Schole Records 特集 注目のアーティストと名盤

Schole Records


Schole(スコーレ)は劇伴音楽を中心として活躍する作曲家小瀬村晶、菊池慎の両氏により2007年に東京で設立。レーベル発足以後、エレクトロニカ、ポストクラシカルを中心に作品をリリース。

スコーレのレーベルコンセプトとして掲げている概念は、”人々が主体的に自由に使える時間、その時間から育む事のできる豊かな創造性”。

音楽をレコードとして捉えるだけではなく、聴く人の情感に何かを与えられるように、というコンセプトを持ち、「余暇」というのを主題に、様々な作品リリースをインディペンデントの形態で行っています。

多忙な現代人の心に穏やかな安らぎを与えるという明確なコンセプトを掲げ、2007年から2021年の今日までの十四年間、それほどカタログ総数は多くないものの、聴き応えのある良質な作品のリリースを継続的に行っています。

scholeのレーベルオーナーである小瀬村晶氏は、ポスト・クラシカルの作曲家演奏家として自身の作品をリリースするだけではなく、日本映画音楽での作曲家としても以前から活躍が目覚ましいアーティストです。

このscholeに所属するアーティストは、小瀬村晶の他にも、日本のクラブミュージック界隈で活躍するハルカ・ナカムラ(伝説的なDJアーティスト Nujabesとの共作が有名)、フランスで映画音楽作曲家として活躍するクエンティン・サージャック、英ロンドンを拠点に活動する電子音楽家、Dom MIno'等が有名。

国内外を問わず、良質なアーティストが在籍しています。scholeは、エレクトロニカ、ポスト・クラシカルといったヨーロッパ、とりわけ、イギリスやアイスランドで人気の高いジャンルに逸早く日本のシーンとして反応。また、このレーベルに所属するアーティストは、エレクトロニカ、ポスト・クラシカルの国内での普及に今日まで貢献して来ています。

概して、schole主催のコンサートの際立った特色は、それほど大規模のコンサート会場で行われるというわけでなく、細やかな数十人ほどの収容の会場で観客と極めて近い距離を取り、すぐ目の前でアコースティック色の強い音楽を堪能することが出来る。

コンサートは、二、三十代くらいの観客が多く見られますが、お年寄りから子供まで安心して聴くことが出来る穏やかで静かな音楽です。スコーレのコンサートは、音楽という領域での細やかな美術展のような形式で開催される事が多い。

このscholeの発足当初から、私は、このレーベルのアーティストの紡ぎ出す、やさしく、おだやかで、心温まるような音楽に魅せられてきました。一度、コンサートに足を運んだくらい大好きなレーベルです。レーベルオーナーの小瀬村晶氏の劇伴音楽作曲家としての活躍により、今後、さらに大きな注目が集まるかもしれません。

今回は、scholeのレーベルに所属するアーティスト、数々の名盤、音の魅力について説明していきたいと思います。


 

 1.Akira Kosemura


小瀬村晶は、スコーレ・レコードを主催するオーナーにして、ポスト・クラシカル派のアーティストとして活躍。

scholeの設立と共に2007年のアルバム「It' On Everything」をリリース。これまで一貫して、ピアノの主体とした穏やかなポスト・クラシカル音楽を追求しています。基本的には、アイスランドやドイツのポスト・クラシカルシーンに呼応したピアノアンビエントの作風から、エレクトロニカ寄りの電子音楽まで、サウンド面でのアプローチは多岐に渡る。

最初期は、ピアノ音楽とエレクトロニカを融合したスタイリッシュな穏やかなアプローチを図っていましたが、近年では、エレクトロニカ色は徐々に薄れ、ピアノ音楽、小曲の形式を取るピアノ音楽の真髄へ近づきつづあるように思えます。オーラブル・アーノルズ、ニルス・フラーム、ゴルトムントの楽曲の雰囲気に近い、ピアノのハンマーの音を最大限に活かしたサウンドプロダクトが特長、ピアノのハンマーの軋みのアンビエンスが楽曲の中に取り入れられています。 

このポスト・クラシカルとしての小瀬村晶氏の楽曲の魅力は、一貫して穏やかで、特に聞き手に爽やかな風景を思い浮かばせるようなピクチャレスク性、感性に訴えかける情感にあふれています。それはレーベルコンセプトである「余暇」というものを変わらず表現してきていて、忙しい現代人の心に一筋の安らぎを与えるという明確な意図を持った楽曲を生み出し続けているという印象を受けます。

実際の演奏を聴くと、演奏技術が並外れて高いのが分かりますが、楽曲制作、レコーディングにおいては自身の技術ではなくて、楽曲のシンプルさ、親しみやすさ、そして、誰が聴いても分かる良さというのに重点が置かれているように思えます。楽曲は内向的ではあるものの、さわやかさがあり、また、内面に隠れていた心穏やかな情感を呼び覚ましてくれるはず。東京のアーティストでありながら、都会の喧騒、あるいは気忙しさとはかけ離れた穏やかで自然味あふれる雰囲気を追求しているという印象を受けます。それは都会に生きる人の切迫感とは対極にあるような平らかさを、ピアノ音楽、また、電子音楽によって表現していると言えるかもしれません。

小瀬村作品の推薦盤としては一枚に絞るのは難しい。非常に多作な作曲家でもありますし、年代ごとに作風も電子音楽からエレクトロニカ、アンビエント、ポスト・クラシカルと幅広い音楽ジャンルに適応するアーティスト。

しかし、幾つかのスコーレを代表する名盤を挙げるとするなら、エレクトロニカとポスト・クラシカルの融合サウンドを追求した「Polaroid Piano」。また、その方向性を引き継ぎ、より音の透明な質感の感じられる「Grassland+」。或いは、近年のポスト・クラシカルの名盤「In The Dark Woods」。三作のスタジオ・アルバムを小瀬村作品の入門編として挙げておきたいところでしょう。

 

Grassland + 2014


シングルとしてリリースされた 「The Eight Day」2020、「Ascent」2020も、これまでの小瀬村作品とは一味違った旨みが感じられる作品で、ノスタルジックさを感じさせる穏やかな名曲。日本のポスト・クラシカルアーティストとして、新たな境地を切り開いてみせたと言えるかもしれません。 

現代人が日々を生きるうちに忘れてしまった安らぎ、また、穏やかさ、平和さを、純粋なピアノ曲によって表現する日本で数少ない良質なアーティストで、音楽家としてもこのレーベルを代表するような存在です。 



2.Haruka Nakamura 


scholeというレーベルを最初期から小瀬村晶と共に牽引し、近年までの、エレクトロニカ、ポスト・クラシカルという音楽の知名度を日本において高めるような活躍を見せているのがハルカ・ナカムラです。 

小瀬村晶とは盟友的な存在といえる関係にあり、scholeのもうひとりの看板アーティストと言えそう。ピアノ曲を主体とした音楽性ですが、電子音楽家としての表情、あるいはまた、ギタリストとしての表情も併せ持つマルチプレイヤーとも言えなくもないかもしれません。

ハルカ・ナカムラの楽曲の特長は、人の情感にそっと寄り添うようなやさしさがあり、どことなくノスタルジー性のあるエモーションが込められていること。ピアノあるいはギターの演奏にしてもそれほどテクニカルでなく、シンプルにこれぞという良質なメロディーを散りばめる。聴いているとなんともいえない甘美さをもたらす。

また、最初期の作風に代表されるように、ギターの演奏の落ち着いた詩的な表現力があるのが最大の魅力。サウンドプログラマーとしての才覚も群を抜いており、アンビエント風のサウンド処理については、他に見当たらないような抜群のセンスの良さが感じられるアーティストです。

ハルカ・ナカムラの推薦盤としては、まず、日本のクラブ界のレジェンド、”Nujabes”とのコラボ作品「MELODICA」2013、このアルバムに収録されている「Lamp」は、日本のクラブシーンにおいての伝説的な名曲です。しかし、残念ながら、この作品は スコーレのリリースでありませんので、彼の最初期の作品「Grace」2008をハルカ・ナカムラの入門編として、おすすめしておきたいところ。 

Grace 2008


穏やかで淑やかな抒情性の中に真夜中の月のキラメキのごとき力強さが感じられるアーティストです。今なお、変わらず、その楽曲に満ち渡る光というのは、外側に力強い光輝を放ち続け、聞き手を魅了してやまない。もちろん、最初期からこのレーベルを共に支えてきた盟友、小瀬村晶氏との音楽性における共通点は多く見いだるものの、ハルカ・ナカムラの楽曲には、いかにも日本のクラブミュージックで活躍するアーティストらしい、独特なクールさが見いだせるはず。   


3.Paniyolo


Paniyoloは、福島県出身のギタリスト、高坂宗輝さんの2006年からのソロ・プロジェクト。 アコースティックギターの爪弾きによって、穏やかでくつろげる静かな音色を生み出すアーティストです。

 上記の2人に比べると、カリスマっぽさはないものの、どことなく親しみやすい温和さのあるギタリストです。ライブでは、エレクトリック・アコースティックギターを使用。それほど演奏自体は技巧的ではないものの、フレーズのセンスの良さ、そして、和音進行の変化づけにより、繊細なニュアンスを与える。演奏自体はシンプルなアルペジオ進行が多いけれども、その中に、ギターの木の温かみを活かした自然味あふれる雰囲気を感じさせてくれる素敵な音楽。

音楽的なアプローチとしては、電子音楽、フォークトロニカ寄りになる場合もありますが、基本的にはインディー・フォークを頑固一徹に通してきているなんとも頼もしいアーティストです。

その中にも民族音楽色もあり、とくにスパニッシュ音楽からの影響がそれとなく感じられるギタリスト。Paniyoloの生み出す音の世界は幻想的とまでは行かないけれども、温和なストーリー性の込められた音楽です。

どことなく切なげな質感によって彩られているのも乙です。なので、ジブリ音楽のような方向性の音楽を探している方には、ピッタリな音楽かもしれません。

大人から子供までたのしめるようなシンプルで分かりやすい音楽性がPaniyoloの一番の魅力。以前、ライブを見る機会がありましたが、演奏中にエレアコの電池が切れるというハプニングがあったにも関わらず気丈に演奏を続けていた。それほど派手さこそないものの、寡黙な素朴さがPaniyoloの良さ。誰にでも楽しめるナチュラルな演奏を聴かせてくれました。

推薦盤としてはScoleのレーベルメイト、ダイスケ・ミヤタニとの2020年の共同制作シングル「Memories of Furniture」も切なくてかなり良いですが、Paniyoloの音楽性の良さを理解しやすい作品が2012年の「ひとてま」。   


ひとてま 2012


ここでは、聴いていて、ほっと息のつける穏やかなアコースティックギターの音色を楽しむ事ができる。複雑なサウンド処理をせず、ギターのナチュラルな音色に聞き惚れてしまうような感じ。 

フレーズを聞いていると、ひだまりの中でぬくぬくするような憩いが感じられる。特に、このスコーレというレーベルのコンセプトの「余暇」という概念を考えてみたときにぴったりなアーティストといえるでしょう。

このアルバムの中では、エレックトリックピアノだけではなく、テルミンの「ホヨ〜ン」という音色も使用されています。アイスランドのアミナあたりのエレクトロニカが好きな人にもおすすめしておきたいです。

時間に忙殺される現代人なら是非聞いてみてほしい、「間」のない心に「間」を作ってくれる貴重な音楽のひとつです。 

 


4.Quentin Sirjacq


クエンティン・サージャックは、レーベルオーナーの小瀬村晶が発掘した素晴らしいアーティスト、フランスの映画音楽を中心に活動している音楽家です。

ちょっと映画関連のことは余り詳し気ないんですが、結構有名な作品のサントラも手掛けているはず。一度、2011年の「La Chambre Clare」のリリース時、日本に来日しており、実は、私はそのコンサートに居合わせましたが、凄まじい才覚が感じられるアーティストです。MCの際は、フランス語でなく、英語で話し、真摯な音楽性とは正反対の親しみやすい、ジョークたっぷりのユニークな人柄が感じられるアーティストです。

サージャックは、ドビュッシーやラヴェルをはじめとする近代古典音楽からの影響を受けたピアニストであり、その時代の音楽のロマンス性を現代に見事に引き継いでいます。現代的ではありながら、古典音楽のような理論的な音の組み立てが失われていない。

とくに演奏と言う面でも現代音楽の領域に踏み入れ、ライブの際には、ピアノの弦に専用の輪ゴムを挟んでディチューニングし、いわゆる、プリペイドピアノのような演奏をするという点では、近代古典音楽だけではなく、現代音楽、ジョン・ケージやフェルドマンのような実験音楽への深い理解も伺えます。

音楽性としては、耳にやさしいピアノ音楽。もちろんそこに弦楽やギターの伴奏、対旋律が加わる場合がある。エリック・サティからの近代フランス和声の継承者ともいえ、ピアノ・アンビエント、ポスト・クラシカルの未来を担うであろうアーティスト。確かなピアノ演奏の技術に裏打ちされた超絶的な演奏力も魅力で、お世辞抜きにピアノ演奏家としても頭一つ抜きん出たアーティストです。

 

the indestructibillity of the already felled 2020


クエンティン・サージャックの推薦盤としては、デビュー作の「La Chambre Claire」もエリック・サティの系譜にある叙情的で秀逸なピアノ曲を楽しむ事ができるるので捨てがたくもありますが、特に近年、David Darlingやダコタ・スイートをはじめとする共同制作でより持ち味が出て来ているように思え、「the indestructibillity of the already felled」を入門編としてオススメしておきたい。

ここでのエリック・サティからの音楽性、そして、スロウコアシーンで活躍するダコタ・スイートのボーカルの雰囲気が絶妙に組み合わさった作品。アンニュイさもあるけれども、どことなくそれが爽やかな質感によって彩られた秀逸なアルバムとなっています。 



5.Daisuke Miyatani


Daisuke Miyataniは兵庫県淡路島出身のギタリスト。2007年、ドイツ、ベルリンのエレクトロニカを主に取り扱うレーベル「ahornfelder」から「Diario」をリリースし、デビューを飾る。

その後、スコーレに移籍、シングル作品を中心としてリリースを行っている。後にこのデビュー作「Diario」はスコーレからリマスター盤が2018年に再発されています。

  

Diario 2018


Daisuke Miyataniの音楽性としては、ギターによるアンビエント性の追求、楽曲中にフィールドレコーディングのサンプリングを取り入れた実験性の高い音楽であり、特にギターの音響を拡張し、それをアンビエンスとして表現するというスタイルが採られています。 

また、エレクトロニカ、フォークトロニカ寄りのアプローチに踏み入れる場合があり、このあたりはムームあたりのアイスランドの電子音楽の影響を逸早く日本のアーティストとして表現したという印象を受けます。Daisuke Miyataniの音楽性は、他のスコーレのカタログ作品に比べると、抽象画の世界を音楽によって表現したような魅力がある。明瞭としない音像はアンビエントそのものではあるものの、その中にも、キラリと光るフレーズがあったりするので聞き逃がせません。

音楽自体は実験性が高いため、難解な部分もありますが、そのあたりの抽象性は、高いアート性を擁していて、真摯にアンビエンスというものを研究し、それを音楽として表現しているからこそ、引き出される奇妙な質感。

ギタリストとしても独特なミニマル的なフレーズを多用しつつも、どことなく切なげな情感を醸し出している。楽曲のトラック自体に、ディレイエフェクトを多用した抽象性の高いサウンドであり、アンビエント音楽としても楽しむことが出来るはずです。  


6.Teruyuki Nobuchika


延近輝之は、京都府京都市出身の作曲家、テーマ曲やテレビドラマの音楽、そして、日本の映画音楽だけではなく、アメリカの映画音楽も手掛けている幅広い分野で活躍するアーティストです。

2006年から劇伴音楽を中心にミュージシャンとして長きに渡り良質な楽曲を多数制作しているアーティストです。音楽性としてはピアノ曲が中心で、それほ奇をてらわず、穏やかで親しみやすい楽曲、聞き手の情感に素直に届くような美しい小曲をこれまで多く残してきています。それほど専門的な領域、アンビエントとしてでもなく、電子音楽としてでもなく、久石譲氏のような誰が聴いても理解しやすい音楽性が最大の魅力。

延近輝之の名作としては、ピアノ曲のホロリとくるような情感がたっぷりと味わう事のできる「Sonorite」を推薦しておきたいところなんですが、このアルバム作品はscholeからのリリースではないので、スコーレ特集としては2009年リリースの「morceau」をレコメンドしておきましょう。

  

morceau 2009


ここでは、scholeの他のカタログとともに並べてもなんら遜色のない、他の映像作品のサントラ、もしくは、ソロ名義での延近作品とは異なる、電子音楽、エレクトロニカ寄りのアプローチが計られています。

マスタリングでのディレイの多用、あるいはサンプリングの導入などは如何にもスコーレ作品らしいといえるような気がしますが、少なくとも延近輝之の音楽性の親しみやすさに加え、電子音楽的なオシャレさが融合された独特な作品に仕上がっています。

エレクトロニカらしいサウンド処理がほどこされており、環境音楽として聴く事もできるはず。ここでは、劇伴音楽での延近輝之の仕事とは又異なる「アート音楽」としての際立った個性が感じられる作品となっています。

 

7.  dom mino'


schole特集として、最後に忘れずに御紹介しておきたいのが、ロンドン在住の音楽家、dom mino'、Domenico Mino。

scholeから2008年と2010年に、アルバムリリースを行っているものの、それ以後、音沙汰のないのがとても残念です。この二作品のリリース以前に、Tea Z Recordsからシングル盤を一作品のみリリースしています。

dom mino'は、どちらかというと、音楽家というよりも、サウンド・デザイナー寄りのアーティストと言えるかしれません。しかし、この小瀬村晶氏をエグゼクティブプロデューサに迎え入れて制作された「Time Lapse」は、エレクトロニカの隠れた名盤としてあげておきたいところです。  


Time Lapse 2008


このdom mino'は、玩具のような音をサンプリングを用いてセンスよく楽曲の中に取り入れるという側面においては、トイトロニカあたりに位置づけても構わないでしょう。 

ムーム、I am robot and proudあたりが好きな人はピンとくる音楽性かもしれません。また、ダンス的な要素があるという面ではテクノ寄りの音楽。でも、なぜか妙な涼やかな質感があり、切なげな雰囲気が楽曲に滲んでいるのも魅力。

音色自体は、妙なスタイリッシュさ、オシャレさを感じる秀逸な音楽です。BGM的ではあるものの、それほど楽曲単体で聞いたときの存在感が乏しいわけでもない。つまり、エレクトロニカ、テクノ音楽として絶妙なバランスを保った作品。このあたりは、小瀬村晶のプロデューサーとしての素晴らしい手腕により、全体的なアルバム作品としても聴き応えあるトラックに仕上っています。

夏の暑さを和らげるような涼やかさのあるエレクトロニカサウンド。こういった類の音楽は世に沢山あるものの、今作のように聴いてうっとりできるような作品は珍しいかとおもいます。ここで展開されるクラブよりのエレクトロニカ、電子音楽の詩的で内向的な表現性は、このあたりのジャンルの愛好家にとってたまらないものがあるはず。 

また、scholeの代表的なアーティスト、ハルカ・ナカムラの楽曲のリワーク「Arne」 もこの時代の最先端を行くオシャレさのあるサウンド、今聞いてもなおこの楽曲の良さというのは失われていない。また小瀬村作品のリワーク「Scarlett」もトイトロニカ風のアレンジメントが施されていて面白い。

全体的にエレクトロニカの旨みが抽出されたような音楽です。しかし、聴いていて、全然耳の疲れを感じさせないのは、アンビエント寄りの質感に彩られているからでしょう。音を介して何かサウンドスケープを思い浮かべさせる、なんだか想像を掻き立てられるような雰囲気も良い。これまでのscholeのカタログ中でも、最良のエレクトロニカの名盤として最後に挙げておきましょう。 

  

9.Schole Compilation


また、scholeの推薦盤としては、このレーベルの音の魅力を掴むためには、これまでに四作品リリースされてきている記念コンピレーション盤をチェックするのも一つの手かもしれませんよ。


Schole Compilation Vol.1

 

 
Note Of Seconds Schole Compilation Vol.2

 

Joy Schole Compilation Vol.3

 

 
After The Rain Schole Compilation vol.4

 

これらのカタログは、scholeの見逃せないアーティスト、楽曲を網羅しているコンピレーション作品です。アルバムジャケットの爽やかな美しさに、このレーベルの重要なコンセプトがしっかりと表現されています。

そして、最初に述べたように、忙しい現代人の心に余暇の概念を与えるような素晴らしい作品集となっています。これからもscholeというレーベルから世界的な電子音楽家、ポスト・クラシカルの名盤が出てくるかもしれません。日本の良質なインディーレーベルとして再注目しておきたいところ。