Sleaford Mods
スリーフォード・モッズは、イギリス、ノッティンガムで2007年に結成されたポスト・パンク・ドゥオ。英国の名門インディーレーベル、ラフ・トレード所属のアーティストの中で、現在、ブラック・ミディと共に最も勢いのあるユニットといえそうです。
現在は、ジェイソン・ウィリアムソン、アンドリュー・ファーンの二人で活動している。これからワールドワイドな人気を獲得しそうなアーティストとしておすすめしておきます。
すでに、プロディジーの作品への共同製作者として参加しているため、その辺りのシーンに詳しい人は、ご存知かもしれません。
活動初期は、ビースティー・ボーイズのようなポスト・パンクとダンス・ミュージックを絶妙に融合させた苛烈な音楽性を展開していたが、近年、ヒップホップ色を徐々に強め、メッセージ性においても苛烈になって来ている。スリーフォード・モッズのスポークンワードは力強く、真実味がある。それはなぜかというと、彼等の音楽と言葉には現実に対する視点が真摯に込められているからでしょう。
現在、ヒップホップ好き、パンク好きの双方のファンを獲得している気配があります。彼等は、ファッションでなく、本格派のアーティストといえるでしょう。つまり、いかにもイギリスらしいユーモアみのある音楽家といえ、往年のOiパンク後の労働者階級、「Working Class Hero」不在の時代の空白を埋めるヒーロー的存在がついに出てきたといっても大袈裟ではないかもしれない。
これまで、スリーフォード・モッズは、自分たちが労働者階級の最前線に立っていると明言しています。実際、彼等のリリック、音楽には、社会の網目からこぼれおちたような人達を支えるに足る強さがある。彼等の紡ぎ出すライム、つまり、スポークンワードは、英語という言語の面白さを駆使している。もちろん、韻を踏んだりといった言葉遊びのニュアンスもあるけれども、強烈な皮肉、ユーモアが宿っています。
まるで、その言葉には、ほかの奴らはやすやすと飼いならせるだろうけれど、俺達だけは無理だ、と社会に対して表明するような姿勢が見受けられます。無論、スリーフォード・モッズのウィリアムソンとファーンが生み出す音楽の内奥に込められている強固な反骨精神というのは、単なるポーズでも人気取りからくるものではなく、まさしく、彼等自身の実際の労働者階級の苦しい生活から生み出された冷厳な感情を直視しているからこそ滲み出る激渋のライムと言える。
彼等スリーフォード・モッズのスポークンワードには、他の英国社会の弱い人達、何らかの組織に属するがゆえ、容易に口に出せないような社会に対する痛烈な皮肉が込められている、その痛快さに聞き手は共感し、快哉を叫びたくなるはず。
つまり、長らく、イギリスの多くの音楽ファンは、彼等のようなスパイシーな存在の台頭を今か今かと待ち望んでいたのかもしれない。そして、それが現在の英国のミュージック・シーンで、スリーフォード・モッズが大きな支持を集めている理由であり、また、このあたりに、今、英国の隠れたワーキングクラス・ヒーローとして崇められている由縁が求められるかもしれません。
スリーフォード・モッズの最新アルバム「Spare Ribs」は、Punk Rapといわれるジャンルに属するものと思われますが、本人たちは、あくまで、エレクトロ・パンク、ポスト・パンクと、自身の音楽の立ち位置を表明しています。
「Spare Ribs」2021 Rough Trade
TrackListing
1.The New Brick
2.Shotcummings
3.Nudge It
4. Elocution
5.Out There
6.Glimpses
7.Top Room
8.Mork n Mindy
9.Spare Ribs
10.All Day Ticket
11.Thick Ear
12. I Don't Rate You
13.Fishcakees
今作「Spare Ribs」に見える英語の発音のニュアンスの面白さはもちろんのこと、音楽フリークとしての往年のイギリスのポスト・パンク時代の音楽に対する多大な敬意が感じられる。ポスト・パンクの名作Wireの「Pink Flag」の音楽性に、現代ヒップホップの風味がセンスよく付加されたと言うべきでしょう。
アルバム全体を通し、スリーフォード・モッズ二人の往年のポスト・パンクに対するひとかたならぬ情熱が滲んでいるように思えます。もちろん、彼等の音楽性の背景は幅広いのは、このアルバムを聞いてもらえれば理解してもらえるでしょう。まさに、これは、ラップ、ポスト・パンク、それから、デトロイト・テクノ、アシッド・ハウス、トリップホップ。これらを咀嚼した後に生み出された非常に新鮮な音楽です。
彼等は、スポークンワードだけでなく、トラックメイカーとしても優れていることを今作において証明してみせている。それは三曲目の「Nudge It」を聴いていただければ十分に理解してもらえると思います。この楽曲は、20年代の新たなポスト・パンクの台頭をはっきりと予感させる名曲。
もちろん、ライムの要素を差し引いてバックトラックだけに耳を傾けても、単純に彼等の楽曲の音の格好良さは十二分に体感できるはず。彼等の楽曲は常に、観客やリスナーの方を向いていて、内面に籠もることがない。痛快で小気味良いビート、ディストーションを効かせた尖りまくったベースライン、フックの効いたフレーズが実に見事にマッチしている。さらに、ウィリアムソンの皮肉とユーモラスを交えた歌詞が込められ、テンポよく楽曲が展開されていく。 この曲での、ウィリアムソンとファーンのスポークンワードの絶妙な掛け合いというのは最早圧巻というしかありません。
また、「Out there」では、往年のアシッド・ハウスに対する傾倒も感じられる。何とも渋さのあるトリップホップを彷彿とさせるような雰囲気のある楽曲。ここでも、妙に癖になる言語の旨みが凝縮されている。仮に、この言語に対する理解が乏しいとしても、ウィリアムソンとファーンの英語の間の取れたリリックの節回しのクールさは、この二人にしか生み出し得ないといいたい。
表題曲「Spare Ribs」では、彼等が自分たちの音楽を”ポスト・パンク”と自負しているように、往年のWireの音楽性に対する憧憬が垣間見えるようです。バックトラックは、完全にポスト・パンクなのに、実際の音楽の雰囲気はヒップホップ。このトラックのなぜか妙に癖になりそうなビートは、やはり、ポスト・パンク世代の音楽を通過してきたからこそ生せる通好みのリズムなのでしょう。
ラストに収録されている「Fishcakes」も聴き逃がせない。他の曲と全く異なる雰囲気の感じられる秀逸なトラック。他のからりとした楽曲に比べるも、往年のグランジを思い起こさせる暗鬱な雰囲気が漂っています。
けれども、なんとなく近寄りやすい、また、親しみやすいような印象を受けるのは、この楽曲がスリーフォード・モッズの実際の暮らしから汲み出された感慨を生々しく刻印しているからこそでしょう。
つまり、彼等は、英国の労働者階級の暮らしの心情を代弁している。音楽的にも、ヒップホップ・バラードといった感があり、独特な雰囲気を感じさせる楽曲です。
今作「Spare Ribs」は、全体的に非常に聞きやすく、クールな楽曲で占められています。ヒップホップファンだけでなく、往年のポスト・パンクファンにも是非推薦したい痛快な一枚です!!
参考サイト
Sleaford Mods Wikipedia