Album Review James Blake 「James Blake」


James Brake



ジェイムス・ブレイクは、既にボン・アイヴァー等とならんで、イギリスではスターミュージシャンの一人と言っても差し支えないでしょう。

 

近年のイギリスの最もクラブシーンを盛り上げているブレイクは、インフィールド・ロンドン特別区出身のミュージシャン。ロンドンのクラブシーンに色濃く影響を受け、また、アメリカのオーティス・レディングのようなモータウンレコードを聴き込んだ後に生み出されたディープ・ソウルの味わいは、このジェイムス・ブレイクの音楽の重要な骨格を形作っているといえるはず。


また自営業を営んでいた家で生まれ育ったからか、独立心に富んだ活動を行っており、また、幼少期からクラシック音楽を学び、その音楽に慣れ親しんだことにより、和音感覚に優れたミュージシャンとも言えるでしょう。これまでの共同制作者として並ぶ名も豪華で、ブライアン・イーノをはじめ、ボン・アイヴァー、マウント・キンビー、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、と、電子音楽、 とりわけ、ダブステップ界隈のミュージシャン、そしてアンビエントミュージシャンの音楽とも親和性が高いようです。

 

ジェイムス・ブレイクがミュージシャンとして目覚める契機となった体験は、ロンドンのクラブでの迫力あるクラブサウンドでした。グライムやガラージといったダブステップの元祖ともいえるサウンドを、ブレイクはサウスロンドンで体験し、その音楽に強い影響を受け、大学生の時代にトラックメイキングをはじめました。音楽家としての恵まれた環境がすでに用意されていたため、つまり、父親の所有するスタジオで、彼は楽曲制作にのめりこむようになっていきます。 


そして、2011年にデビュー作「James Blake」をリリース。この作品はマーキュリー賞にノミネートされ、大きな話題を呼んだだけでなく、UKのクラブミュージックの潮流を一瞬にして変えてしまった伝説的な作品です。このクラブミュージックとディープソウルを融合したサウンドは、イギリスの他のクラブ界隈のミュージシャンにも大きな影響を及ぼしています。ジェイムス・ブレイクは、自身の音楽について、このように語っています。

 

 "「ソウル・レコードのように、人が感情移入できるダンス・ミュージックを作りたい。フォーク・レコードのように、聴いた人に人間らしくオーガニックに語りかける音楽を作りたい。僕が求めているのは人間味なんだ。"

 

 Last.fm James Blake Biographyより引用

 

 

既に、リリースから十年余りが経過しているものの、あらためて、このイギリスクラブシーンの屈指の名作についてご紹介しておこうと思います。

 

 

 

「James Blake」2011

 




 

TrackListing 


1.Unluck
2.The Wilheim Scream
3.I Never Learn to Share
4.LIndasframeⅠ
5.LIndasframe Ⅱ
6.Limit To Your Love
7.Give Me My Mouth
8.To Care(Like You)
9.Why Don't You Cal Me?
10.I MInd
11Meaturements
12.Tep and the Logic


 

言わずとしれたジェイムス・ブレイクの名を、イギリスのクラブシーンに轟かせた鮮烈的なデビューアルバム「James Blake」。後には、二枚組のNew Versionもリリースされていますのでファンとしては要チェックです!!

 

全体としては、彼自身が語るように、モータウンレコード時代のソウルミュージックをいかに電子音楽としてクールに魅せられるかを追求し尽くし、そして、トラック制作の上で、異様なほどの前衛性が感じられる作品。

 

それは、多重録音、度重なるオーバーダビングによってソウルが新たなダブステップとしての音楽に様変わりしているのが、この作品の凄さといえるでしょう。他のダブステップ界隈のアーティストのように、リズム性をアンビエンスによって強調したり、それとは正反対に、希薄にしてみたりと、緩急のあるディープ・ソウルがここで味わうことが出来ます。

 

そして、クラシックピアノを学んでいたという経験は、キーボード上での演奏に生演奏のソウルのようなリアルな質感を与える。IDMだからと言っても、ブレイクのトラック自体は機械的ではなく、人肌のような温かみに満ちています。そして、その巧緻なトラックメイキング、あるいはブレイクビーツ風のサウンドの向こうに広がっているのは、ただひたすら穏やかでソウルフルな心地よい雰囲気。

 

今日日、刺々しいクラブ・ミュージックが多い中で、ブレイクの楽曲はチルアウト寄りの感触もあり、聴いていて心地よく、ソフトで落ち着いた気持ちになれるような気がします。それほどアンビエント寄りの音楽ではないのに、癒やしのディープ・ソウルが展開される。この辺りが、ブライアン・イーノやワンオートリックス・ポイント・ネヴァーといったアンビエントミュージシャンとの親和性も感じられます。

 

 特に、ジェイムス・ブレイクのヴォーカルというのは、白人らしからぬといっては何でしょうが、どことなくブラック・ミュージックの往年の名ヴォーカリストのような厚み、そして深みを感じさせます。彼の音楽についての言葉通り、ひたすら温かみがあり、どことなく胸がじんわりと熱くなるような、情感に訴えてくるような説得力あふれる知的さの漂うディープソウルと言い得るでしょう。


特に、このスタジオ・アルバムの中では「I Never Learn To Share」が白眉の出来栄えです。ハウス、テクノを通過したアナログシンセの巧みさ、そして、モータウンのソウルを通過した深い渋み、さらに、ダブステップのシークエンスのダビングとしての要素が、がっちりと組み合った作品です。そして、面白いのが「Limit To Your Love」では、実際の巧緻なピアノの演奏により、1960年代のアメリカのソウルを現代的に復刻している楽曲です。いかにソウル音楽というのが長い時代、多くの音楽フリークから支持を受け続けているか、そして時代に古びない普遍的な魅力を擁しているのが痛感できる名トラック。もちろん、若いクラブ・ミュージックファンにとどまらず、往年のソウルファンにも是非おすすめしておきたい一枚。

 

ジェイムス・ブレイクは、このデビューアルバムによって、一瞬でイギリスのクラブミュージックシーンを塗り替えてしまいました。なんですが、これはソウル音楽に対するブレイクの深い愛情が満ちているからこそ体現された名作。そのあたりの魅力は「Give Me My Mouth」といったソウルバラードの楽曲に現れています。あらためて、電子音楽は冷たい印象ばかりではなくて、温かみのある音楽もあるのだということがよくわかります。トラックの作り込みがほんとに素晴らしいし、深みのある渋い作品だなあと思うし、やはり十年経っても未だに燦然とした輝きを放つ傑作です。