Mild High Club
マイルド・ハイ・クラブは、イリノイ州シカゴ出身のミュージシャン、アレクサンダー・ブレッティン率いるサイケデリックポップ・グループ。現在、マイルド・ハイ・クラブは、ロサンゼルスを拠点に活動しています。
このグループの中心人物、アレクサンダー・ブレッティンは、楽器のマルチプレイヤーでもあり、ギター、キーボード、シンセサイザー、4トラックレコードと何でも巧みに操り、宅録寄りのジャンク感のあるサウンドを主な特徴としながらも、サイケデリック、R&B,ポップス、あるいはその他ジャンルを自由に往来し、変幻自在で摩訶不思議なサウンドを自由闊達に生み出しています。
"mild high club" by UT Connewitz is licensed under CC BY-NC 2.0
2012年に、MHCのフロントマンのアレクサンダー・ブッティンは、シカゴ、ボルチモア、ロサンゼルスを往復しながら楽曲のトラック制作に取り組み始める。2014年には、Stones Throw Recordsと契約を交わし、最初のリリースとなる7インチシングル「Windowpane/Weeping Willow」を発表し、翌年、Circle Star Recordsから発売の1stアルバム「Time line」でデビューを飾っています。
これまでの十年近いキャリアにおいて、マイルド・ハイ・クラブは、二作のシングル盤、King Gizzard and The Kizard Wizardとのコラボレーションアルバムを始め、四作のフルアルバムをリリースしています。マイルド・ハイ・クラブの主だった音楽の方向性については、Ariel PinkやUnknown Mortal Orchestraのような往年の懐かしいディスコサウンドを彷彿させます。
そこにアレクサンダー・ブレッティンの独特な世界観が加味され、さらにロックサウンドではありながらサイケデリックでドリーミーな雰囲気を併せ持つ。またそこには、古い時代のモータウンサウンド愛好者としての矜持も伺え、往年のR&B音楽を新たな世代のシンセ・ポップとして体現させています。
上記の二バンドと同じく、NY,ロサンゼルスを中心とするインディー界隈で盛んな動きの一つ、2010年代のリバイバルシーンを象徴付けるロックバンドと称しても差し支えないかもしれません。
「Going Going Gone」2021 Stone Throw Records
「Going Going Gone」は今年の9月17日、Stone Throw Recordsからリリースされたスタジオ・アルバムとなります。
2016年リリースされた前作「Skiptracing」はこれまでのマイルドハイクラブの歴代の作品の中でも最高傑作に挙げられ、コアなディスコ・サウンドをサイケ色で絶妙に彩ってみせています。
TrackListing
1.Kluges Ⅰ
2.Dionysian State
3.Trash Heap
4.Taste Tomorrow
5.A New High
6.It's Over Again
7.Kluges Ⅱ
8.I Don’tMind The Wait
9.Dawn Patrol
10.Waving
11.Me Myself and Dollar Hell
12.Holding On To Me
Mild High Club 「It's Over Again」Official
Listen On Youtube:
https://www.youtube.com/watch?v=goYZPV_zNLE
もちろん、基本的には、ロックバンドとしての表情を持ちながらもライブバンドとしての魅力を持ち、客席にいるオーディエンスを踊らせるダンスミュージックとしての要素が強いのは、フロントマンのアレクサンダー・ブレッティンのアメリカのブラックミュージックに対する造詣が並々ならぬ深さであるゆえなのでしょう。ブレッティンはR&Bのフリークとしての表情を見せつつ、新しくはない1970年代によく使用されていたような安っぽいアナログシンセの音色を積極的に選択し、マイルド・ハイ・クラブ節とも呼べるような宅録風のシンセ・ポップを生み出す。
最新作「Going Going Gone」についても、マイルド・ハイ・クラブのこれまでの音楽性の延長線上にあるように思え、今回の作品についてより作曲においてのベクトルが収束的に内側に向かっていくというよりかは、外側に向けて複数のベクトルが向かっているという印象を受けます。
これまでの往年のモータウンサウンドや、EW&Fのようなディスコサウンドを踏襲しつつ、そこにこれまでにはなかったボサノバのリズムが加味されているのには驚きます。そのこれまでにはなかった新しい要素がこのバンドサウンドの旨味を引き出し、おしゃれで洗練された雰囲気に様変わりし、我田引水ともなりますが、今作品の音楽性は日本のシティ・ポップに近い懐かしげな雰囲気に彩られています。
よくアナクロニズムについては一般に良くないものというような考えも中にはあるのかもしれませんが、殊、アメリカのアリエル・ピンク、また、NZのアンノウン・モータル・オーケストラのサウンド等を見ると、古臭さというのは調理法さえ間違わなければ、逆に現代においては新鮮味、一種の爽快味すらもたらすことが理解出来ます。その指向性が見目新しいサイケという異様な世界、普段生活している分には垣間見ることのない万華鏡を見るが如きの世界を生み出しており、それが今作において新たな2020年代のポップスとして絶妙に昇華されているのに驚く。
具体的に、どの曲が際立っていると指摘するのは今作に置いてはそれほど意味がないように思えます。それは、アルバム作品全体が一種の強固なこのマイルド・ハイ・クラブというロックバンドしか醸し出し得ない音楽観を生み出し、作品全体に陶酔したマイルドな雰囲気に満ち溢れているからです。
1970年代のアメリカのサンフランシスコ発祥のジャンル、サイケデリックは、一見、完全に文化として衰退したように見えますが、アリエル・ピンク、マイルド・ハイ・クラブというLA周辺の次世代のカルチャーとして、この概念が引き継がれていることに一種の痛快味すらおぼえてしまいます。
References
last.fm Mild High Club