Feature Artist 「台湾のポストロック 大象體操 Elephant Gym」


大象體操 Elephant Gym

 

 

 

近年、アジアで生きの良いバンドがインディーズ・シーンで続々と台頭してきています。近年、来日を果たしているタイのシューゲイザーバンド、Inspirativeも目のくらむほどのオーラを持つ見過ごすことのできないバンドであるんだけれども、今回、中国、台湾のシーンにちょっとだけ目を向けてみましょう。


 

大象體操 別名、Elephant Gymは、張凱翔(テル・チャン)を中心に結成された台湾、高雄出身スリーピースのポストロック/マスロックバンドで、近年、アジアのミュージック・シーンの中でも際立って高評価を受けている本格派ロックバンドです。

 

 

この三人組が高評価を受けるのも当然といえます。エレファント・ジムの楽曲は軒並み洗練されていて、なおかつ、ポップ性、メロディーセンス、意外性、バンドメンバーのキャラクターという面でのバランスの良さ、華やいだ個性、成功するバンドの兼ね備えるべき特長を網羅しているのがエレファント・ジムなのです。


 

日本のポスト・ロックシーンとの関係も深く、これまで、LITEとの共演、また、今年のToeとの共催イベントを開催して来ています。

 

 

それはひとつの手応えを彼等に与え、音楽の面でも、またバンドとしての形態でも、さらなる進化を見せつつあるように思えます。つまり、その実像がより大きくなっているといえ、近年、日本、ひいては、世界レベルでの知名度もグングン上昇しまくっているのも頷ける話です。

 

 

このエレファント・ジムというバンドの特長は、なんといっても、三人組の中の紅一点、K.T.チャンという存在の華やかさ、キュートさ、その可愛らしいルックスからは想像できない超絶的なベーステクニックにあるでしょう。

 

 

201502_0000_001"201502_0000_001" by oldboypic is licensed under CC BY-NC-SA 2.0

 


K.T.チャンの弾く、跳ねるようなパンチの効いたベースラインは、流麗であり、繊細さもあり、また、リスナーを驚かせるに足る意外性に満ちあふれている。まさしく、これは、彼女の才覚の抑えきれない表出です。


 

バンドの全体的なキャラクターの印象として、表向きには、日本の”Base Ball Bear”を彷彿とさせる形態ではあるものの、彼等とは少し異なる魅力を持ったアーティスト。このスリーピース・バンド、エレファント・ジムは、実際の演奏テクニックは、三人編成と思えないほどの音の厚みをなし、そして、中心人物、テル・チャンの変拍子を多用した作曲能力はお世辞抜きにずば抜けている。


 

さらに、バンド・サウンドという特長においても、K.T.チャンの弾くベースラインは、スタイリッシュさ、バンド名由来である”象”のような力強さを備えている。そして、彼女のさわやかさ、淡いせつなさを感じさせる中国語ボーカルも良い。日本の現代のロックバンドとは異なる蠱惑的な雰囲気がほんのり漂っている。また、K.T.チャンのステージ上の軽やかでアクティブな姿も魅力といえるはず。  


 

 

Elephant Gymの代表作

 

エレファント・ジムは、そのバンド名に象徴されるように、これまでの歩みの中で独特な進化を遂げてきました。

1stアルバム「角度 Angle」2015においては、日本のバンド、LITEを彷彿とさせるスタンダードなポストロック/マスロックを展開してきたが、徐々に叙情性、バンドサウンドの間口の広さを見せるようになっています。

 

 

 

 




また、スタジオ・アルバム最新作「Underwater」2018を聴いて貰えば、エレファントジムが完全にオリジナルのバンドであり、より大きなロックバンドとして堂々たる歩みを初めたのが理解できるはず。

 

 

結成当初からの前衛的なポストロック性を引き継ぎながら、キーボードの存在感を楽曲の中で引き出した現代エレクトロニカ風のサウンドも見られる。

特に、このアルバム「Underwater」収録の「Half」においては、エレファント・ジムの進化が顕著に伺えます。近年、北欧や英国圏で見られる音楽の流れ、ポストロックの先に見えるSci-fi性を追究しているかのような雰囲気もあるようです。 

 


 

 

 

 

もちろん、彼等の重要な性質である楽曲の複雑さという面での特長、メロディーの叙情性というのは失わず、一歩先へと、二歩先へと劇的な進化を遂げつつあるようです。  

ここには何かさらに、大掛かりな舞台的な装置、仕掛けのようなものが込められているように感じられます。また、このアルバムでは、台湾の民謡的なバックグラウンド、自国の文化に対する深い矜持も伺えます。

 

そして、日本のシンガーソングライター、”YeYe”を、ゲスト・ボーカルに迎えたラストトラックの「Moonset」で見られる日本語歌詞ソングというのは、いわば、日本と台湾の双方の文化に対する敬意を交えたハイブリッドの魅力を持った、非の打ちどころのない楽曲といっても誇張にならないはず。

 

エレファント・ジムの作品の中でお勧めしておきたいのは、「Elephant Gym Audiotree Live」での超絶的なテクニックの凄さも捨てがたいものの、やはり、EPとしてリリースの「工作」です。 



 

 

 

このシングルの二曲目に収録されている「中途」というトラックは、エレファント・ジムの際立ったポップ・センスが発揮されています。


ここには、往年のシティ・ポップのようなオシャレさ、爽やかさからの影響もそれとなく滲んでいるようです。また、中国語の響きというのも、既に、ポストロックに飽きてしまった耳の肥えた愛好家に、爽やかで、清々しい印象を与える素晴らしい楽曲として推薦しておきたいところです。