Horsey
サウスロンドンのヒップホップ、そして、クラブ・ミュージックを紹介した流れに則り、今度は、この地域の魅力的なロックバンド、Horseyを取り上げてみようと思います。
Horseyは、サウスロンドンの拠点に活動するロックバンドです。King Kruleの弟、Jack Marchallを中心に、Theo Macabe、Jacob Read,George Bassにより結成された四人組。
このロックバンドでGtを担当するヤコブ・リードは、Jercurbというプロジェクトとしても活躍中。このサウスロンドンには、2000年代から魅力的なクラブミュージックシーンが形成されてきたことは既に述べましたが、この若い四人組のロックバンド、Hoseyも非常に個性的で他とは異なる魅力を持ったアーティストです。
Hoseyは、2017年に「Everyone's Tongue」を”United Recs”からリリースしデビューを飾る。その後、「Park Outside Your Mother's House」「Bread&Butter」「Sippy Cup」「Seahorse」「Lagon」と六作のシングル盤を発表してます。特に、このロックバンドのフロントマン、Jack Marchallの兄、キング・クルールをプロデューサとして迎えた「Seahorse」は2020年代の新たなロックの誕生を予感させるような清新な話題作として挙げられるでしょう。
Hoseyは、アートポップ、ニューウェイブ、ポスト・パンクといった一つの音楽ジャンルにとらわれない幅広いアプローチをこれまでの作品において魅せています。エレクトリック・ピアノ、オルガンと、かなりソウルアーティストが頻繁に使用する楽器を取り入れており、苛烈でエネルギッシュなロックナンバーから、それとは対極にある、ホロリとさせるような情感にあふれた壮大なバラードまで何でもこなしてしまうあたりは、音楽性において間口の広さが感じられます。
デビュー作「Everyone's Tongue」は、サウスロンドンの土地柄というべきか、ダブ、そして、ソウルやジャズをごった煮にしたような何でも有りなサウンドを引っさげて、ロンドンのインディーシーン華々しく登場。
また二作目のシングル「Park Outside Your Mother's House」の表題曲では、かのクイーンとは又一味違うロックオペラ風の音楽性に挑戦している。これは往年のイギリスロックバンドの伝統性を引き継いでいるように思えます。その一方で、既存のイギリスのロックバンドと一味違った妖しげでダンディな雰囲気が漂い、ロックンロールに音楽の主体性を置き、いかにもサウスロンドンのクラブミュージックのコアなジャンル、ガラージやディープ・ソウルと言ったこの地域の音楽の影響に影響を受けていそうなのは、ジェイムス・ブレイクあたりと同じくといえるでしょう。
とにかく、何でもカッコいいものは取り入れてやれというような雑食性、彼等のこれまでの作品を聞くかぎりでは、デヴィッド・ボウイのような渋いアダルティさ、クールな雰囲気を醸し出されています。また、ザ・クラッシュのジョー・ストラマーのニヒリズムも影響を及ぼしているようにも思えなくもなく、もし、現在、ストラマーが生きていたなら、こんな音楽に挑戦していたかもしれないと思わせ、パンク音楽ファンとしてのロマンチズムを感じさせてくれる良質なロックバンドです。
Hoseyの初期のシングル二作品、特に、「Park Outside Your Mother's House」は秀作で、初期の彼等Horseyの音楽性は、アメリカのインディーロックとは異なるデヴィッド・ボウイの音楽性に近いオールドイングリッシュな空気感がほんのり滲んでいます。そして、また、ミュージカル、ジャズのビッグバンドにも親しい要素も感じさせるエンターテイメント性の高い音楽性。デビューして、まだ四年と、これからが楽しみなサウスロンドンのフレッシュな五人組です!!
「Debonair」2021
そして、「今週の一枚」として御紹介させていだだくのが、Hoseyの1stアルバム作品となる「Debonair」。この作品は、なーんとなく秋の夜長に聴き耽りたいユニークさあふれるロックサウンドです。
TrackListing
1.Sippy Cup
2.Arm And Legs
3.Undergroung
4.Everyone's Tongue
5. Wharf (ⅰ)
6. Wharf(ⅱ)
7. Lagoon
8. 1070
9. Clown
10. Leaving Song
11. Seahorse
これまでのシングル作「Everyone's Tongue」や「Seahorse」をはじめとするリテイクに新曲を加えたこれまでのホーセイとしてのキャリアを総ざらいするような豪華なアルバムです。何かこの作品は、個人的にクイーンの音楽性が現代に復刻されたというような期待感をおぼえさせる佳曲がずらりと揃う。
往年のビートルズ、デビッド・ボウイ時代のブリティッシュ・ロックの王道を行くようなナンバーから、バラード、ジャズ、そしてミュージカルの雰囲気を感じさせる楽曲まで何でも有りといった感じです。
ヴォーカルのジャック・マーシャルの声質は、デビッド・ボウイ、フレディー・マーキュリーのような美声とは対照的ではあるものの、エンターテイナーとしての才覚は全く譲らない雰囲気が有り。年齢不相応の渋み、ダンディさがあり、自分の歌に対する深いナルシシズムに聞き手に独特な陶酔感を覚えさせてくれるはず。また、Hoseyの音楽性には、コミカルな滑稽味も漂っています。
このアルバムで、最も楽しい雰囲気のある楽曲をあげるとするなら、2020年にシングル盤としてリリースされている「Slippy Cup」です。
ここでは、ひねりの効いた変拍子もさりげなく披露しつつ、大迫力の痛快なロックサウンドの魅力が引き出されています。ミュージカル風の大げさなジャック・マーシャルのヴォーカルというのもエネルギッシュで、聴いていると無性に明るい気持ちが湧いてくるでしょう。これまでありそうでなかったイギリスらしい渋いロックサウンドが、このトラックで見事に展開されています。
また、ちょっと風変わりな楽曲が#2「Underground」。アルバムジャケットワークに描かれているようなコミカルな雰囲気を感じさせる楽曲。何十年前も前のジャズバンドの時代、はたまたニューヨークのブロードウェイ・ミュージカルの立ち上がった時代に立ち返ったような懐古的なサウンドを再現しています。ヴィブラフォンやクロタルの音色が耳に癒やしをもたらし、ティンパニーの堂々たる響きもあり、疲れて居るときなどに聴くのには持ってこいのバラードソング。
このスタジオ・アルバムの中で、興味深いのが、#10「 Leaving Song」で、この曲はアメリカの音楽とは雰囲気の異なる内向的なイギリスのインディー・フォークが味わえる。ギターとピアノをインディーフォークとして体現させ、曲の中盤からは癒やしのある落ち着いた展開へ様変わりしていきます。
キング・クルールがプロデューサーとして参加した#11「Seahorse」も聞き逃がせない佳曲です。ここでは独特なアートポップを展開、アシッド・ハウスのアンニュイな雰囲気も漂った独特なトラックです。独特なクールな佇まいが感じられるのは、サウスロンドンという土地柄ならではかもしれません。
ギターのアナログディレイを駆使したサウンド、本作の他の収録曲とは異なるコアなクラブミュージック寄りのアプローチが取られているのも良い。この楽曲の最終盤のジャック・マーシャルの叫ぶような激烈エモーションは圧巻。レコーディングスタジオの熱気がむんと伝わってくる怪作。いや、快作です!!