Chihei Hatakeyama
Tim Heckerを擁するアメリカの最も有名なアンビエント系のレーベル「Kranky Records」からデビューした日本でも有数の世界的な電子音楽家です。
すでに、ロスシルやブライアン・マクブライドと肩を並べるような存在として世界的に認知されているといっても過言ではないでしょう。異質なほど多作なミュージシャンであり、2006年のデビューから2021に至るまでなんと30作以上ものリリースを行っています。世界的にも有名なアンビエントアーティストの一人です。
「Minima Moralia」
畠山地平のクランキーレコードからのデビュー作。
この作品は、グリッチ色の強いアンビエントで、涼やかで清やかさのある空間処理が特色といえる。「Bonfire On the field」「Straight Reflecting On the Surface of the River」の二曲は彼の最初期の名曲といえ、時折、センスよく挿入されるグリッチノイズの心地よさというのは絶品です。そして、チベットの民族楽器シンギングボウルのような音色というのもエスニック色を感じさせ、熱い時分などに聴くと鬱陶しい気分を涼しげに、そして、冷静にしてくれるはず。
また「Inside a Pocket」では、アコースティックギターを使用した独特なポスト・クラシカルを披露していくれている。この辺りの日本的な雰囲気、夏の終りのひぐらしのような切なさをおもわせる叙情性。ギターボディを打楽器として使用しているあたりは、ジム・オルーク的なポストロックへのアバンギャルドな接近も思わせる。また、ラストの「Beside a Wall」は、 後のティムへッカーの「Ravedeatj 1972」のサウンドを予見したかのような圧巻ともいえる名曲です。
およそ、デビュー作とは思えないほど洗練された作品であり、すでにこの作品において畠山の生み出す独特なアンビエントは、およそ日本のアーティストらしからぬほどの凄さといってもいいはず。
Fujita Masayoshi
藤田さんは主にイギリスのErased Tapesからリリースを行う日本人ヴィヴラフォン奏者です。現在はベルリンから兵庫県に活動拠点を移しています。他のアンビエントアーティストと決定的に異なるところは、クラシック及びジャズから強い影響を受け、シンセサイザーを主体としての環境音楽ではなく、ヴィブラフォンの演奏技術上の音の響きを追求する気鋭のアーティストです。
「Stories」
まさにヴィブラフォンの心温るような美麗な響きが凝縮された一枚。オリジナル版は、ロンドンのポスト・クラシカル系のアーティストを主に取り扱うErased Tapesからのリリースとなっています。
ここではフジタマサヨシのビブラフォン奏者としての才覚の煌めき、コンポーザとしての感性が見事に緻密な音のテクスチャを生み出すことに成功している。驚くべきなのは、ビブラフォン楽器ひとつの多重録音でここまで大きな世界観、物語性のある音楽を紡ぐことができるというのは、この人に与えられた天賦の才とも呼べるものなのでしょう。
一曲目の「Deers」から、ミニマル的技法を見せたかと思えば、「Snow Storm」ではビブラフォン奏者としての彼のセンスの良い技巧がミステリアスで絶妙な響きを生み出している。
名曲「Story of forest」の内向的な叙情性というのも、バイオリンの対旋律によって、美しいハーモニクスが生み出されている。曲の最終盤ではビブラフォーンがオルゴールのようなきらめいた澄明な響きに変わる。
大作「Story of Waterfall 1.&2.」でのジャズフュージョン的なアプローチでありながら、深い思索に富んだビブラフォンの世界が味わえるのも、この作品の醍醐味といえるでしょう。
これはアルバム全編を通して、美しい音楽としか形容しようがありません。聞いているととても心地よく、落ち着いて来て、心が澄んでくる。これがマサヨシ・フジタの生み出す音楽性の素晴らしさなのでしょう。
Hakobune
タカヒロ・ヨリフジを中心にして結成されたアンビエント・ドローンアーティスト。正式にはユニットとしての形で、2011年のデビューから現在に至るまで、京都を拠点に活動しているアーティストです。
現在、にわかに世界的に脚光を浴びつつある気鋭のアンビエント界の期待の星というように言えるかもしれません。
「above the northern skies shown」 2021
本作は3曲収録のアルバムですが、総レングスというのは、40分ちかくにも及ぶかなりの力作。
この作品の音の拡がり方を聴いて、まず最初に思い浮かべたのはアンビエントの重鎮、ウィリアムバシンスキーの音楽性。
ここではウィリアム・バシンスキーのように、サンプリング素材のテープの継ぎ接ぎという手法はないでしょうが、音のニュアンス、アプローチの仕方という面でかなり近しいものを感じます。一度も、旋律の移動というのがない、もちろん大きな音像の変化というのはトラックのなかで全くないのに、これほどまで説得力が込められ、そして爽快感すらある環境音楽を作れるアーティストが日本にいるということが一アンビエントファンとして頼もしく感じられます。
只、一つのシークエンスの拡がりと、そこに挿入されるノイズの風味、これらの要素が礎石のようにどんどんと積み上がっていき、音の壮大な宇宙ともいえる巨大な空間を綿密に形作っていく。
何か小難しい言い方なのかもしれませんが、これぞまさに現代アンビエントともいうべき音であり、今流行の形のひとつといえるでしょう。
この三曲は、空間の中を揺蕩う穏やかなアンビエンスが展開され、旋律はあってないように思えます。しかし、よく聞くと、その中に複雑で麗しいハーモニクスがすでに形成されています。かつて武満徹が語っていた”すでに空間に充ちている音を聴きとる”というような感じで、言葉では容易に説明できず、五感をフルに使って体感するよりほかない直感的な素晴らしい音楽です。