Jaga Jazzist「Pyramid」2020
Jaga Jazzistは、トランペット、クラリネット、チューバ、ビブラフォーン、他にも、キーボード奏者をバンド内に擁する大所帯バンドで、Lars Horntveth、Line Horntvethの兄弟によって1994年に結成、幾度かメンバーチェンジを繰り返しながら、現在までノルウェーのミュージックシーンを牽引して来ています。
とくに、このバンドの中心人物、Lars Hrontveth(ラーズ・ホーントヴェット)は、楽器のマルチプレイヤーであり、クラリネットを中心に、サックス、パーカッションをハイレベルに演奏出来てしまう”鬼才”といえます。また、演奏する楽器の多彩さにとどまらないで、ジャガ・ジャジストの作曲もこなすという点で、世界で最も傑出したミュージシャンの一人に挙げても差し支えないでしょう。また、Lars Hrontvethとしてのソロ作品「Pooka」も、またエレクトロニカの隠れた名盤のひとつです。
彼等は、ロック・バンドとして、キーボードをはじめ、金管楽器、木管楽器を、バンドサウンドに絶妙に溶け込ませるという点では、本格派のジャズバンドといえ、アメリカのトータスに近いものがある。また、サウンド面の特色では、時に、ザ・イエス、ラッシュのような、壮大なスケールの音響世界を構築していくあたりは、プログレッシヴ・ロックの範疇に入れても良いかなという気がします。
スタジオ・アルバム最新作、2020年リリースの「Pyramid」は、ジャガ・ジャジストの音楽性が完全なバンドサウンドとして、(ピラミッドの)頂点を迎えたといえるでしょう。また、これは、ジャガ・ジャジストの音楽性がより深く洗練された瞬間を捉えた瑞々しいバンドサウンドといえるかもしれません。
スタジオアルバムとしての完成度もさることながら、サウンドのタイトさにおいても、今作は彼等の歴代の作品でも群を抜いており、アルバムに収録されている四曲全てに統一感があるように感じられます。
一曲目「Tomita」のイントロでは、これまでよりも遥かに味わい深い上質なホーンセクションのハーモニクスが味わえる。ここで、2004年リリースの「Magazine」で見せたようなサウンドの原点に立ち返り、そこにまた、さらに和音構成という形で、美麗さを追究したというような印象を受けます。
管楽器のゆったりした甘美なハーモニクスが展開されており、ジャズバンドとしての堂々たる風格すら感じられる。もちろん、曲の中盤は、ジャガ・ジャジストらしい、移調を頻繁に繰り返しながら奥行きのある展開力を持ったインストゥルメンタルが進行していく。曲の終盤にかけての、往年のプログレを思わせる壮大でSci−fiチックな展開力も素晴らしい。
二曲目の「Spairal Era」も、一曲目の壮大なスケールを引き継いだ形の楽曲。キーボードのシークエンスを活かした広大な世界が厚みのあるバンドサウンドによって曲の終盤にかけて緻密に完成されていく。シャッフル風のリズムのオシャレさ、ギターのファンク寄りのアプローチもこの楽曲をユニークにしている。
また、三曲目の「The Shrine」は、彼等の最高傑作のひとつに挙げられるかもしれません。これぞまさに、ジャガ・ジャジスト節ともいえる名曲。クラリネットが紡ぎ出す不可思議なメロディーには、独特で蠱惑的な雰囲気が滲んでいて、そして、なんとなく、このファッショナブルな感じをつかめたら儲けもの。貴方はすでにジャガ・ジャジストのサウンドの虜になっていることでしょう。
それから、新作アルバムのラストをオシャレに彩るのが「Aphex」。ここでは、ダンサンブルな最新鋭のノリノリな北欧エレクトロを体感できるはず。もちろん、単なる淡白なエレクトロにとどまらないのは、ギターの清新な風味が添えられているからでしょう。この浮遊感と疾走感のある楽曲では、これまでのジャガ・ジャジストの音楽性の先にある新たな一面を見せてくれている。まるで、ティコ(スコット・ハンセン)を思わせるような爽やかさのある、最新鋭の軽快なエレクトロが展開されています。
ジャガ・ジャジストのサウンドは、いよいよ結成二十七年目にして最盛期を迎えたといっても過言ではないでしょう。
これまでの音楽性を下地に、新たに壮大なスケールの世界観を形成している。そこには、以前にはなかった経験からもたらされるバンドとしての余裕すら感じられます。また、大編成のバンドサウンドとして、シンコペーションの強拍の音圧の凄さというのは筆舌に尽くしがたい。金管楽器、木管楽器、キーボード、ドラム、これらの楽器のブレイクが「ビシッ!」と決まった瞬間のクールな迫力に圧倒されること間違いありません。
この新作アルバムにおいての凄まじい展開力、バンドサウンドとしての良い意味での緊迫感というのは「圧巻!!」としかいいようがなく、このアルバムには、まるで、往年のプログレッシヴロックを彷彿とさせるようなパッションすら感じられることでしょう。
二十七年という長期間の継続的な活動が、彼等のバンドサウンドを強固にし、このようにピタリと息のとれた力強い圧倒的なオーラを持つロック・バンドとしてのサウンドを形作ったといえる。まだまだ、底知れないポテンシャルの感じられるノルウェーのバンド、ジャガ・ジャジストにこれからも注目してくださると嬉しいです。
Jaga Jazzist 公式サイト