Debbie Reynolds
「Tammy and the BARCHELER」邦題「タミーと独身者」の主演女優を演じるデビー・レイノルズは、オードリー・ヘップバーンやジュリー・アンドリュース以前に登場したアメリカの女優。1932年生まれ、2016年沒。米テキサス州エルパソ出身の女優、歌手、声優として活躍した。
16歳の時、カルフォルニア州にバーバンクで、「ミスバーバンク」として選出後、ワーナーブラザーズと契約を結び、映画二本で端役を演じた後、メトロ・ゴールドウィン・メイヤーと契約する。その後、「雨に唄えば」の主演に抜擢され、一躍、アメリカのムービースターの座に登りつめた。 また、この代表作の後にも、タイタニック号の実在する生存者、モリー・ブラウンを演じた「不沈のモリー・ブラウン」1964では、アカデミー賞にノミネート。そのほかにも、ジブリ映画「魔女の宅急便」のディズニー英語版で、老女役の吹き替えを担当していることでも知られている。
女優としては、デビー・レイノルズが登場して間もなく、上記の二人の大女優、ヘップバーン、アンドリュースが映画界を席巻したため、この二人に比べると、知名度という点ではいまいち恵まれなかった印象もなくはない。けれども、この二人を上回る魅力を持った、いかにもアメリカの女優というべき独特な雰囲気をもった名優である。
デビー・レイノルズは、女優としても演技力が随一といっても差し支えないはずだが、歌手としても他のミュージックスター達の歌唱力に引けを取らない甘美な歌声を持った名シンガーである。女優としての天賦の才だけでなく、歌手としての素晴らしい秀抜した才覚を示してみせたのが、ロマン・コメディ映画の「タミーと独身者」であった。
米ユニバーサルから配給された映画「タミーと独身者」1957は、シド・リケッツ・サムナーの小説を原作とし、ジョセフ・ペブニーがメガホンを取った。年頃の少女が自分の恋心の芽生えに気づいた淡い感情を描いてみせた名作のひとつで、コメディの風味も感じられるが、アメリカらしいロマンティックさに彩られた往年の名画といっても良いだろうか。
この映画がどのようなエピソードなのか、大まかではあるが、そのあらすじを以下に説明しておきたい。
「タンブレー・”タミー”・タイピーはミシシッピ川の屋形船に、おじいちゃんのジョンディンウィッティと住んでいる17歳の少女。彼女は裸足で駆け回り、沼の外での生活を夢見て、親友のヤギのナンと話して毎日を過ごしている。
そんなある日、小さな飛行機が沼に墜落した。タミーと祖父のジョンは、この不意の墜落機を救うために助けにいく。
そこで、見つけたのがパイロット、ピーター・ブレントであった。タミーと祖父のジョンは、この青年を助け、彼等の家に連れて行って、彼が回復するのを看病して手伝った。その時、タミーはピーター・ブレントという青年に恋に落ちる。この青年は意識を回復する間もなく、家に帰る必要があり、それをタミーは口惜しく思うが、ブレントは祖父に何かあったさい、ぜひ、自分のところを頼ってきてほしいという約束をタミーと交わす。
折しも、数週間後、タミーの祖父のジョンは密造酒を作った廉で逮捕されてしまう。縁を失ったタミー・タイピーは、すぐに件の青年、ピーター・ブレントの住むブレントウッドホールを目指して出発する。 彼女は、ダンスのリハーサル中に到着し、 ピーターが友人と一緒にいるところに遭遇する。ピーターの友人アーニーがパーティーの終わりに、タミーを見つけると、彼女は彼に祖父の投獄のことについて説明する。
しかし、ピーターはこれを曲解して、祖父のジョンが死亡したとミセスブレントに教えた。ミセスブレントは、タミーを中に導き入れると、ピーターがブレントホールの事業面での成功が期待される「ブレントウッド# 6」というトマトの自動作成機の開発に忙しいことを知る。
その後、タミーは、実は、自分の祖父は投獄されただけであり、死亡していないことを皆の前で打ち明けるが、このことで、ミセスブレントはタミーに対して大変立腹し、彼女を追い返そうとする。しかし、本人のピーターブレントと彼の叔母レニーは、タミーがこの地に留まるように説得した。
その後、ピーター・ブレントの婚約者バーバラビスルがブレントウッドホールに立ち寄る。彼女の叔父は、ピーターにトマトの自動作成機の開発をやめるようにと、そして、広告ビジネスで一緒に働こうではないか、と彼に申し出る。ところが、ピーター・ブレントはこの申し出をあっけなく断る。
ちょうどこの週は、(復活祭の)巡礼の期間に当たり、ブレントウッドホールもその巡礼の地に含まれていた。ピーターの叔母レニーは、タミーに曾祖母が着ていたドレスを渡す。ミセスブレントとレニーは、タミーが。その夜に、曾祖母クラチットの幽霊のフリをすることを提案する。その夜、タミーは、ゲストのためにある物語を語り、それまで反りの合わなかったミセスブレントをはじめ全ての人を魅了することになる」
「タミーと独身者」という映画の最後の結末まであらすじを書くのは、ネタバレになってしまうので遠慮しておきたい。全体的には、コメディタッチのあらすじであるものの、その下地にアメリカらしい美麗なロマンチシズムが漂う名画という印象を受けなくもない。あまり、映画については詳しくないため、ちょっと自信に乏しい。どころか、プロットについても簡潔に説明できている実感もない。でも、ひとつたしかなのは、映画の歴代のサントラの屈指の名曲として挙げられる「Tammy」は、この巡礼週間の夜、窓辺でロマンチックに歌うタミー扮するデビー・レイノルズのロマンティックな瞬間を、ワンシーンのカットで、実に見事に描いてみせたということである。
特に、女優としてのしての力量もさることながら、さほど体格として大きないのにも関わらず、歌手として伸びやかで、素晴らしい声量にめぐまれているのがデビー・レイノルズなのである。
この映画の劇中歌としてうたわれる「Tammy」という一曲は、ミュージカルの風味もあり、バラードとしても超一級品。映画の象徴的なワンシーンを、ドラマティックかつ麗しく彩っている名曲で、アメリカの古い映画らしいミュージカルの影響を受け継いだ名曲といえる。コメディ映画の性格を持ちながらも、劇中歌としてシーンに挿入される「Tammy」は、涙ぐむような一度しかない十代という青春の切ない叙情性が滲んでいる。
この後、ヘップバーンやアンドリュースといった新鋭の女優に先んじられた印象のあるデビー・レイノルズである。しかし、私は、この女優、そして、この歌がとても大好きでたまらない。
実際の映像を見ずとも、自然に、映画の中で描かれている美しい情景、甘美なワンシーンがまざまざと目に浮かんでくる正真正銘のサウンドトラック。名女優デビー・レイノルズが歌手としても抜群の才覚を持っていたのは、「Tammy」という歴史的な名曲が証明づけている。
映画「タミーと独身者」は、興行面においては、製作者側の期待ほどに振るわなかったようであるものの、劇中歌「Tammy」は、サウンドトラックとして、当時、全米で大ヒットとなった。今、聴いても、全く色褪せない、素晴らしい感動を与えてくれる永遠の名曲である。