Laffey
アンドリュー・ラフェイは、カナダ、トロントを拠点に活動するローファイ・ヒップホップミュージシャン。 音楽制作者で有るとともにサウンドエンジニアを務めているアーティストです。
ギター、ピアノ、トラックメイクまで一人でこなすマルチインストゥルメンタリストでもあります。ローファイビートを打ち出したアンビエント寄りのゆったりとしたアプローチがラフェイの音楽の特性でしょう。
ラフェイというミュージシャンは、海外、殊に日本ではそれほど知名度のあるミュージシャンではないはずですが、地元トロントのミュージックシーンでは非常に著名なアーティストで、特にフロアシーンにおいて、プロデューサーとしての評価が高く、周りのミュージシャンもラフェイを慕う人が多く、Xft、JDSYN、They,J-Soul,Laisといったアーティストが、アンドリュー・ラフェイに対するリスペクトを示しています。
アンドリュー・ラフェイは、十代の頃から、地元トロントでトラック制作を行っていたアーティストで、2018年にソロ名義で「Lafffey」を、自主レーベル”Laffey Records"からリリースしています。数カ月後に、ダドリー・ムーア監督の映画に因んだ作品「Ten」を発表。その後、サウンドプロデューサーとしての仕事をトロントのフロアシーンで行う傍ら、インディーアーティストらしい作品製作を続け、2021年までに8作のアルバムをリリースしています。
これまでに発表された作品全てを自主レーベルなラフェイレコードからリリースを行っていて、ヒップホップのミックステープ文化に根ざした活動を根幹に置き、テープ形式での作品発表を行っていることにも注目。
また、ラフェイのアルバムアートワーク、及び、MVには徹底してアニメーション作品が使用され、アニメーションとローファイ・ホップという2つのメディアミックスを行うアーティストでもあります。ラフェイのサウンドの特徴は、アニメーションの映像作品のサウンドトラックに見受けられるようなノスタルジアが漂い、日本的な上品で淡い郷愁もほのかに感じさせてくれるものがあるはず。
アンドリュー・ラフェイは、自身の生み出す音楽について、以下のように述べています。
音楽は私の人生の重要な側面でもあります。また、 Lo-fi製作を行う事自体も、私の精神に治癒を与えてくれます。私の生み出した音楽が、人々を癒やし、そして平和を見つけ、人生に落ち着きを与えるのに役立つのなら、これ以上の仕合わせはありません。
音楽そのものには治癒的な部分があるんだと思います。 人々は、日常からの脱出に耳を傾けることにより、忙しい生活の中に、大きな平和と慰めを見つけるはずです。
さて、今週の一枚として紹介させていただくのは、カナダ、トロントを拠点に活躍するローファイ・ヒップホップ、アンビエントアーティスト、アンドリュー・ラフェイの11月24日にリリースされた新作シングルとなります。
これまでの作品と同様、アンドリュー・ラフェイは今作品のアルバムアートワークにしても、また、ミュージックビデオについてもアニメーションの作品のニュアンスを取り入れています。
今週のリリースされた作品に比べ、話題性に乏しいというのはあるかもしれませんが、他の作品にはない深い音楽の魅力がこの作品には宿っています。そもそも、ローファイ・ヒップホップというのは、チルアルトに近い雰囲気を持った音楽で、フロアを沸かすためとは正反対に、フロアに鎮静を与えるために生み出された、と言えるでしょう。このシングル作に収録されている三曲は、おしなべてこのカナダ・トロントの秀逸なサウンドデザイナーが真心を込めて生み出した正真正銘のハンドクラフトの音楽であり、アルバムの冗長さとは対極にある旨味を感じていただけるはず。
例えば、ジブリ映画のような「アニメーションにおける郷愁」といった叙情性が満載の作品であり、落ち着いて家の中でまったり聴くことはもちろんのこと、忙しい日常の歩みをふと止め、目の前にある見過ごしていた美しい情景を直覚させてくれる音楽。これはラフェイという方が流行やトレンドに流されない精神の核のようなものを持っているからこそ、このような普遍性のある音楽が生み出されるともいえるでしょうか。少なくとも、このシングルに収録されている三曲全てがアンドリュー・ラフェイ自身が語るように、多忙極まる心に大きな「治癒」だとか「平安」を与えてくれるのです。
より踏み込んでアンドリュー・ラフェイの音楽性について詳述するなら、HeliosとNujabesの中間を行くかのような通好みといえるサウンドであり、アンビエントに近い空間的なシークエンスのアプローチに加え、サウンドエンジニア、トラックメイカーとしての才覚も遺憾なく発揮された作品。
チルアウトに近いシンセサイザーのフレージング、そして、リズムトラックはそれと対比的にヒップホップのトラックメイクが見事に融合していて、長くたのしむことのできる音楽といえるでしょう。ローファイヒップホップとしては一級品。また、アニメーションに見いだされるようなノスタルジアを感じさせるという点では、日本のアーティストにも近い性格を持った楽曲群です。
もし今週にリリースされた他の作品と明かに異なる魅力があるとするなら、この作品が聞き手を無理くりに前に進ませるものではなく、その場に立ち止まらせて、あらためて、じぶんの内面に目をむけさせてくれる哲学的な音楽であって、聞き手に、鎮静、深い叙情性、大きな安らぎを与えてくれる音楽であるということでしょう。
今、目まぐるしく変わる刻々と移ろう世の中だからこそ、アンドリュー・ラフェイの生み出す音楽は美しく聴こえ、日々の変化の中に埋もれかけている普遍性に思い至らせてくれ、聞き手の人生に異なる奥行きをもたらしてくれるとても貴重な音楽なのです。