今年は様々なジャンルを取り上げて参りましたが、考えてみれば、ヘヴィメタルの作品についてはほとんど取り上げてきませんでした。
1970年から1980年代のイギリス、そして、アメリカ、日本のジャパコアを中心に根強い人気を誇って来たこのジャンル。
音楽フェスティヴァルについても、以前から、オジー・オズボーンの主宰するアメリカのOzzFest,フランスで開催されるHell Festという大規模のヘヴィ・ロックフェスティヴァルが開かれていて、屈強なヘヴィメタルバンドが活躍し続けています。
もちろん、KISSやVan Halen,Europe、Iron Maiden、Judas Pirestが世界のチャートを席巻した時代のヘヴィメタル最盛期に比べると、いくらかメタルブームは下火になったようにも思えますが、ニューメタル、メタルコア、その他にも、ラップメタルと2000年代からジャンルが枝分かれしていき、依然として一定数の熱烈なファンによって支持されているのがヘヴィメタルのようです。
そして、ヘヴィメタル自体が流行りではなくなっても、アメリカ、イギリスでは、時代に関係なくクールなメタルバンドが数多く登場しているのは事実で、しかもそれらのバンドがビルボードをはじめとする上位チャートを賑わせていることは変わりがないようです。未だに現代の音楽ファンは、クールなメタル音楽を渇望し、その凄まじい重低音に合わせ、ヘッドバンキングで乗りたい、と考えていることに何ら変化はありません。支持層の多いヘヴィ・メタルというコアなジャンルは永久不変であります。
さて、今回は、近年発表されたヘヴィメタルの作品の中からピンときたものを中心に取り上げていきたいと思います。
私のヘヴィメタルライフについては、イン・フレイムスやアーチ・エネミーの全盛期で止まってしまったため、以前ほどメタルについては聴かなくなりましたので、それほど精確なディスクガイドにはならないかもしれませんことをご理解下さい。以下、掲載していくのは、デスメタル、ハードコア、グランドコアの影響を色濃く感じさせるモダン・ヘヴィ作品が中心となります。
1 TREMONTI 「Marching In Time」Napalm Records 2021
CREEDの解散後に、マーク・トレモンティが新たに始動させた米フロリダ州を拠点に活動するTREMONTI。
既に4000万枚のセールスを記録しており、ヘヴィロック界の大御所バンドといっても良いでしょう。近年最も勢いのあるヘヴィメタルバンドとして快進撃を続けているトレモンティ。
今年にリリースされた「Marching In Time」は、2000年代が全盛期であったモダンヘヴィネスに加え、ハードコアパンク、グラインドコアといったといった主要要素に北欧メタルの雰囲気をほのかに添えたような作風。モダンヘヴィネスに加え、往年のメタルの様式美を踏襲している作品ともいえます。マーク・トレモンティーの清涼感のあるヴォーカルは楽曲に洗練性を与えています。それほど、ヘヴィメタル、もしくはモダン・ヘヴィネスに理解がなくとも楽しめる。今年のヘヴィメタル作品の最高傑作に挙げても差し支えない迫力満点のアルバムです。次世代のメガデス、メタリカと目されてもおかしくない、今が旬のヘヴィ・メタルバンドのひとつに挙げられるはず。
2.Mastodon 「Hushed and Grim」Reprise Records 2021
トレモンティと共にアメリカのモダンメタル界で大きな人気を獲得しているのがマストドンです。
既に、グラミーのメタル部門を獲得し、リリース作品の多くをUSチャート上位に送り込んでいるメタルの未来を担うと称されるバンド。
トレモンティに比べると、プログレメタル、ストーナーロックといった主要な音楽性に加え、メロディアスという面で、往年の北欧メタルやパワー・メタルの叙情性も感じられるメタルバンドで、2000年代あたりの一時期には時代遅れとされていた北欧メタルの音楽性を2020年代になって改めて光を投げかけようとしているのがマストドンの素晴らしさ。
今作「Hushed And Grim」は、モダンヘヴィネスの要素もありながら、北欧メタルのようなアプローチが図られている作品。
重低音よりも高音域を強調したマスタリングがなされていて、さながら1980年代のメロディックメタルが最もホットであった時代に立ち返りを果たし、メタリカの「ライド・ザ・ライトニング」時代のようなヘヴィネスとほのかな叙情性を絶妙に融合させた美麗さのあるサウンド。往年のメタルファンも安心してたのしんでいただける快作です。
3.Trivium「In The Court Of The Dragon」Roadrunner records 2021
トリヴィアムは、米フロリダ州のヘヴィメタルバンド。フロントマンのマシュー・キイチ・ヒーフィーは、山口県岩国市出身の日系アメリカ人です。(バンド名はトリビアの単数形で、様々な音楽分野を一つにとりまとめようという意図で、このように名付けられたようです)
トリヴィアムの音楽性の魅力はスラッシュメタルのザクザクっとしたリフ満載のモダンヘヴィネスの屈強性に尽きるといえるでしょう。上記したトレモンティ、マストドンに比べ、近年のメタルコアシーン寄りの音楽といえ、少なからず他のモダン・ヘヴィネスのバンドと同様、ハードコアパンクの影響下にあるメタルバンドのようです。
今作の「In The Court Of Dragon」は、旧来からのメタル音楽の様式美といえる、ストーリーやコンセプト性を感じさせ、表向きにはモダン・ヘヴィネスの作品といえるはずですが、アルバム作品の中で、楽曲の印象を変幻自在にくるくると変えていきながら、ファーストトラックからラストトラックまで、勇猛果敢にノンストップで突き進んでいきます。その印象というのは、重戦車がゴリゴリ突き進んでいくかのようなド迫力に喩えられるはず。
また、今作の最大の魅力は、前のめりなスラッシュメタルサウンド、グラインドコアのブラストビートに近い重低音サウンド、そしてなんといっても、日系人マシュー・キイチのデスヴォイスの凄まじい存在感、これらの三要素が巧みに融合させた未来を行くヘヴィメタルサウンドにあります。かっこいいからと言ってヘッドバンキングのやりすぎにはくれぐれも御注意。
4.Boris 「No」Third Man Records 2021
ご存知、日本が誇る世界のヘヴィロックバンド、ボリス。1992年から活動を続ける古株のヘヴィロックバンドで、メタルのみならず、ストーナーロック、サイケデリックロック、ノイズ、ドローンロックと、重いものであればなんでも取り入れてしまう重低音バンド。
灰野敬二、メルツバウと作品の共同製作を行ったこともあり、日本のアングラシーンの象徴的な存在、日本で最も屈強でヘヴィなロックバンドのひとつと称しても差し支えないかもしれません。
今年にリリースされた「NO」は、ストーナーロックのような泥臭いヘヴィ・ロックが全面的な展開、そこにBorisらしい目のくらむほど奥行きのある世界観が広がっているという有り様。重さ、いわゆるヘヴィ性については、上記のトレモンティと同等かそれ以上の重圧を感じる楽曲が今作には数多く収録。加えて、なんというべきか、三十年以上も現役を続けてきたがゆえの堂々たる風格もアルバム全体にみなぎっている作品です。
シアトルのメルヴィンズの初期作品にも比するストーナー性を前面に掲げたアクの強い作風、往年のメタルサウンドを交えたサウンド。軟弱なものは立ち去るがよいとでもいうような重厚感。日本のヘヴィ・ロック界にボリスあり、ということを世界に証明付けた屈強な一枚です。
5.Converge 「Bloodmoon :1」 Epitaph 2021
2000年代の「Jane Doe」をリリースした時代にはニュースクール・ハードコアのスター的な存在であったコンヴァージ。
元々は、ジェイコブ・バノンの歌うというよりかは、金切り声でがなりたてるスタイルのヴォーカルを特徴としていて、重低音とド迫力の疾走感のあるニュースクール・ハードコアで一世を風靡しました。
その後、Epitaph Recordsと契約を結び、世界的なヘヴィ・ロックバンドへと成長していき、現在はデリンジャー・エスケープ・プランと共にマスコアの代表格とされています。
2021年11月19日に、ゲスト・ヴォーカルにChelsea Wolfeを招いて製作された作品は、これまでよりもさらにヘヴィ・メタルサウンド寄りのアプローチを図っている点に注目でしょう。デヴュー当時はとにかく若さと勢いと凶暴性という要素を突き出したサウンド、そして2010年代はとにかくヘヴィなロックをひたすら追究していく、という印象があったコンヴァージ。
この最新作「Bloodmoon:1」においては、ゲストボーカルのチェルシー・ボルフというキャラクターが加わったことによって、これまでにはなかったドゥーム・メタル色を打ち出した新鮮なサウンドが提示されていることに注目です。
特に、8曲目の「Scorpion's Sting」に代表されるように、重低音ヘヴィロックだけではなく、落ち着いたメタルバラード寄りの楽曲も収録されています。
もちろん、コンヴァージらしいヘヴィさは他の追随を許さぬ屈強さが感じられる作風ですが、その他にも、ヴォーカルトラックとして渋みの効いた楽曲が多く収録。少なからず、アリス・イン・チェインズのような1990年代のグランジサウンドの影響性も感じられる一作で、2020年代のヘヴィメタルシーンの流れを象徴づけるような作品といえるかもしれません。
ブラジルの先住民インディオの民族性とヘヴィ・メタルを融合し、新たなメタル音楽の可能性を世界に対して屈強に提示し続けてきたセパルトゥア。
デビュー当時は、メンバー全員が短パンを履いていたため、革パンと革ジャンを着なければメタラーにあらず、というふうに考えていた旧来のメタル音楽評論家に嫌悪されていたセパルトゥアではありますが、1996年の「Roots」の大成功により、世界的なヘヴィ・メタルバンドとして認られるようになり、現在も屈強すぎる重低音をブラジルの地で響かせ続けています。
今年、セパルトゥアは、ラップメタルに果敢に挑戦した意欲作「Black Steel In the Hour Of Chaos」をリリース、このシングルは、モダンヘヴィネスの屈指の名曲といえそうですけれども、8月13日にリリースされたアルバム「SepulQuarta」も聴き応えのある作品です。
ソリッドなギターリフ、過度にハイエンドを持ち上げたドラムスのマスタリング、それに加え、これまでと同じように、ゴリゴリの屈強なサウンドが貫かれている作品。そのサウンドの強度というのは、ブラジルのサンパウロのイエス像にも喩えられるでしょう。
今作には、スラッシュ・メタル、ブラックメタル、ストーナー、メタルコアといったサウンドがごった煮になっていて、ブラジルのメタル・ゴッドとしてのすさまじい風格が漂う作品。
もちろん、このアルバムの魅力は、単純に作品の音の重さだけにはあらず、Chaos A.Dに収録されていた「kaiowas」のリテイクでは、トラディショナルフォークのようなアート性の高い音楽にチャレンジしているのにも着目。セパルトゥアのこれまでのキャリアの集大成ともいえる傑作です。