Squarepusher 「Feed Me Weird Things」2021
英国のWarp Recordの象徴的な存在、この二十年の英国のクラブシーンをエイフェックス・ツインと共に牽引して来たスクエアプッシャーのデビュー作「FEED ME WEIRD THINGS」の25周年記念リマスター・バージョンが6月4日に再発される。
オリジナル版はLPリリースのみで、今回デジタル版としては最初のリリースとなります。ファンは泣いて喜びましょう。
「高音質UHQCD」という聞き慣れない圧縮形式が、技術的にどんなものなのかについての詳細は、ハイ・クオリティCD-Wikipediaを参考にして頂き、ここではスクエアプッシャーの新譜の感想のみを述べておこうと思います。
1.Squarepusher Thema
2.Tundra
3.The Swifty
4.Dimotane Co
5.Smedleys Melody
6.Windscale 2
7.North Cinclur
8.Goodnight Jade
9.Thema From Ernest Borgnine
10.U.F.O's Over Leytonstone
11.Kodack
12.Future Gibben
13.Thema from Goodbye Renald
14.Deep Fried Pizza
このリマスター版を聴くと、トーマス・ジェンキンソンの代名詞とも呼べるドラムンベースサウンドが高音の抜け、そして、低音のグルーブの厚みがバランスよくリマスターされていて、低価格イヤホンでもダンスフロアで音を聴いているかのようなリアリティが感じられる一枚となってます。
レコード技術の知識については疎いため、あまり偉そうなことをいえないですけども、今回の高音質バージョンは、最新のリマスタリング技術も、ここまで来たのかと唸らされるような高級感のある音の仕上がり。
レコード生産技術というのは、日々進化しているというのが、音の質感によって感じることができるのは、クラシックでのオケの弦の温かみ、もしくは、コンサートホールの空間のダイナミクスというのも醍醐味といえるかもしれないが、こういったクラブ・ミュージックについても引けを取らないものがある。そして、今作のリマスタリング盤は、スタジオ・アルバムの形式でありながら、音に迫力感が他の作品よりも増しているように思え、ライブ感というのも凄まじい。
英国の「コーンウォール一派」と呼ばれるアーティストの一角をなすスクエアプッシャーは、この二十年以上のキャリアにおいて、ソロベース作品「Solo Electric Bass 1」でジャズ・フュージョン的なアプローチを見せ、スタジオ・アルバムで新しいエレクトロサウンドへ傾倒を見せたり、同レーベルを象徴する、クラーク、エイフェックスと異なるスタイルで独自の音楽性を追求している。
そして、この一枚を聴いてあらためて断言しておきたいのは、このデビュー作「FEED ME WEIRD THINGS」こそが、彼のキラキラと溢れんばかりの才質が感じられるスクエアプッシャーの最高傑作であるということ。
一曲目「Squarepusher Thema」から、誰も踏み入れたことのないアシッド・ハウスの先の極致ともいえる領域に入り込み、ベーシストとしての傑出したテクニックもたっぷり味わえるはず。
「Tundra」では、ダブステップ界隈のアーティストが、後の10年代に当たり前のように奏でる音を、エイフェックス風のドリルンベースと呼ばれる緻密なリズムを交えてあっけなくやってのけているあたりも驚愕といえる。
「Smedleys Melody」では、後のジャズ・フュージョン的なアプローチを予見するかのような前衛的なエレキベースを主体としたスイング風のリズムにも、ジェンキンソンは挑戦している。重低音の響き、そして、畳み掛けるようなドラムンベースのリズム、シンセリードの音色を変幻自在に変化させている辺りの音楽性は後の「Ultravisitor」の楽曲性の萌芽を見てとる事ができるはず。
そして、このアルバムの肝となるのが、スクエアプッシャーの後の一つの方向性を決定づけた「Thema From Ernest Borgnine」。この圧倒される音楽性の凄さというのは筆舌に尽くしがたいものがある。
たった、四小節のリンセリードのモチーフで、これだけの曲の表情に変化をつけられるのは、世界中見渡しても、トマス・ジェンキンソンくらいしか見当たらないかもしれない。この曲は、本当に感動ものです、英エレクトロ史上最高傑作の一つといっても過言ではないはず。
今回、初めて、デジタル版として解禁となったこの「Feed Me Weird Things」というデビュー作は、ファンにとってはたまらないものがあるでしょう。今作は、スクエア・プッシャーというミュージシャンの際立った凄さというのが痛感できる高音質のリマスター音源となっています。