オレンジカウンティからの黒旗 The Garden


The Garden

 

 

カルフォルニア州北部、LAの南に位置するオレンジカウンティは、80年代には、ブラッグ・フラッグを輩出した土地であった。90年代に入ると、メロディック・パンクの発祥の地となった。

 

そして、この地域から、NOFX、オフスプリングを始めとする様々なパンク・ロックバンドが登場し、USチャートを席巻した。このムーブメントはアメリカから日本まで波及し、相当長く続いた。



 

そして、ハードコア、メロディックパンクの一大音楽ムーブメントを巻き起こしたオレンジ・カウンティから飛び抜けて風変わりなアーティストが2010年代になって出てきた。それが今回紹介する”The Garden”です。

 

2013年にEP「Rules」でデビュー、2019年、マック・デマルコとの共作シングル「Thy Mission」、2021年にはスタジオ・アルバム「Kiss My Super Bowl Ring」では、Ariel Pinkをゲストに招いている。

 

近年、米国内のインディーズ・ミュージック界隈で、徐々に知名度を上げつつあるバンドである。



 

The Gardenは、音楽性にしても、ミュージシャンとしてのキャラクターにしても、世間的常識を痛快に笑い飛ばす不敵さがある。なおかつ、中性的なクイアの概念を強固に捧持しているアーティストでもある。その内の一人は、イヴ・サンローランのモデルという背景を持ち、双子の兄弟で結成されたバンドというのもかなり興味深い。 

 

The Gardenは、Music Videoにおいて、風変わりで特異な一面を見せる。それは、言い換えれば、奇矯というべきなのかもしれない。

 

「Vada Vada」という奇妙な黒旗を、バンドシンボルとして掲げる2人の強大の痛快な演技力は、役者顔負けの雰囲気がある。結構、アクション俳優さながらに体を張ってPV撮影に挑んでいる。そのあたりがシニカルでブラックな笑いを誘う場合もある。 

 

しかし、シアーズ兄弟が提示する笑い。それは、どちらかというと、からりとした痛快な笑いというより、どことなく、ザ・シンプソンズのような引きつったようなジメッとした笑いに近い。これは、カルフォルニアの澄んだ青空からは想像しえない不可解な印象を聞き手に与えるはずだ。カルフォルニアの太陽ですら照らし出しえない「何か」があるのだろうか? 日本人としては、それが何なのかまでは指摘出来ない。



 

 

しかし、そのような暗示めいたものを、The Gardenは、自らの産み落とす音楽にスタイリッシュに込める。


一見して、その音楽性には、軽佻浮薄な印象を受けるかもしれないが、実は、彼らのサウンドの深奥には、80年代のブラック・フラッグの時代から伝わるオレンジカウンティのクールなパンク・スピリットが込められている。それは、ブラッグ・フラッグや、ヘンリー・ロリンズの提示するアメリカ社会に対する奇妙な風刺、ブラック・ジョーク、はたまた、アメリカ人にしか理解出来ない「何か」が、The Gardenの音楽性、ひいては、このシアーズ兄弟の根本的な価値観の背後に潜んでいるように思える。

 

もちろん、概念上だけでなく、時に、この音楽ユニットの音楽性についても同じことが言えるはずだ。彼等の音楽には、ニューヨークのSwans、あるいはJoy Divisionのイアン・カーティスのような、奇妙なおどろおどろしさ、スタイッシュでクールな重苦しさもうっすらと滲んでいる。



 

彼らの音楽には、どことなく大胆不敵さが込められ、奇妙で、抜けさがなさがある。このあたりは、七十年代のサンフランシスコの音楽シーン、ザ・ポップ・グループ、ザ・レジデンツあたりの奇妙なブラックなシニカルさを現代に受け継いだと言えるかもしれない。

 

また、The Gardenの音楽性については、往年のポスト・パンク/ニューウェイブ風のサウンドを基調とし、ハードコア・パンク、サーフ・ロック、サイケデリック・ロック、ドリーム・ポップ、近年流行のクラブ・ミュージック、ヒップ・ホップ辺りの要素を多種多様に取り入れているという印象を受ける。

 

 

一見すると、無鉄砲にもおもえるような音楽性。

 

まるで、闇鍋のなかに食べ物ではないものまでをも放り込んでみせたというような感じも見受けられる。そこには、よく、いわれる”ミクスチャーロック”という概念を、2010年代のアーティストとして、新たに解釈しなおしたような雰囲気もなくはない。

 

そして、ユニットという編成のための弱点を、彼等は、それをスペシャリティに代え、往年のサーフロックサウンドのような通好みの洗練性をもたらしている。ベース、ドラムだけのシンプルな編成であるのに、きわめて手数の多い鋭いドラミングにより、時には、重低音のヘヴィ・ロックバンドとしての同等たる風格も覗かせる場合もある。



 

 

 

 

 

「Haha」2015

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

TrackLisiting

 

1.All Smiles Over Her :)

2.Jester's Game

3.Red Green Yellow

4.Everything Has a Face

5.Crystal Clear

6.I'll Stop By Tomorrow Night

7.Haha

8.Vexation

9.I Guess We'll Never Know

10.The Could Built Us a Home

11. Cells Stay Clean

12.Cloak

13.Egg

14.Devour

15.Together We are Great

16.We Be Grindin'

17.Gift

 

 

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2019年のシングル作品「Thy Mission」で、The Gardenは、ドリーム・ポップ寄りのアプローチを見せているが、The Gardenの痛快きわまりない最高傑作として挙げておきたいのは「Haha」である。

 

スタジオアルバム「Haha」2015は、アメリカのメロディック・パンクムーブメントの重要な立役者であるBad Religionのブレット・ガーヴィッツが主宰するEpitaphレコードに移籍しての第一作となる。

 

#1「All Smiles Over Here:)」のシンガロング性の強い、疾走感のある鋭いトラックから、#5「Crystal Clear」に至るまで、以前のバンドサウンドとして荒削りな雰囲気が薄れ、音に纏まりと張りが加味され、ロックバンドとして、よりシンプルでクールに洗練された印象を受ける。


もちろん、The Gardenの特質である宅録感満載のジャンク感、ローファイらしい荒削りさもありながら、理解しやすい形でのロック、クラブ・ミュージックの醍醐味が味わえるはず。

 

また、#13「Egg」では、彼等の持ち味、サーフ、サイケともつかない音楽性も独特で、ベッドルーム・ポップに近い雰囲気を感じる。そして、聞き逃すことができないのが、#8「Vexation」。ここには懐かしさすらあるサーフサウンドがローファイ風の彩りによって現代に蘇りを果たしている。



 

また、今回、The Gardenを取り上げることにしたのは他でもない理由があって、それは、彼等二人が、日本にも造詣を持っているから。 フレッチャー、ワイアット兄弟は、揃って、幽遊白書のファンであることは結構有名である。

 

信じがたいことに、幽遊白書の作中キャラ、”浦飯、桑原”のコスプレに挑戦しているほど。また、スタジオアルバム「Haha」の一曲目、All Smile Over Here:)に見られる格闘アクション風の掛け声というのも、日本のアニメーション、格闘ゲームからの影響を何となく伺わせるかのよう。



 

ここでは、シアーズ兄弟のクオリティーの高いコスプレを掲載するのは遠慮させてもらうけれども、今後の活動にも非常に期待したい、オレンジカウンティの双子兄弟の音楽ユニットである。

 

 

追記

 

ワイアット、フレッチャー兄弟は、”Enjoy”と”Puzzle”という名義でソロ活動も行っている。そこではバンド形態とは異なる、ベッドルーム・ポップ、ドリーム・ポップ寄りの新鮮なアプローチに触れる事ができる。