Grouper  アメリカのアンビエント・アーティスト

Grouper

 

Grouperはアメリカ、オレゴン州、ポートランドのリズ・ハリスのソロアンビエントプロジェクトとして知られています。自主レーベルからのリリースもあり、アンビエントの総本山クランキーレコードからのリリースもあるという意味では、かなり独立心の強いアーティストといえるでしょう。

アンビエント/ドローン色の強い楽曲性の中、ピアノのシンプルな伴奏の上に、どことなく幻想的でアンニュイな歌声でうたいをこめ、独特な雰囲気を生み出すのがGrouperの音楽の特徴です。

必ずしも明るい音楽性とはいえないかもしれませんが、聴いていて非常に鎮静感を与えてくれる音楽性がこのアーティストの持つ独特な魅力。

活動自体は2005年からで十六年のキャリアがあるアーティストです。アンビエントシーンでは女性アーティストというのは珍しく、正直、彼女のほかにあまり思い浮かばないような気がします。

ピアノ、ボーカル、そしてシンセサイザーのパッドを背後に掛けるという意味では、シンプルなピアノアンビエントに位置づけられる。しかし、音楽性は多種多様で、アルバムごとに、ポスト・クラシカル的な澄明なアプローチであったり、ギター・ポップ的な風味あり、また、それとは正反対の暗鬱なドローンを奏でるという意味では、クランキー・レコードのアーティストらしいといえるのかもしれません。ここでは、簡単ではありますが、Grouperの傑作を取り上げてみようと思います。

 

 

「Ruins」2014 

 

 


TrackLisitng


1.Made of Metal

2.Clearing

3.Call Across Rooms

4.Labyrinth

5.Lighthouse

6.Holofernes

7.Holding

8.Made of Air


全体的には、表題に見える「廃墟」という名のように、朽ち果てた退廃的な美を音楽として全体的にモノトーンで彩ってみせたアルバムなのかなという印象を受けます。

このアルバムでは、アンビエント色というのはそれほど強くなく、ポスト・クラシカル寄りのアプローチというふうにいえるかもしれません。

ピアノの反復的な演奏によって、自身の内的な心象というのを淡い詩情を交えて丹念に描き出し、透明なカンバスの上に音とをゆっくり積み上げていく。休符というのを大切にしている感があり、楽曲が終わった後には独特な余韻が滲んでいる。

ピアノのごくシンプルな演奏の上に、リズ・ハリスの詩情的な旋律の曖昧としたボーカルが乗るという意味では、シンプルな歌曲というふうに位置づけられる楽曲が多いかもしれない。その性質は「Clearing」あたりの楽曲に顕著に見え、その歌声は外側に向けてうたわれるというよりか自分自身に語りかけるようにし、旋律が糸巻きのように丹念に紡がれていくのが面白い特徴でしょう。

その中で、「Lighthouse」もまたどことなく切ない響きが感じられて、ボーカルの多重録音のハーモニーによって美しさが生み出されている。憂鬱な夕べを彩るような黙想的な楽曲ともいえ、静かにじっと聞き入ってしまう妙な説得力がある。「Heading」でも、そのボーカルのハーモニーは絶妙に生かされ、シンプルな楽曲の中にモノトーン以上の色彩的な反響をもたらしているあたりが聞き所。

静かに心地よく聞いているうちにいつの間にか終わってしまっている。それまでいた空間の中にすっと戻って行けるのが今作の良さでしょう。

 

「Paradise Valley」2016

 


 

TrackListing


1.Headache

2.I'm Clean Now


Grouperの傑作として、もうひとつ取り上げておきたいのが、今作「Paradise Valley」です。

シングル盤で二曲収録で八分という短さありながらも、アルバムのような聴き応えがある作品です。 アルバム「Ruins」とは対照的などことなく前向きな印象によって彩られた傑作といえるでしょうか。

「Headace」は、どことなくローファイ/ギター・ポップの風味を感じさせる叙情的な楽曲で、そこにGrouperらしいアンビエント風味がそっと添えられている。シンプルなギターフレーズに、浮遊感のある美麗なボーカル、その背後にごくわずかなシークエンスが拡がりを見せるあたりは静寂というものの価値を知っているからこそ表現しえる音像というようにいえるでしょう。

これは、シンプルな楽曲のように思えますが、曲の終わりでは全体的な音像を徐々に遠ざからせて、おぼろげにしていく手法により、印象派としての余韻を強めているのは見事。この表題はむしろ逆説的な意味を込めているように思え、頭痛がすっと消えてなくなるようなヒーリング的な楽曲です。

「I'm Clean Now」も、また前曲に引き続いて、抑制の聴いていて、落ち着いたヒーリング的な雰囲気のある楽曲で、心地よい楽曲です。こちらの方がGrouperらしいアンビエント性が強いかもしれない。ぼんやりとあたたかな水の中にただようような言いしれない陶酔、それが非常に彼女らしい淡い感性によって紡がれているのがお見事。非常に短い曲で、もっと聴いていたいと思うような曲、落ち着いていながらどことなくリピートしてくなる美しい余韻が込められている。

それほど派手さはないのに、なぜか無性に聞きたくなってしまうのがこのシングル。独特なやさしく手を差し伸べるようなヒーリング的な味わいがあり、この安らかさにずっと浸っていたいなあと思わせるような音楽性。嵩じた音楽とは裏腹の静けさを追求した美しい理想的なアンビエントといえ、何度もリピートしたくなる不思議な魅力を持ったシングル盤となっています。