Weekly Recommend Peter Boroderick「Blackberry」

 

Peter Broderick

 

 

Peter Borderickは、アメリカのオレゴン州出身のミュージシャンで、現在はアイルランドに移住しているポスト・クラシカルのシーンで活躍目覚ましい音楽家です。

 

彼のピアノ・アンビエントの傑作スタジオアルバム「Grunewald」については、既に、アルバムレビューコーナーで取り上げておいたので、参照していただきたいと思います。

 

Peter Bloderick 「Grunewald」Album Review

 

さて、”今週のオススメの1枚”として取り上げておきたいと思うのが、ピーター・ブロデリックの最新アルバム「Blackberry」です。

 

これまで、ピーター・ブロデリックは主にアンビエント・ピアノの繊細で叙情性のあるアプローチを見せているが、本作では、ボーカル入りの楽曲に再挑戦している。歌物としては、実に2015年リリースのスタジオ・アルバム「Colours of The Night」以来となります。

 

本作「Blackberry」は、”家族”をモチーフにした作品であるらしく、彼自身のボーカルをフーチャーした穏やかで温かみのある作品となっています。

 

 

 

「Blackberry」2020

 

 

 

 

 

 

 

 

 TrackLisiting

 

1.Stop and Listen

2.But

3. What Happened Your Heart

4.The Niece

5.Ode to Blackberry

6.Let It Go

7.What's Wrong With a Straight Up Love Songs

8. Wild Food

 

 

 

本作は、2019年、ピーター・ブロデリックが過ごしていた英国の自宅でレコーディングされたという宅録アルバム。

 

彼自身の言葉に拠れば、"エクスペリメンタル・ベッドルーム・インディー・ポップ”というジャンルを想定したようです。つまり、ブロデリックの新たな挑戦を刻印したみずみずしい作品といえます。

 

このアルバムには良質な楽曲が散りばめられており、掴みやすい音楽性で、聞き手を引き込む力が十分に込められている。もちろん、ブロデリックの音楽を聴いたことがないという方、また、ポストクラシカルに馴染みがない方も十二分に楽しめる内容となっているはず。

 

それまでのインスト曲を中心としたアプローチから転換を図ったスタジオ・アルバム「Colours of the Night」においては、どちらかというと、ブロデリックは内省的なアプローチを試みていた。五年振りにボーカルトラックに挑戦した本作では、楽曲の方向性が外向きになったというべきか、聞き手に歩み寄るような形の聞きやすい印象のある音楽性に挑戦しています。

 

そして、本作「Blackberry」では、ピーター・ブロデリックのこれまでの音楽的な経験の蓄積というのがこの上なく発揮されています。

 

今作のテーマ、”家族”という概念のあたたかみ、いつくしみを表現することに成功している。彼の提示する今回のモチーフは、このアルバム全体に通じている雰囲気があり、聞き応えのあるコンセプト・アルバムのような物語性も感じることが出来るはず。

 

全体的には、フォーク音楽を下地にし、そこに、往年の英国の古典的なポップ/ロックミュージックのニュアンス、彼本来のポスト・クラシカルの風味を付加したような印象。彼のボーカルというのは堅苦しくなく、ブロデリックのアルバムの中では最も親しみやすい部類に入る。

 

 

一曲目「Stop and Listen」は、ユニークなホーンをフーチャーした楽曲である。柔らかなマンドリンのアルペジオも聴くことが出来る。そして、ピーター・ブロデリックのボーカルというのも懐深さを感じさせます。

 

四曲目「The Niece」では、珍しくトラディショナルフォーク寄りのアプローチを取っており、弦楽器のアレンジメントの効果により、清涼感のある雰囲気も感じられる。

 

五曲目「Ode to blackberry」はボーカルだけでなく、ブロデリック自身の弦楽器の演奏が味わい深い。

 

六曲目「Let It Go」は、2021年の最新EP「LET IT GO BLACKBERRY SUNRISE REMIX」において、クラブ・ミュージック風のアレンジとしてのリミックス。本作では、原曲の穏やかでくつろいだ良質なフォーク、インディー・ポップの旨みを心ゆくまで味わいつくすことが出来るはず。

 

 

また、スタジオアルバム「Blackberry」で聞き逃す事ができないのが、アルバムの最後に収録されている「Wild Flower」。音楽の方向性として、オアシスのモーニング・グローリー、つまり、ブリット・ポップ全盛期の雰囲気を引き継いだ素晴らしい楽曲。

 

「Blackberry」2020は、これまでのピーター・ブロデリックのクラシカルの音の方向性とは一味違った英国のロック/ポップ音楽への敬意が感じられる傑作となっています。

 

また、本作には、聞き手の心に、爽やかな活力を呼び覚ます力が込められているように思えます。それはきっと、ピーター・ブロデリックの提示する”家族”という概念が、非常に穏やかで、温かみあるものだからなのでしょう。