Lianne La Havas 「Lianne La Havas」

 

リラン・ラ・ハヴァスは、ロンドン出身の女性R&Bアーティスト。イギリスのR&B界で現在最も一番勢いの感じられるシンガーソングライターの一人に挙げられる。ヴォーカリストとして非常に広い音域を持つアーティストで、これから世界的なアーティストになるべく、今、その階段を一歩ずつ登っている最中であるように思われます。

 

 

彼女の作曲能力というのは生来のものといえるでしょう。何より、ハヴァスの歌声には、”歌う”ことを真心から楽しんでいる雰囲気がある。彼女の愉しみに満ちた歌声は、今日まで世界中の多くの人々の心を明るく照らしてくれています。

 

 

ラ・ハヴァスがミュージック・シーンに名乗りを挙げたのは、2011年のシングルEP「Lost&Found」。それも、二十代でのデビューでありながら、満を持して登場したという表現が相応しいかと思います。この作品は、お世辞抜きにして、新人らしからぬ高い完成度を誇る素晴らしい作品です。

 

 

 

これまでの十年のキャリアの中で、リラン・ラ・ハヴァスは、実力派シンガーとしての自身の力量を遺憾なく発揮して来ています。

 

 

女性シンガーとしての、渋みすら感じさせる聴き応えのある歌声、そのキャラクターの存在感というのも並外れていて、また、楽曲も、穏やかな気分にさせてくれる秀でた曲ばかり。彼女のソングライティングには、R&Bにとどまらず、往年のロック・ミュージックからの影響も伺わせるものがある。

 

 

しっとりとしたバラードソングだけでなく、清々しさのあるポップ・ソング、稀にはロック寄りのアプローチもあって、そこには少なからずの熱狂性も宿っている。自ずと、楽曲はヴァリエーション、バラエティに富む。これらが、ハヴァスの生み出す楽曲の特徴であり、その辺りに万人受けする聞きやすさがあるはず。年代問わずに親しむことが出来、聴き応え十分の音楽といえるでしょう。

 

 

リラン・ラ・ハヴァスの魅力は、少しハスキーな声質に依る音域の広い歌声だけにとどまりません。なんと言っても、彼女はシンガーソングライターでありながら、秀逸なギタープレイヤーとしての表情も持ち合わせています。ライブでは、ギターを弾きながら、この素晴らしい歌声を聴かせてくれる。つまり、歌姫ディーヴァとしてのキャラクターと、ギタープレイヤーとしてのクールさも併せ持っています。ラ・ハヴァスは、本格派のアーティストといえるかもしれません。


 

 

2020年の最新スタジオ・アルバム「Lianne La Havas」は「Is Your Love Big Enough?」「Blood」に引き続いて、ワーナー・ブラザーズから発売となっています。

 

 

 

 

 

アルバム・タイトルに自身の名”Lianne La Havas”を冠することからも、レコード会社からの大きな期待が込められているのが伺えます。しかし、それはただの期待に留まらない。実際、このアルバムにおいて、ラ・ハヴァスは、自身の音楽性を未来に向けて推し進め、新領域へ軽やかにステップを踏み出しています。それは楽曲の素晴らしい出来映えも当然ながら、ギター・プレイ、また、歌声という面でも、前二作のスタジオ・アルバムに比べ、大きく前進したように思えます。

 

 

今作では、さらに楽曲として洗練された印象を受けます。アルバム全体として聴きごたえがあり、迫力もある。エレクトリック・ピアノが楽曲に華やいだ風味を与え、ラ・ハヴァス自身の弾くエレクトリックギターも、IDMの雰囲気を醸し出している。また、ターンテーブルのスクラッチを回すような特殊な技法が新たに編み出されている。これらの要素が楽曲構成上で、絶妙なバランスで合わさることにより、”Neo R&B”の形としてひとつの完成を迎えたように思えます。

 

 

アーティストとしての真価、いや、進化は、彼女の新たな代表曲「Road My Mind」を聴けば瞭然でしょう。ここで、ラ・ハヴァスは、シンガーソングライターとして最盛期を迎えつつあるといえます。この楽曲は、往年のアレサ・フランクリンのような深い感慨のあるR&Bの影響を感じさせ、現代的な洗練性も持ち合わせています。

 

どこかしら渋みの感じられるリズミカルな歌声というのは、心浮き立つような感慨を聞き手にもたらしてくれるはず。

 

 

特に、リラン・ラ・ハヴァスの歌姫として、より大きな存在へと変身しつつある雰囲気が伺えます。そして、アーティストとしての素晴らしい成長が顕著に伺えるのが、アルバム七曲目収録の「Weird Fishes」です。

 

 

ここで、ラ・ハヴァスは、これまで積み上げてきたR&Bのソングライターとしての実力を遺憾なく発揮している。癖になるようなフックの効いたリズム、伸びのあるヴォーカルというのは、これまでにない新たな景色を聞き手に提示しているようにも思える。懐深さ、奥行きの感じられる名曲です。

 

 

そして、八曲目収録の「Please Don't Make Cry」もまたとても聴き応えのある名曲として外す事ができません。しっとりしたバラードの雰囲気を感じさせながら、そこに、大人の質感が上品に漂う。ここに感じられるのは、芸術家としての実際の体験が、楽曲に深みを与えている印象を受ける。エレクトリック・ピアノのアンニュイな感じは、アリシア・キーズの名曲を彷彿とさせます。

 

 

ラ・ハヴァスは、自身のユニークなキャラークターの雰囲気を前面に押し出して、そして、自身の人生の中から引き出された唯一無二の叙情性を、このアルバムの楽曲の中に、”真摯に”込めている気配が伺えます。それはまた、R&Bの本来の魅力を引き出すという面で大きな成功を収めたように思えます。