夏の記憶に残る名曲をピックアップ
夏になると、様々な美しい風物があちらこちらに見られます。古来から、私達は、これを風物詩といふうに名付けた。 人によって思いかべるものはそれぞれ異なり、その体験、経験によって色付けされるとも言える。
ここ、日本には、さまざまな麗しい夏の風物詩というのがあります。青く澄んだ空に浮かぶ入道雲をはじめ、透き通るような海の景色、風鈴であったり、簾であったり、扇風機、食卓に並ぶ半円形のスイカ、お祭りの屋台であったり、夏の終りに家族友達と見る大きな花火であったり。
それは音楽についても同じ。
ここ日本には素晴らしい夏の名曲が数多く多種多様に存在する。ときに、その楽曲を思い浮かべたときに、とても切ない情感をもたらす名曲の数々がある。それはあなたの人生をより豊かにするもの。
今回、夏を記憶を彩る名曲、名盤を、ピックアップしていこうと思います。メジャーな曲を中心にあげていきます。
この特集「Best songs for the summer」が、貴方好みの夏の一曲を見つける手助けとなれば、これほど喜ばしいことはありません。
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七尾旅人
billion voices 「どんどん時は流れて」
日本の数少ない本格派インディー・フォークを牽引するアーティストと言っても良い七尾旅人。放送番組のナレーションを務めるほど、歌声だけでなく、普段の話し声のトーンも非常にうつくしい人です。
七尾旅人の音楽性としては、日本のフォーク音楽を基調とし、比較的、親しみやすい楽曲の中にも、通好みのR&B色を取り入れているのが七尾旅人の楽曲の特色です。
七尾旅人の楽曲は聴く人、時代を選ばない普遍的な価値を持っている。歌詞にも、等身大の自分の姿を見つめた肩肘をはらない詩に共感を見い出すことは難しくないはず。そして、七尾旅人の歌には、人間と情景が密接に結びついた歌詞が多く見受けられる。それをさらりと歌ってのけるのが格好良いところでしょう。
彼の夏の楽曲としては、一番目に思い浮かべられるのが「湘南が遠くなってく」という、さわやかなアコースティックギターのフレーズを活かした一曲なんですが、この曲よりもはるかに夏に聴いていてその情感が感じられる楽曲が「どんどん夏が流れて」。こちらを夏のオススメとして取り上げておきます。
特に、イントロにセミの声が効果音として取り入れられていて、初めて聴いた時、ああ、これは夏の終りの曲なんだなというふうに直感しました。この独特な七尾節ともいうべきコード感、そして、エレクトリック・ピアノのアレンジというのも◎。歌詞においてもなんとなく、自己のダメさ加減についてのやるせなさがソフトにさらっと歌いこまれているのがとてもカッコいい。
そして、僕から、僕たち、というふうに、曲の展開とともに、人称が移動していくあたりには、現代詩のような感もあり。R&Bのバラードとしての日本のポップス界の隠れた名曲のひとつに挙げてもおきたいと思っています。季節の移り変わりを、情感たっぷりに振り返った珠玉の名曲。アコーティスックギターの爪弾きのやさしげな温もりというのが凝縮された逸品です。
はっぴいえんど
風街ろまん 「夏なんです」
最早、伝説になりつつある、はっぴいえんど。 細野晴臣だけではなく、大滝詠一、そして松本隆とその後の日本の歌謡界に多大な影響、貢献をはたした日本で海外に通用する数少ない実力派のロック・バンドです。
一時期、若いアーティストにも人気があり、「森は生きている」をはじめとするフォロワー・バンドも出てきました。トクマル・シューゴ、Predawn、結構影響を受けてそうな日本人ミュージシャンは多いです。若い人にも是非聴いてもらいたい日本の偉大なロックバンドです。よく考えてみると、このはっぴいえんどというロックバンドは、メジャー系のアーティストでなく、インディー・アーティストだった。
まだ、それほど、音楽業界というのも、現在のように整備されてない時代、かなり自由が効いたのかもしれません。米軍基地の近くの掘っ立て小屋みたいなところでレコーディングしたり、千円くらいのおひねりをもらって大喜びしている細野さんとか、ちょっと現在のこの三人の知名度からいうと、信じがたいものがある。
はっぴいえんどの夏の名曲というのは、「夏なんです」しか考えられないでしょう。これは、「風をあつめて」と共に、日本の歌謡曲の普遍的な歴史として残るべき名曲です。松本隆さんの幼少期の体験の記憶がモチーフにされた日本のポップスの名曲のひとつ。
歌詞もノスタルジアに富んでおり、”ビー玉、茶屋、入道雲、日傘”という言葉がちりばめられ、”日傘ぐるぐる”、とか、”ほうしつくつく”、”もんもんもこもこ”をはじめとするどことなくフォークロア、民族学的な味わいを持った日本語歌詞としての冒険心も読みほどくことができる。
歌詞を聴いていて、その情景がまざまざと思い浮かぶような楽曲はそうそうないのに、松本隆さんの歌にはそれがあるのは、実際の感覚を詩に落とし込むという手段に真心を込めているから。
驚くほど克明に、日本語で、情景、それにまつわる情感を描写することに長けているのは、松本さんに文学の天才的な素養があるからこそ。そこに、細野晴臣のちょっとだけ、おどけたようなニュアンスの歌いぶりというのも、温厚な人柄が表れている。さらに、そこに付け加えられる今は亡き大滝詠一のクールなコーラスというのも感涙ものといえる。
cero
Obscure Ride 「Summer Soul」
ceroというアーティストは、「大停電の夜に」という楽曲に代表されるように、元々は、オルタナティヴ・ロック系のアプローチを選んでいたバンドだった。
それから、歌物アーティストとしてのベールを脱ぎ、「My Lost City」というスタジオ・アルバムから、R&Bや、ファンク、ヒップホップをはじめ、徐々に様々なジャンルを吸収し、cero節ともいえる独特な音楽性を作り上げている。このセロの中心人物、高城昌平さんのヴォーカルは、少し、かすれたようなハスキーボイスを特長としていて、それがこのセロの音楽に独特な味わいが感じられ、このトリオの音楽の重要な鍵になっています。
そこには、トラック自体の作り込みの精度の高さはもちろん、フルート等をアレンジメントに取り入れたり、都会的な洗練性であったり、音のおしゃれさであったりというのを追求している。
高円寺という、純情商店街をはじめとする独特なサブカル系の若者カルチャーの中に育まれて出てきた中央線界隈のアーティスト。日本語歌詞であるものの、海外寄りの洋楽向けの音を意識したアーティストのように思えます。結構、音楽性の間口が広く、作品ごとに異なる音楽性を見せてくれている、近年のJ-Popシーンで聞きどころのあるアーティストです。
この "cero"の作品の中で夏の一曲としては、「SummerSoul」を挙げて置きたいところ。クラブミュージックを意識した音の作りで、日本語歌詞のフレイズの中にそれとなくライムっぽい節回しのアプローチを潜ませている。歌謡曲の系譜を引き継ぎ、そこに、ヒップホップやR&Bの風味をセンスよく付け加えた軽快な楽曲です。
歌詞の中でも、どことなく夏の中にある目にみえる情景の変化が表れていて、それがものすごくおしゃれなアレンジがほどこされている秀逸な楽曲。夏の夕方から日が完全に落ちる時間のドライブ中にかけると、とても爽快で、さっぱりした気分になれる。そして、セロは、音楽に対してあくなき探究心、強い熱意を持って、作品を作り続けているアーティストです。
fox capture plan、おかもとえみ
甲州街道は夏なのさ 「甲州街道はもう夏なのさ」
fox capture plan、と、おかもとえみ、という2つの異なるジャンルのアーティストがコラボレートした楽曲、「甲州街道はもう夏なのさ」。
これは、つい先日、というか昨夜、Spotfyの「夏」というワードの検索で偶然見つけてしまった曲です。
fox capture planの方は、2012年から活動しているロックバンドで、mouse on the keysのように、ピアノや弦楽器をダイナミックに取り入れたロックバンドと言えるでしょうか。
これまでのキャリアにおいて、有名な仕事を挙げると、フジテレビドラマ「 コンフィデントマン」のサントラも手掛けています。また、ゲストボーカルとして参加している岡本さんの方は、これまで2015年からアルバムを二作リリースしているクラブミュージック寄りのJ-popアーティスト、シンガーソングライターと言っていいでしょう。
この2つの全く畑違いのアーティストがコラボした「甲州街道はもう夏なのさ」 。これは、夏のドライブに相応しい軽快な楽曲といえるでしょう。
ピアノの爽やかなフレーズ、あるいは、ウッドベースの表情付けであったりと、トラック自体のサウンドは、どちらかと言えばR&Bよりといえ、往年のJpopの普遍的な良さを抽出したようなおしゃれさの感じられる楽曲です。
ソロ・アーティストとしてはもう少し強い印象を放っている、おかもとえみさんのボーカルはこのコラボ楽曲において、引き締まったリズムトラック、そして、ピアノのバランスのとれたコード弾きとメロディー付により、涼し気な雰囲気を与えてくれるはず。
「甲州街道はもう夏なのさ」は、うでるような暑さをちょっとだけやわらげてくれる軽快なナンバーで、良質なJ-popの楽曲。
甲州街道を多分、車で運転しているときに曲の着想を得たトラックだと思われますが、この歌詞、初っ端から、プッと笑っちゃうようなユニークなところがあります。この楽曲の歌詞に描かれているユニークな、いかにもアーティストらしい悩みって? それは聴いてのお楽しみ。
相対性理論
シフォン主義 「夏の黄金比」
おそらく日本のJ-Popシーンで、椎名林檎に匹敵する個性派アーティストを見出すなら、このやくしまるえつこという人をさしおいてほかいない。それほどに一部界隈からは神格化されるようなカリスマ性のあるアーティストです。
この相対性理論というバンドは、それほどメインストリームでは有名というふうにはいえませんが、非常に日本のインディーズ・シーンでかなり強い影響力を発揮してきたバンドといえます。
音楽的には、ザ・スミスのようなフランジャーとかリバーブ/ディレイをてきめんに効かせたギターを特長とし、そこにやくしまるえつこの独特な世界観が充溢している。アイドルポップを主体的な印象としているが、バックトラックとしては、ブリット・ポップに近いアプローチを取る実力派バンドです。
このバンドの「夏の黄金比」という楽曲は、十代の青春のアンニュイさ、もしくはメランコリアを克明に音と歌詞で描いてみせたという点において、これを上回る曲を見つけるのは難しいように思えます。
まさに、スミスのジョニー・マーを明らかに意識したギターの音色というのも通を唸らせるもので、そこに、やくしまるえつこの独特なワールドが全面的に展開されています。また、どことなく可愛らしいキュートさのある、やくしまるえつこのヘタウマボーカルの雰囲気というのも切ない質感に彩られている。なんとなく、夏の終りをおもいかえさせてくれる楽曲。もちろん、それは歌詞でも同じ、「コントレックス箱買い、コントレックス、箱、箱、箱買い」という謎めいたループワードの言葉遊びに、やくしまるえつこらしい独自の世界、あるいは、内向的なコスモスが込められている。
これぞ、夏特有の十代の淡い切なさ。分かる人にはとことん分かし、わからない人にはとことんわからない。でも、それこそ相対性理論というロックバンドの最大の持ち味といえます。
Eastern Youth
旅路に季節が燃え落ちる 「夏の日の午後」
1980年代から、札幌のパンク・ロックシーンを牽引してきたイースタン・ユース。ナンバーガールからも絶大なリスペクトを受けており、”怒髪天”とともに、日本語ロックの伝道師として君臨してきたパンク・ロックバンドです。イースタンユースは、元々、札幌のシーンにおいて、Oi Punk、あるいは、Skinsとして出発したバックグラウンドを持つ。
フロントマンの吉野寿さんは、常に政治的な発言を、おそれず、真っ向きって行う日本で数少ないオピニオンリーダーです。
その後、イースタンは、札幌から東京、高円寺に活動拠点を移し、「裸の音楽社」というレーベルを設立し、これまで、DIYの活動を頑固一徹、継続している。「常に、一寸先は闇という感じで、我々はやってきた」という吉野寿さんの言葉どおり、ストイックな側面を持つバンドです。
太宰治、坂口安吾といった日本近代文学に色濃く影響を受けた歌詞というのも、イースタン・ユースの最大の魅力といえるでしょうが、このバンドには、日本語のソウル・ロックとしての醍醐味、そして、暑苦しいほどの魂の痛切な叫びに、他の追随を許さないほどのパッションが込められてます。
近年、オリジナルメンバーの二宮さんが脱し、新たに女性ベーシスト、村岡ゆかさんが加入。
これまでライジングサン・フェスティバルやアラバキ・ロックフェスなど出演経験があり、日本のインディーズシーンで歴史のある企画「極東最前線」では、若手の有望なアーティストを見出す役割も果たしてきている。これまで日本のインディーズシーンを先陣を切って先導しています。
イースタン・ユースの夏の名曲としては、「夏の午後」という楽曲が挙げておきたい。
ここでは、むしろ、夏の暑さを和らげるどころか、さらに、その暑さを強めるような楽曲です。そして、最初期からのパンクロックバンドとして、日本語ロックバンドとしての完成形を形づくってみせた名曲。
二宮さんのベースも脂が乗り切っており、テクニカルなジャズベース的な独自の奏法が見受けられるのが特長。そして、もちろん、楽曲としても、イースタンにしか醸し出せない長いバンドとしての経験に裏打ちされた渋い味わいがあり、またそこに、吉野さんらしい、真正直で、嘘偽りのない、魂のこもったソウルフルな叫びが加わる。
日常のありふれた生活空間にふと見いだされる夏の淡い情感を、イースタンユースは、日本語の詩として、音楽として、そして、ソウルとして、力強く、男らしく、描き出す。なぜか、聞いてると、俄然、勇気が満ち溢れてくる日本語ロックの夏の名曲です。
Number Girl
記録シリーズ1 「プールサイド」
この「プールサイド」というナンバーガールの名カバーの原曲は、Bloodthirsty Butchersのスタジオ・アルバム「未完成」に収録。
もちろん、ブッチャーズの原曲も、内向的な雰囲気が滲んでいる夏の名曲のひとるで、日本の隠れた夏の名ソングとして語り継がれていくでしょう。
残念ながら、この「未完成」というスタジオ・アルバムは、インディーズ市場でしか流通しておらず、現時点においては入手困難なので、ナンバーガールのライブ活動記録をもれなく収め尽くした「記録シリーズ1」に収録されている「プールサイド」の方を、オススメしておきます。
ブラッドサースティ・ブッチャーズの原曲の方は、 米国の伝説的オルタナティヴ・ロックバンド、Dinasaur.Jrを彷彿とさせるシューゲイザー寄りの轟音ロックといえるでしょう。しかも、そこには、表面上の轟音さとは裏腹に、そのエネルギーは、外側に向かっていくのでなくて、轟音性が内面へ内面へと向かっていく。ここに、吉村さんらしい詩的な感情、切ない青春の雰囲気が込められている。
一方、ブラッドサースティ・ブッチャーズの盟友、ナンバー・ガールの日比谷公演大音楽堂でのライブカバー「プールサイド」は、どちらかと言えば、米国のもうひとつの伝説的オルタナティヴ・ロックバンド、The Pixies寄りの音のアプローチを図っており、ここで、鬼才、向井秀徳の資質、”歪んだポップセンス”が遺憾なく発揮されている。
この後、ナンバーガールの解散してから、このバンドのギタリスト、田淵ひさ子が、ブラッドサースティ・ブッチャーズにセカンドギタリストとして加入したという事実を考えると、何かしら感慨深いものがあります。
この「プールサイド」という楽曲が素晴らしいと思うのは、青春という得がたい概念を、歌詞においても、音においても、的確かつ端的に現しているから。それは、十代というリアルタイムの質感、また、年をとってから振り返る青春の淡い質感を、見事に表しているということでもある。
「プールサイドからの眺め」。この曲の歌詞において、非常に多角的な視点として描かれており、最終的には「乱反射、水の音」という、対句表現にも似た、対句のような表現に結ばれていく。
夏という大きな概念を、プールサイド、そして、最後に、水の表現に収束させていくのは天才としかいいようがない。ここで歌われる内容は、おそらく若い頃の自身の内向的な一傍観者としての経験を綴ったもので、なぜかしら、ここには、現実的で冷厳な側面が込められている。夢想的、叙情的ではあるものの、全然、現実感は失っていないように思える。
原曲「プールサイド」での吉村さんの歌詞は、詩的であるとともに、きわめて哲学的な雰囲気を併せ持つ。それが、このナンバー・ガールのライブカバーにおいては、その哲学的な表情を意図的に薄れさせ、親しみやすい、可愛らしさのあるアレンジメントが施されている。
Nico Touches The Walls
ニコ タッチズ ザ ウォールズ ノ ベスト 「夏の大三角形」
実は、このニコ・タッチ・ザ・ウォールズという日本のロックバンドは、私の友人と親しいベーシストがメンバーに在籍していて、十年以上前からずっと、密かに応援しつづけているバンドです。
以前、ノラ・ジョーンズが来日した同じ頃、武道館公演も果たしている全国区のロックバンドです。最早、バックグラウンド、バイオグラフィについてあらためて説明するまでもないでしょう。痛快で爽やかな雰囲気のあるロックを奏でるバンドとして、メインストリームで活躍しつづけています。
このバンドの凄いところは、十数年前のデビュー時から、継続的に良質な日本語ロックをリリースし続けているところ。
そのプロフェッショナル精神には頭が下がります。エンターテインメントとしてのロック音楽というのを熟知しているから、聞き手のことを考えた音楽を一定の水準を保ったまま提供出来るのでしょう。
これぞ、プロ中のプロミュージシャンといえ、 デビュー当時から今日まで一般的なファンを数多く獲得し続けているのも頷ける話です。そして、親しみやすい日本語ロックバンドというイメージがありながら、ソリッドでタイトな高い演奏力も併せ持っている実力派のアーティストです。
そして、彼等の楽曲「夏の大三角形」。
デビュー当時からの勢いを失わず、そして爽やかな質感もあって、また、親しみやすい一般的な楽曲の要素はいまだ引き継がれ、この楽曲には夏としての情感もさることながら、スタンダードな日本語ロックの魅力が存分に味わえる。
夏のドライブ中にかけても良し、また、ちょっと元気がないなというとき、自分の勇気づける楽曲としておすすめ。
そこまで歌詞の中に、夏が強調されているわけでもないのに、暑さを吹き飛ばすような涼し気な感じが、この楽曲の雰囲気に漂っています。曲の最後のスチールドラム風のアレンジも夏らしくて面白い。
ごくシンプルに、ロックバンドとしての勘の良さのあるアーティストです。これからも永く、日本のミュージックシーンを牽引していってもらいたい、良質な日本語ロックバンドです。
スチャダラパー
5th Wheel 2 the COACH Standard of 90's 「サマージャム '95」
スチャダラパーは、平成時代のJ-Popシーンにおいて、初めて、本格派のヒップ・ホップ旋風を巻き起こし、 J-Hip Hopの知名度をオーバーグラウンドに押し上げた立役者。
そして、日本語のライムの質感、日本語の語感の面白さをヒップホップとして追究したアーティストです。
当時は、テレビ番組、「カウントダウンTV」が全盛期の時代で、良いアーティストは、この番組を通しておぼえていたんですが、スチャダラパーもオリコンチャートで健闘してたのをよく覚えています。PVでのスチャダラパーの本格的なラッパースタイルの立ち振舞いを含め、衝撃的なシーンへの登場の果たした。しかも、三人のキャラクターがとてもユニークであるため、当時相当な人気を獲得したアーティストだった。
この”サマージャム ’95”は近年、環ROY、鎮座DOPENESS、U-zhaanの三アーティストによりカバー曲として見事に復活を果たし、再注目されているJ-HipHopの名曲です。
改めて、聴いてみると、やはり、単純にカッコいい曲と思います。ヒップホップの基本的な技法、スクラッチ音とか、サンプリングの最低限の技法を、しっかり抑えておきながら、チルアルトとの中間点に存在するような感じで、センスあふれるおしゃれな楽曲。
とりわけ、夏の記憶についてのライムが交互に情感たっぷりに歌われており、しかも、理想と現実の間で歌詞が揺れ動いているのが面白い。リア充になりたいんだけれど、なりきれない。等身大の自分の姿を描き出し、気負いというのが感じられない。聴いていて、なんとなく、リラックスできちゃうのが、この楽曲「サマージャム’95」の良さ。
中には、結構、家の近所で見かけるような日常的な情景が描かれていて、そして、懐かしい夏の記憶がさらっと歌いこまれる。ヒップホップ、チルアウト、でありながら、その音楽としての下地にはやはり、日本の歌謡曲があって、それに対するリスペクトを込めた上で、クールなクラブ・ミュージックのノリをもたらしている。一見、ちゃらいようでいて、結構、トラックメイカーとしては硬派なアーティストだと分かるはず。
スマートフォンでも聴いても、素晴らしく音が良いのに驚きます。このあたりは、大手EMIからリリースというのもあるでしょうが、やはり、この”スチャダラパー”という三人組のトラックの作り込みの精度の高さ、ライムの配置の的確さにあるという気がする。おそらく、リアルタイムで、この曲を聴いていなくとも、この「サマージャム’95」を気に入ってくれる方は少なくないでしょう。
Def Tech
Def Tech 「my way」
次に紹介しておきたいのは、これも平成時代に非常に人気のあった二人組アーティスト、デフ・テック。
この楽曲「My Way」の歌詞には夏という言葉は、直接的には登場しませんが、海が良く似合うユニットであり、日本人とアメリカ人の混合アーティストとして平成時代に一世を風靡しました。
一度、幕張海岸の夏フェスの海岸沿いのステージで見るチャンスが一度だけあったんですが、彼等のステージを見そびれてしまいました。他のパンク・ロックの洋楽のアーティストを追っていたためです。でも、今、思うと、見ておけばよかったなとつくづく後悔。
小室ファミリーやエイベックスのアーティストをはじめ、平成時代から続々と英語と日本語を絶妙にかけ合わせた歌謡曲、ポップスが数多く出てきたような感がありました。Aメロ、Bメロは日本語歌詞だけれども、サビだけ英語とか。この時期の音楽は、言語的な実験をしていた時期でもあった。
特に、デフテックについては、本場ハワイ仕込みのネイティヴの英語歌詞ということもあり、他のアーティストと比べてクールさが際立っていた記憶。レゲエという括りで出て来たユニットではあるものの、この楽曲「My Way」だけにとどめて言うなら、クラブ・ミュージック寄りのJ-Pop。
しかし、時を経て、じっくり、このサーフ・サウンドを聴いてみると、楽曲の印象ががらりと変わるはず。
例えば、アメリカのシンガー・ソングライター、ジャック・ジョンソンのような、爽やかなアコースティック・フォークの本格的な雰囲気がある。トラック自体の作りもカッコいい、言葉の節回しというのもかなはら早口で、ヒップホップに近いものがあるようで、今、聞いても、新鮮で爽やか。なぜかしれないが、二人の友情に結びついた勇気づけられるような力強い歌詞が記憶に残る。夏を彩るソングとして抑えておきたい定番の一曲。
久石譲
「Summer」 菊次郎の夏(オリジナル・サウンドトラック)
最後にご紹介するのは、フランスで絶大な人気を誇る北野武の初期の映画のサウンドトラックの一曲「Summer」です。
フランスでは、十年前くらい、テレビで「風雲!たけし城」を再放送していると、フランスから観光に来たアマチュア映画監督から聞きました。しかも、結構高視聴率だとか。キタノ・タケシのコメディアンとしての人気は、現地では不動のものであるらしい。
一方、この映画の音楽を担当した久石譲さんは、あらためて紹介するまでもない気がします。
もちろん、日本の劇伴、映画音楽界の巨匠といわれる方で、夏の名曲としては多くの記憶に残る名曲があります。
もちろん、ジブリの夏にまつわる楽曲も捨てがたいですけれども、やはり、久石さんの夏の名曲といえば、北野映画の名作「菊次郎の夏」のサウンドトラックは外せない。
久石さんは、これまでのご自身のキャリアにおいて、「もののけ姫」、「ハウルの城」などのジブリ作品に代表される名サントラを数多く残し、静かでありながら、深みのあるピアノ曲を数多く残している。シンプルで、誰にでも親しめる、癒やしの味わいある職人気質の名曲を生み出すという点では、比肩する作曲家は見当たらないかもしれません。
久石さんの作風は、目にありありと美しい情景を浮かび上がらせる。それは自身の記憶とむすびついて、うるわしく彩られる。まさに、久石さんこそサウンドトラックの名手。
この「菊次郎の夏」の代表的なサウンドトラックの名曲「Summer」は、日本では多くの方が一度くらいは聴いたことがあるはず。なんとなく、日本の夏の代名詞な名曲のような気がします。
この曲には、日本としての美しさが克明に描かれています。海外の美とはことなる日本の美というのが、「Summer」では、淡く深い情感をまじえ、丹念にピアノ曲として描き出されているように思える。聞いていると、不思議と元気に満ちあふれてくる永遠の名曲。