安藤裕子さんは神奈川県出身のアーティスト。2002年に女優としてデビュー、「池袋ウェストゲートパーク」を始め、多くのドラマに出演。その他、映画、CM出演を始め、テレビ、ラジオ出演といった多才な経歴を持つ女優ですが、2003年から、ミュージシャン、シンガーソングライターとして活躍されています。
2003年には1st minialbum「サリー」でデビュー、月桂冠のCMに「のうぜんかつら(リプライズ)」が起用され大きな話題を呼んでいます。
これまでの18年という長いキャリアで、十一作のアルバムを発表。多作なアーティストに数えられるでしょう。楽曲のソングライティング、作詞といったミュージシャンの基本的なクリエイションはもちろん、CDジャケット、グッズデザイン、メイク、スタイリングまで自身でこなされていらっしゃる点では、メジャーアーティストに属しながらもDIYの活動を行ってきています。
プロミュージシャンとしての活動と併せて女優としての活躍も目覚ましく、2014年には大泉洋主演の「ぶどうのなみだ」にてヒロイン役に抜擢され、女優としてデビュー後、初めて本格派の演技に挑戦しています。
2018年にはデビュー十五周年を記念し、初のセルフ・プロデュース作となる「ITALIAN」を発売。
2019年には、全国4箇所を巡るZeppツアーを開催する。 2020年8月26日にニューアルバム「Barometz」をリリース。収録曲の「一日の終わり」のMVをショートフィルム化した映画「ATEOTD」がイオンシネマ他で全国公開されています。
2021年には「安藤裕子 Billborad Live 2021」を開催。同年8月には「うきわー友達以上、不倫未満ー」のオープニング曲「ReadyReady」を配信。10月、表紙モデルと短編作品1作が収録された「コーヒーと短編」がミルブックスより刊行。同月29日公開の映画「そして、バトンは渡された」への出演も果たしています。
女優業と様々なメディアへの出演と多岐に渡る活躍をされている安藤裕子さんですが、アーティストとしての活躍にも期待していきたいところです。
「Kongtong Revcordings」 Pony Canyon Inc.
「Kongtong Recordings」2021 |
ご自身のHPの日記においては、”ねえやん”と名乗るシンガーソングライターの安藤裕子さん。研ナオコさんをリスペクトしていることでも有名なアーティストですが、2021年11月7日にポニーキャニオンから発売された「Kongtong Recordings」は、安藤裕子さんのどことなく音楽の渋い趣味を伺わせるアルバム作品であり、トリップホップ、ジャズ、チルアウトといった作風を自由自在にクロスオーバーしながら、独特な雰囲気を漂わせる聴き応え充分の傑作が誕生しています。
これまで初期の作品の「サリー」に見受けられるように、J−POPアーティストの王道を行くような音楽性を追究してきたシンガーソングライターの安藤裕子さんではありますが、今作「Kongtong Recordnigs」は旧来の作品とはまったく異なる質感をもった良作が生み出されています。
「Kongtong Recordings」と銘打たれた安藤裕子さんの十一作目となるスタジオ・アルバムは、ジャケットワークにしてもミステリアスな印象をもたらす作品、そのあたりは横溝正史のファンであるというのが少なからず影響しているかもしれません。「混沌した録音」という題名についは、世相をいくらか反映しているようなニュアンスも込められているように思え、音楽を介しての女性の憂鬱、あるいはアンニュイ、といった感情を「詩的なうた」という形で表現されているように思えます。また、曲調についてもこれまでのJPOPアーティストとしての延長線上にありながら、渋い質感によって彩られています。ときには、トリップホップやアシッド・ジャズの領域に入り込んでいるように思え、ソングライターとしての大きな才覚が発揮された作品ともいえるかもしれません。
特に、8曲目に収録「Toiki」はバラード曲として逸品です。素晴らしいソングライターとしての資質が発揮された作品といえ、このアンニュイな楽曲はポーティスヘッドの最初期の音楽性に近いアプローチが図られているような印象を受けます。つまり、イギリスのブリストルの電子音楽のサウンドを日本語に組み直し、J-popとして昇華している点に、このアーティストの真骨頂、音楽家としてのプライドが見いだされると言えるでしょう。
その他にも#5「恋を守って」また「僕を打つ雨」は懐深さを感じさせ、ソウルやR&Bに代表されるようなこころなしか夜の雰囲気を感じさせる楽曲、J-popとして聴いてもただならぬ深みの感じられる良曲といえるでしょう。
シンガーとしても最初期に比べ、アルバムのアートワークに因んでいうなら、いよいよ仮面をはぎとった!!といえるかもしれません。これまでよりもさらに深み渋みの感じられる秀逸なシンガーソングライターになってきているように思え、初期のフレッシュさに加え、歌手としての円熟味が活動18年目にして加わったという印象も受けます。また、これらの楽曲には洋楽の後追いではない歌謡曲に対する影響性もそこはかとなく見いだされることについても言及しておかなければならないでしょう。
「ReadyReady」といった比較的理解しやすい魅力的な作品も見受けられる一方、その他数多くの秀逸な本格派の楽曲が収録されています。消費のためではない、じっくりと長く楽しめる味わい深い作品。世界水準の資質を持った素晴らしい日本のミュージシャンです。