Lightning Bug
結成当初は3ピース形態でバンド活動を行っていましたが、Ddane Hhagen、Vincent Puelo、が加入し、現在は五人編成となっています。
2015年、自主製作盤の「Floaters」を発表した後、これまでDinosaur.Jrや坂本慎太郎といったオルタナの大御所の作品リリースを行っているミシガンのインディー・レーベル"Fat Possum Records"と契約し、実質上のデビュー・アルバム「October Song」を発表。2021年には、同レーベルから二作目「A Color of the Sky」をリリースしています。
ライトニング・バグの陶酔感に満ち溢れた耳触りのよい音楽性を形作しているのは、フロントマンを努めるAudrey Kangの清涼感のあるボーカル、そして、温かく包み込むような質感を持ったポップセンスに尽きるでしょう。バンドサウンドの風味は、シューゲイザー、ドリーム・ポップの中間点に位置し、不可思議な幻想性がほのかに漂う。
特に、2015年に発表された自主製作「Floaters」は、2010年代のインディー・ロックの隠れた名盤の1つとして挙げておきたい作品です。
ライトニング・バグの主要な音響世界を構築するAudrei Kangは、既にリリースされた三作のスタジオアルバムにおいて独特な世界観を構築しており、同郷NYの日本人ボーカル"ユキ"の在籍するAsobi Seksuに近い、幻想的な質感をもったドリーム・ポップ・ワールドが展開され、そのサウンドの美しさというのは、バンド名に象徴されるように、宵闇のかなたに幻想的に漂う、夏のホタルの淡い瞬きにもたとえられます。
今後、アメリカのインディー・ロックシーンで脚光を浴びそうなキラリと光るセンスを持ったバンドです。
・「Floaters」 2015 1070382 Records DK2
Tracklist:
1.Lullaby No.2
2.Bobby
3.11 but not any more
4.Garden Path Song
5.Gaslit
6.The Sparrow
7.A Sunlit Room
8.Labyrinth Song
9.Luminous Veil
10.Real Love
ライトニング・バグの自主製作アルバムとなる「Floaters」。 この作品では荒削りながらもこのバンドの後の才覚の萌芽が見いだされます。後二作のアルバムと比べると、ドリーム・ポップというより、シューゲイザーの雰囲気が強く、Ride、苛烈なディストーションサウンドが鮮烈な印象を放っています。
しかし、 近年のこれらのジャンルに属するバンドと明確な違いが見いだされ、その独自性がこのバンドの印象を強固にしている。この作品で提示されるインディー・ロックサウンドは、刺々しいシューゲイザーサウンドでなく、温かく包み込むような労りをもったいわば癒やしのロックサウンド。1990年代に活躍した、アメリカの幻の伝説的ドリーム・ポップバンド、Alison's Haloに比する奇妙な温みを漂わせるものがあります。
もちろん、この作品「Floaters」の魅力はそういったシューゲイズサウンドにとどまらず、「The Sparrow」に代表されるクラシックピアノを使用した古典音楽、ロマン派の音楽への憧憬。「A Sunlit Room」に見受けられる電子音楽のアプローチを交えた新世代サウンドの追究性にあり。時代性を失ったようなサウンドの雰囲気は、聞き手にノスタルジアを与えてくれるはずです。
・「October Song」2019 Fat Possum Records
Tracklist:
1.(intro)
2.The Lotus Eaters
3.Vision Steps
4.The Luminous Plane
5.The Roundness of Days
6.The Root
7.I Looked Too long
8.September songs
9.Octorber Songs Pert.Ⅱ
ファット・ポッサム・レコードとの契約した後に発表されたデビュー作。前作に引き続きライトニングバグの主要な音楽的な骨格ともいえる、インディー・フォーク、シューゲイザー、テクノポップの3つの要素がより、強い色彩となって表れ出たかのような雰囲気も見受けられます。
今作において、Audrey Kangは、前作の音楽的な情景をなぞらえたわけでなく、ここで新たな情景をときには真実味を持って、ときには幻想性を携えて音楽という空白のキャンバスに異なるシーンを描き出しています。
その「音の絵」とも呼ぶべきニュアンスは、ポートランドを拠点に活動していたGrouperのインディーフォーク性に近い、暗鬱なアトモスフェールによって彩られている。それはリズ・ハリスの描き出すようなアンビエントドローンのもつアヴァンギャルド性に接近していく場合もある。
けれども、ライトニンバグは、今作品において、危うい寸前で踵を返すと称するべき絶妙なサウンドアプローチを図っていることに注目したい。グルーパーのような、完全なダークさにまみれることを自身の生み出す音楽性に許容するのかといえば誇張になってしまう。
この作品において、ライトニング・バグが描き出す音響世界は、徹底して幻想的な世界観でありながら、最初期の作品「Floaters」で、Audrey Kangが構築した陶酔的な恍惚、美麗な叙情性に彩られています。
その質感は、グルーパーのリズ・ハリスの描き出す情景とは全く対極に位置する。五、六曲目で、アンビエントドローンに近い曲調が一旦最高の盛り上がりを迎えた後、八曲目の「September Rain」では、嵩じた曲調に一種の鎮静が与えられ、アルバムの世界の持つ世界も密やかに幕を徐々に閉じていく。
今作品は、ギター・ロックの音響的な拡張性を試みた実験的作品ですが、そこまでの気難しさはなく、初めてこの作品に触れたとしても、何らかの親近感を見出してもらえるはずです。
・「A Color of the Sky」 2021 Fat Possum Records
Tracklist:
1.The Return
2.The Right Thing Hard To Do
3.Spetember Song pt.Ⅱ
4.Wings Of Desire
5.The Chase
6.Songs Of The Bell
7.I Lie Awake
8.Reprise
9.A Color Of The Sky
10. The Flash
現時点のライトニング・バグの最高傑作といえるのが、通算三作目となるアルバム「Color of the Sky」です。この作品も前作と同じくファットポッサムレコードから発表された作品です。
この作品は、アルバムアートワークに描かれた美しい青空に架かる虹が、実際の音のニュアンスの全てを言い表しているといえるかもしれません。前作の暗鬱さとは打って変わり、ぱっと雨模様の空が晴れわたったかのような清々しさに彩られ、何か、聴くだけで気持ちが晴れ渡るような楽曲が多く収録。また、音楽性の観点から言うなら、上記二作品に比べ、シューゲイザーサウンド、苛烈なギターロックサウンドの雰囲気は薄れそれとは正反対の流麗なドリーム・ポップサウンドをこの作品において、ライトニング・バグは完全に確立しています。
注目したいのが、Audrey Kangの歌唱法が美しくなったことです。Kangのヴォーカルは、大きく腕に包み込むかのような温かさが満ち溢れています。これを母性的な愛情と称するべきなのかは微妙なところですが、それに比する神々しい慈しみのような声質が上記二作に比べると、顕著に滲み出ている。
そこには、もちろん、ローファイ寄りのギターサウンド、まったりしたドラミングというこれまでのバンドサウンドが円熟味を醸し出したこと、それから、今作から、メロトロンやストリングスが導入された点が、ライトニング・バグの音楽に新鮮味を加え、さらに説得力あふれるものたらしめている主だった要因なのでしょう。
最初期からのインディー・ロックバンドとしての矜持を持ち合わせつつ、マニアックさという慰めに逃げ込まないのが見事です。ビートルズの後期のアートポップ性に近い質感をもった楽曲「The Return」、それから、何となく、穏やか〜な気持ちにさせてくれる「The Right Thing Is Hard To Do」といった楽曲は聞き逃がせませんよ。
また、表題曲「The Color of the Sky」において、既存の作品にはなかったストーリー性が加味されていることにも着目しておきたい。聴いていると、心がスッと澄み渡るような美しさに満ち溢れた作品。ドリーム・ポップやシューゲイズ、インディー・ロックファンは、是非とも聴いてもらいたい傑作の1つです。
・「Waterloo Sunset」 2020 Fat Possum Records
シングル盤についても、一作紹介しておきましょう。 2020年、ファット・ポッサムからリリースされた作品「Waterloo Sunset」は上記の最新作「A Color of the Sky」の呼び水となった楽曲で、美しい情景を目に思い浮かばさせるような傑作です。
昔の名歌謡を彷彿とさせるインディー・フォークの楽曲で、淡い哀愁やノスタルジアを感じさせてくれるでしょう。
ヒーリング・ミュージックではないのに、癒やし効果抜群。Audrey Kangの美しい包み込むような自然な歌声が魅力、悠久の時の果てに迷い込むかのような美しさに癒やされます。