Indigo De Souza
インディゴ・デ・ソウザは、ノースキャロライナ州のプルースパイン出身の女性アーティスト。現在は3人編成のロックバンドとして活動している。
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幼少期、アーティストであった彼女の母親は、このプスースパインという土地柄と反りが合わず、程なくして、家族で同州のアッシュビルへと転居する。デ・ソウザは、このときに母親の勧めを受け、ソングライティングを9歳からはじめ、音楽制作に親しむことになった。
2016年、インディゴ・デ・ソウザは、友人宅のガレージを借り、本格的なソングライティングを始める。完全なるDIYスタイルのインディーロックアーティストとしての目覚め。それが「Boys」をはじめとする初期のデモ集で結実をみせている。この時代の音楽的な出発、ガレージで大音量で音楽を奏でるというスタイルはガレージでの録音ではあるものの、非常に宅録に近いベッドルームポップに近い音の指向性を持ち、またそこにラップに対する憧憬のようなものも見て取れる。
デ・ソウザの音楽の主題は、内面的な人間関係における不安や葛藤、それに対する深い芸術的な眼差しともいうべきもので、これは不安的な幼少期の時代の苦悩に根ざしているように思われる。
アルバム・ジャケットにしても、言ってみれば、モンスターのような風貌をしたキャラクターが描かれ、何度もこのモチーフをデ・ソウザは好んで用いている。これからも、このキャラクターが何度も登場すると思われるが、女性的な母親のモンスターに付き従う子供のモンスター。これは、デ・ソウザの内面世界をイラストとして克明に描き出したもののように思える。そして、これこそ、デ・ソウザという芸術家の内面に巣食っている人間関係における深い不安、葛藤の正体である。
デ・ソウザは、彼女自身内面に根ざす不安を見つめ、それを正反対の表現、ときに軽やかに、また、、ときには、キュートさやジョークをまじえ、音楽としてアーティスティックに描き出している。その音楽は、このような内面の葛藤や不安を認め、朗らかに笑い飛ばすようなニュアンスも感じられる。それはインディゴ・デ・ソウザという天真爛漫なアーティストのキャラクター性においても同様である。だから、デ・ソウザの音楽は真実味があり、ポップ音楽として深い説得力がこもっている。これまで、自主レーベルを中心に作品リリースを行っているインディーロックアーティストにもかかわらず、アメリカの若者たちを中心に大きな支持を集めているのもうなずけるはなしといえるかもしれない。
また、インディゴ・デ・ソウザは、2000年直前に生をうけた所謂ミレニアム/Z世代に属するミュージシャン。
彼女の音楽的な趣味は、近年のアメリカのリバイバルアーティストと同じく、最近の音楽だけに照準が絞られているというわけではない。
直近の音楽だけにとどまらず、現代の音楽家にとってはライブラリーミュージックともいえる生前の音楽に対する情熱的な眼差しが注がれている。とりわけ、シューゲイズやドリームポップといったオルタナティヴ・ミュージックに対する深い影響がうかがえ、、それが近年流行りの宅録のポップス、ベッドルームポップとの融合を果たしている。
デ・ソウザというアーティストは、新時代の「オルタナの申し子」ともいえるかもしれない。そのオルタナ性と称するべき彼女自身の反映と換言できるような性質がポップス、ラップ、ソウルといった音楽性と掛け合わさり、新時代のインディー・ミュージックと喩えるべき音楽性が生みだされる。
スタイリッシュであるものの、どことなく不敵。不敵であるが、その内奥には人間的なハートフルな温かさも滲む。そしてそれは不思議にも、アルバムアートワークに描かれている、おどろおどろしくもあり、なおかつ奇妙なかわいらしいキャラクターの姿の雰囲気に近いように思われる。
「I Love My Mom」Saddle Creak 2018
Tracklisting
1.How I Get Myself Killed
2.Take Off Ur Pants
3.Good Heart
4.Smoke
5.Sick In The Head
6.What Are We Gonna You Down
7.Home Team
8.Ghost
9.The Sun Is Bad
10.I Had To Get Out
「インディゴ・デ・ソウザ」の名をインディー・ロックシーンに知らしめたデビュー作「I Love Mom」である。
ここで、デ・ソウザは、初期からのベッドルーム・ポップ色に加え、その要素にインディー・フォークやドリーム・ポップを融合させたような新しいオルタナティヴ世代の音楽を、既にこの一作目にして提示してみせている。
アルバム・ジャケットワークにしても、また、歌詞にしてもいくらか暗鬱なニュアンスを感じるかもしれないが、実際の音楽性というのは、どちらかといえば、それとは正反対に爽快で朗らかな雰囲気がただよっている。
これは、デ・ソウザというアーティストがその内面の不安、葛藤を直視した上、その問題の向こう側にある世界を音楽というスタイルで表現しているといえなくもない。その表現性は苛烈になったかと思えば、穏やかともなり、謂わば変幻自在な両極端な内面世界がえがかれているように思える。
「Take Off Ur pants」では、明らかに、シューゲイズ/ドリーム・ポップ寄りのアプローチを図っているが、その他は落ち着いた、ポップソング、インディーフォーク、あるいはベッドルームポップを中心に構成される。
そして、デ・ソウザの跳ねるようなリリックというのが滅茶苦茶痛快で、それが今作の最大の魅力といえるかもしれない。全体的な作風としては、デ・ソウザの持つ独特なスタイリッシュな人間性、ポップス性を打ち出した秀逸な楽曲がずらりと並んでいる。
それを様々なスタイル、カントリー/フォーク、ポップ、ソウル、ラップという形で表現されている。これを散漫な興味ととるのか、幅広い音楽性が込められているととるのかは、リスナーの感性次第によるかもしれない。現代のポップスらしいフレーズがあったと思えば、その一方で、モータウンサウンド、ノーザン・ソウルのようなカクッとしたブレイクを挟むフレーズも、さり気な〜く挟まれるのが顕著な特徴といえるだろうか。
このあたりは、ケンドリック・ラマーのトラックメイクのような独特なぶっ飛び具合に比する資質と称することもできる。ファンク、ラップの領域で活躍するアーティストの「これまでのサウンドの引用」という手法を、「インディー・ロック/フォーク」として新たに組み直している点が画期的である。特に、デ・ソウザのソングライティングは、メロディの良さという面に重点が置かれている。意外な渋みすら感じられる曲が多い。
「Any Shape You Take」 Saddle Creak 2021
Tracklisting
1.17
2.Darker Than Death
3.Die/Cry
4.Pretty Pictures
5.Real Pain
6.Bad Dream
7.Late Night Crawler
8.Hold You
9.Way Out
10.Kill Me
前作「I Love My Mom」ではおぼろげであった音楽的な印象がより明瞭となり、秀逸なポップソングとして昇華されたのが通算二作目のスタジオアルバム「Any Shape You Take」である。特に、#3「Die/Cry」#4「Pretty Picture」に代表されるように、良質なポップソングは前作よりもはるかに完成度が高くなったといえよう。
このシンガーの朗らかで親しみやすい資質、天真爛漫な性質というのは前作よりと伸びやかに表現されている。特に、シンガーとしての風格は前作よりも大きなものを感じてもらえるはず。
ポップス色の強い作風ではあることは言うまでもなく、インディー・ロック色を交えた魅力的なサウンドが展開されている。センチメンタルなニュアンスが涼やかに歌われている。前作と同じく、インディゴ・デ・ソウザらしいスタイリッシュさも存分に感じていただけるはずと思う。
前作よりはるかにキャッチーなポップソングとして楽しめる、すがすがしく、ゆるやか、ほんわかとした気分をもたらしてくれる素晴らしいサウンド。インディゴ・デ・ソウザの入門編としておすすめしておきたい良盤!!