ラフ・トレードからのフレッシュアーティスト Black Midi


Black Midi

 

 

Black Midiは、2019年、イギリスの歴史ある名門インディペンデント・レーベル、Rough Tradeから華々しくデビューを飾っている。

 

2021年までの二、三年間で、9枚のシングル、2枚のアルバムリリースを経てきている。創作意欲が活発な、新鮮味のあるバンドで、これまでEP、スタジオ・アルバム作品の殆どがラフ・トレードからのリリースとなっている。

 

 

どうやら、ラフ・トレード大期待のバンドであるらしく、2019年のデビュー・シングル「Crow's Perch」、それから同年リリースの二作目のEP「Talking Heads」では、およそ新人アーティストらしからぬ、十代のアーティストらしからぬ通好みのアプローチを見せている。それでいて、若手らしい勢い、フレッシュさもしっかり持ち合わせているのが、ブラックミディの最大の魅力といえるだろう。そして、この二、三年の活動期間で驚くべき急成長を遂げているバンドであり、すでに世界的なライブ活動を行っており、話題沸騰中のポストロックバンドである。             

 

彼等、ブラック・ミディは、ポストロック/マスロックに属する音楽性を表向きの表情としている。例えば、シカゴ音響派の前衛性を主な特徴とし、CANを始めとするクラウトロック、そして、イギリスのKing Crimsonのようなプログレッシブ・ロック、そして、往年のニューウェイブ、Gang Of Four、Killing Joke、Devoあたりの、ハードコア・パンク、ダンス・ロックの礎を築き上げたバンド、それから、Vaselines、Pastelsといった往年のスコットランド周辺のギター・ポップの影響も感じられる。



また、ブラック・ミディは、バンドサウンドとしての「限界の先にある限界」に果敢に挑んでいるような気配がある。

 

 

このバンドのフロントマン、ギター・ヴォーカルのジョーディ・グループのどことなく、Swansを意識したようなダンディな声、そして、かなり入念に作り込んだギターの音色、バンドサウンドとしても、ピアノ、サックスを何本か重ねたフリージャズ系のアプローチを図り、無調のフレージング、ギリギリのところでぶつかり合う複雑怪奇なリズムが、このバンドの最大の魅力だ。

 

 

レコーディング時のサウンドのすさまじい緊迫感は、このバンドの最初期からの重要な持ち味であり、ごく単純に、商品としてパッケージされた音だけでも、十分その魅力が伝わって来るだろうと思う。もっというならば、ブリットスクール仕込の「音楽のエリート」と賞賛すべきなのか、また、そういった音楽的な素養を度外視した上でも、十分な魅力を感じていただけると思う。

 

 

変拍子にとどまらず、一曲中で、テンポすら変幻自在にくるくると転じてみせるあたりは、一体、これはどうやって録音しているのか?、という純粋な疑問すら浮かんでくる。トラック分けで録音していると思われるが、一発録りのような生々しいライブ感がブラック・ミディの音楽には宿っている。

 

 

彼等の作品には、通じて、四人のバンド・メンバーの才覚の火花をバチバチと散らし、それを「ヘヴィロック」として、炸裂させている雰囲気がある。それは、今や、完全に失われたかのように思える、往年のウッドストック時代のロック・バンドのようなセッションに対する情熱も込められている。しかも、恐れ入るのは、あろうことか、彼等は現代のミュージックシーンでその再現を試みようとしている。

 

 

もちろん、先にも述べたとおり、バンドとしては、Devo、The Residents、Taking Headsのような、新奇性を全面に押し出している一方、往年のR&Bのような音楽もたっぷり聴き込んで、自分の音楽性として昇華している。

 

 

ブラック・ミディのデビュー・アルバム「Schlagenheim」2019は、いかにもラフ・トレードのバンドらしい荒削りなサウンド面での特徴を持っている。

 

 

そして、音楽シーンの登竜門を叩くアーティストとして不可欠なバンドとしての止めどない勢い、そして、新奇性、斬新性という面で、他の追随を許さないほどの強いアクのあるサウンドが奏でられる。まるで、ガレージ・ロックやグランジの時代を彷彿とさせる痛快な轟音性にとどまらず、それと対比的な妙な渋い落ち着きがあるのも、若手の新人バンドらしからぬ貫禄と呼べるはずだ。

 

 

誇張なしに、この四人組、ブラックミディは、これまでの年代で、十年に一度あるかないかのニュー・スターの登場を予感させる。

 

 

一体、これから、彼等は何をやってくれるのだろうと、漠然とした期待をロックファンとして持たざるをえない。そして、その不思議な期待感、高揚感というのは、決まって、時代の流れを一人の力で変えてしまうロック・バンド、ミュージック・シーンが華々しく台頭する瞬間である。  

 

 

 

 「Cavalcade」2021

 


 

 

 




1.John L

2.Marlene Dietrich

3.Chondromalacia Patella

4.Slow

5.Diamond Stuff

6.Dethroned

7.Hogwash and Balderdash

8. Ascending Forth


 

 

そして、2021年リリースの彼等の現時点での最高傑作と呼べる、二作目のスタジオ・アルバム「Cavalcade」の壮絶としかいいようがないアバンギャルド性には、全面降伏し、驚愕するよりほかなくなっている。

 

 

そもそも、二作目というのは、サウンドとして落ちつきを見せるのが普通のはずなのに、頼もしいことに、彼等の念頭には、売れようとか、バンドとしてより人気を博そうなんて打算的概念はない、純粋に”音楽”を楽しんでいる。だからこそ、最新作「Cavalcade」で繰りひろげられるのは、さらに先の、また、その先の時代を行くプログレッシヴ・ロックである。

 

 

彼等は、この最新作において、フリージャズとロックの合体系を生み出してしまった。これは、最早、ポストロック界のカリスマ、ザ・バトルス。いや、いや、それどころではない、キング・クリムゾンのデビュー作以来の衝撃というしかなし。聞き手の目ン玉をひん剥かせるようなアバンギャルド性だ。

 

 

「John L」で見せる異様な緊迫感のあるサウンドも新たな魅力である。そして、「Accending Forth」は、往年のソウル、ゴスペルからの影響も感じさせる聴き応えある楽曲、麗しい甘美なエピローグを飾っている。

 

 

この「Cavalcade」に見受けられる奇妙な音楽性の間口の広さというのは、およそ十代の若者のものでないといえる。一体、これから、どうなってしまうのか?、と末恐ろしい雰囲気さえ感じられる。

 

 

もちろん、ひとつ良い添えておきたいのは、彼等のサウンドは、全然、懐古主義でないということである。ブラック・ミディの音楽性には、近未来を行く新鮮味あるサウンドが清々しく展開されている。この音楽は単純に新しい、つまり、未来のロックミュージックを彼等はこのアルバムの中で体現してみせている。

 

 

そして、ブラック・ミディが、これから、間違いなく、現在から近未来にかけてのミュージックシーンに向けて華々しく提示していく事実は、バンド・サウンドとしてのロックミュージックの王権復古、一大革命なのである。