今回は、 2021年9月17日にリリースされたばかりの作品、ポストロック界のカリスマ”MONO”の二十年のキャリアを総括するスタジオ・アルバム「Pilgrimage Of The Soul」をアルバム・レビューとして取り上げておきたいと思います。
これまで、毎年のように、150本もの数のワールド・ツアーをこなして来ている実力派ロックバンド、Mono。そして、この最新作「Pilgrimage Of The Soul」海外のインディーズシーンでは世界的な知名度を誇る五人組のこれまでのキャリアを総括する作品であると共に、まさにMonoのハイライトと称すべきスタジオ・アルバムといえるでしょう。
2020年の夏、コロナウイルス禍において、レコーディング作業が胆力を持って続けられたスタジオ・アルバムで、これまで彼等の多くの作品を手掛けてきた盟友ともいえるオルタナ界の皇帝”スティーヴ・アルビニ”をレコーディング・エンジニアに迎え、ソリッドかつ、ストイック、さらに、MONOらしい深遠でエモーションに彩られた素晴らしいロックサウンドが、心ゆくまで体感できる傑作となっています。9月17日に、二枚組LP盤とCD盤が”Temporary Residents”からリリースされたばかりです。
2022年には、ワールド・ツアーを控えているMONO。
ポスト・ロックファンとしては要チェック、どころかマストというべき作品でしょう。彼等MONOの素晴らしいライブパフォーマンスを見れる日を心待ちにしながら、この作品をじっくり聴き入りたいところです。ここでは、CD形式、サブスクリプション配信形式の8曲収録バージョンを取り上げ、この傑作の魅力を語っていきましょう。
「Pilgrimage Of the Soul」2021
TrackListing
1.Riptide
2.Imperfect Thing
3.Heaven in a Wild Flower
4.To See A World
5.Innocence
6.The Auguries
7.Hold Infinity in the Palm of Your Hand
8.And Eternity in an Hour
「魂の巡礼」と名付けられたMONO通算十一作目となるスタジオ・アルバムは、誇張抜きに彼等の最高傑作、そして、ポスト・ロックの金字塔を見事に打ち立てて見せた作品です。
日本の最初のポスト・ロックバンドとして始まったMONOの歴史、そして、中心人物である後藤さんGtの遍歴は、高校生時代の島根から始まり、東京、そののち、アメリカのニューヨーク、それから最後には、見果てぬほど広いワールドワイドの音楽シーンへ繋がっていきました。
既に、ワールド・ツアーを幾度も成功させているMONO。最初のニューヨークの挑戦は動員がたったの五人、ほとんど失敗に終わりました。それでも気持ちを切らすことなく、他のメンバーの励ましもあ信頼を得、徐々に、ツアーサポートからメインアクトへ上り詰めていきます。
それはこのバンドの音楽性の特質、独特な日本人らしい感性を貫いてきた事、そして自分たちの生み出す作品に対する深いプライドがあったからこそ成し得た偉業と言っても良いのかもしれません。
2000年代中盤から2010年代にかけて、「You Are There」を始め数々の傑作を生み出し、ワールドワイドの知名度を獲得。遂には、スコッドランドのモグワイ、カナダのGY!BEに匹敵する世界的ロックバンドに成長を遂げ、ポストロックのファンで彼等の事を知らぬ人はいないこのジャンルの代名詞的存在へと成長していく。それでも、その旅路は一筋縄では行かず、MONOというロックバンドの音楽性が世界に認められるのには、一年、二年といった短いスパンではなく、長い時間を必要としたわけです。
結局の所、このMONOというポストロックバンドは、日本人しか生み出し得ない感性が世界のどこかで必要とされているのだということを、見事にインディーズシーンにおいて、そしてこの最高傑作において証明しています。この長い、非常に長い、二十二年問のキャリアを概観して、この最高傑作を聴くにつけ、十年来のファンとしてつくづく思うのは、この作品において、二千年前後に始まった長い魂の巡礼の旅はひとつのサイクルを終えて、元の場所に、またひとつの終着点にたどり着いたというような感慨を覚えます。
今作「Pilgrimage Of The Soul」は、エモーショナルな静寂と轟音が交互に展開されていくというMONOらしい音楽性が引き継がれています。しかし、これまでの作品とは決定的に何か異なるという印象を受けます。たしかに、ストリングス、グロッケンシュピール、金管楽器、シンセサイザのシークエンスを導入した間口の広い音楽性がドラマティックに広がりを増していく。モノらしい楽曲の特徴は、これまでの方向性の延長線上にあるけれども、今回は、より深く情感に訴えてくる何かがあるように思えます。おだやかであり、親しげであり、また温かい雰囲気がアルバム作品全体に漂っている。
そして、楽曲のダイナミックスさ、それとは正反対の閉じていく世界が、情感豊かに表現されている。これまでの作品の中で、サウンドプロダクションの面では随一といえ、GY!Beの最初期のギターサウンドのようなサウンド処理がなされているのは、そのあたりの作品に比する傑作とスティーヴ・アルビニ自身が見込んだような雰囲気もあり、以前よりも、ドラムのダイナミクスやギターとのバランスが素晴らしくなっていることに驚かされます。
#3「Heaven In a Wild Flower」に代表される穏やかな楽曲において、これまでの音楽性とは又異なる領域に入り込んでいるのも素晴らしい特徴。ここでは、穏やかなエレクトロニカ寄りのアプローチが図られており、轟音性には乏しいトラックであるものの、MONOの新しい代名詞的音楽、これから続く魂の巡礼の未来をしかと見据えたかのような楽曲です。
また、もちろん、MONOと言うバンドが別のロックバンドになってしまったのかといえば、もちろんそうではない。これまでの音楽性、威風堂々たる轟音性、ドラマティックな叙情性の向こうに満ちていく静寂性は、#4「To See a World」シングルとして先行リリースされていた#5「Innocense」「Hold Infinity in the Palm of Your Hand」でグレードアップ、頼もしいくらいの力強さが加わっています。ここで丹念に紡がれるポストロックの物語はこれまでよりもさらに深い叙情性に彩られている。
なんと言っても、このスタジオ・アルバムの有終の美を飾る「And Eternity in an Hour」は、このロックバンドの未来の予想図を明示した「二十二年間の集大成」というべき素晴らしい楽曲です。まさに、この穏やかな質感に彩られたピアノの伴奏が際立った楽曲は、MONOというロックバンドの歴史、現在、それから未来、輝かしいすべてが色鮮やかに描かれる。
もちろん、いうまでもなく、これまでと同様、全曲、インストゥルメンタル曲のみ、硬派のポストロックバンドが二十二年のキャリアの先に見た総てが、この作品に込められているように思えます。島根から始まり、東京、ニューヨーク、世界、へと続いたMONOの魂の巡礼は、今も、そしてこれからも明るい希望に満ちあふれていることを、この作品は淑やかに物語る。ファンとしては、非常に感慨深い作品となるかもしれません。