴を持っており、その中に分かりづらい形で、スカやダブの要素がひっそり潜んでいる。また、変拍子もなんなく曲の中に取り入れているあたりも男顔負けの玄人好み。ひとつのジャンルに収めこんで語るのが惜しいバンド。登場の早すぎた感のある前衛的な名バンドの一つ、数奇な天才女性トリオ!!!