Snail Mail
スネイル・メイルは、NYを拠点に活動するシンガーソングライター兼ギタリスト、リンジー・ジョーダンによるソロプロジェクト。
2015年、リンジー・ジョーダンはバンド形態で活動をはじめ、同年にEP「Sticki」をリリースし、ライブを行うようになります。その後、ベーシストのライアン・ビレイラ、ドラムのショーン・ダーラムが加入。2016年には、バンド形態で自主ツアーを敢行した後、最初の公式リリースとなるEP「Habit」をSister Polygon Recordsからリリース。
この作品「Habit」は、アメリカの幾つかの著名音楽メディアで取り上げられ、これを機に、Ground Control Touringと契約を結ぶ。この際、Pitchforkは「Thinking」が名物コーナー”Best New Track”として特集されている。
その後、2017年に、スネイル・メイルは、北米ツアーを敢行し、プリースト、ガールプール、ワクサハッチーを回り、NYのビーチ・フォッシルズのサポートアクトを務める。翌年、リンジー・ジョーダンは十代の若さで、NY名門レーベル(かつてはコーネリアスも所属)Matadorと契約を結び、アルバム「Lush」をリリース。カート・コバーンの元妻、コットニー・ラブにも楽曲を提供している。
スネイルメイルの音楽性は、インディーロック、フォークの王道を行くものであり、女性版カート・コバーンの再来といっても過言ではないはず。凄まじい風格を持ったインディー・ロック・クイーンの誕生を予感させる。今月の下旬から、故郷のバルティモアをはじめ、大規模ツアーを控えているスネイル・メイルことリンジー・ジョーダン。これから日本でもブレイクは間近と思われる再注目のクールなアーティストのひとり。
「Valentine」Matador Records
Tracklisting
1.Valentine
2.Ben Frankilin
3.Headlock
4.Light Blue
5.Forever(Sailing)
6.Madonna
7.c.et.al.
8.Glory
9.Automate
10.Mia
さて、今週のオススメの一枚として取り上げさせていただくのは、11月5日にリリースされたスネイル・メイルの最新アルバム「Valentine」となります。
先々月からシングル盤「Valentine」が先行リリースされており、アメリカのメディアにとどまらず、イギリスの音楽誌等においても、大掛かりな特集が組まれていました。そして、今週に入り、スネイル・メイルは、このアルバムに収録されている「Madonna」のNYでのライブヴァージョンを発表。この瞬間、ローリングストーン、NMEをはじめとする音楽メディアがかなり色めきだっていました。今となっては、これらの音楽誌の記者は、既にアルバムのサンプルを聴いていたのか、「2021年代を代表する相当な傑作が出た!?」という確信の下、幾つかの記事を大々的に掲載したのかもしれません。そして、実際、この新作アルバムを聴いて思ったのは、その予想を遥かに上回る凄まじいクオリティの作品が発表された、というのが正直な感慨です。
先行リリースされたシングル作を聴くかぎりでは、もう少しアップテンポの曲が多いのを予想していましたが、インディー・フォークの王道を行く楽曲、また、しっとりとしたバラードも収録されており、一つの作品として絶妙なバランスが取れた傑作に仕上がったという印象を受けます。もちろん、これまでのリンジー・ジョーダンの作品のローファイ寄りのポップス性というのは、歴代の作品に比べてさらに磨きがかけられ、どのトラックも宝玉のような眩いばかりの輝きを放っています。特に、デビュー当時からの資質に加え、SSWとしての凄まじい覇気のようなものが、今作全トラックに宿っています。曲自体の完成度が高いだけにとどまらず、インディーロックアーティストとしての何らかの主張性がこの作品全体には通奏低音のように響いています。
また、特筆すべきなのは、このスネイル・メイルのスタジオアルバムの最も心惹かれる表題曲「Valentine」においては、レズビアンのままならない恋愛について、もしくは、現代の監視社会に対する提言といった、若い年代のアーティストにしかなしえない社会に対する主張性を込めた歌詞が熱烈に歌われているのも魅力です。それに加え、インディーフォークアーティストとして天才性が発揮された#3「Headlock」#4「Light Blue」といった楽曲も、このスタジオアルバム作品に、淑やかな華を添えています。
特に、本作の有終の美を飾る#10「Mia」は、これまでのスネイル・メイル、リンジー・ジョーダンが書いてこなかったタイプのストリングスのアレンジをフューチャーした少しだけジャズの領域に踏み入れた直情的な名バラードとして聞き逃せません。クリーントーンのギターに弾き語りという形の楽曲であり、今年、聴いた中では、ノラ・ジョーンズのクリスマスソングと共に最も美しい曲のひとつに挙げられます。
今年のインディー・シーンの女性アーティストの作品の中では、ラナ・デル・レイのアルバムが最も際立っていると考えておりましたが、それを遥かに上回る大傑作の誕生の瞬間です。2020年代のインディー・ロックの最良の名盤として次世代に語り継がれる作品がリリースされたことに際し、ひとりの熱烈な音楽ファンとして本当に喜ばしく思い、また、ちょっとだけ、ホロリと感動。文句の付け所のない完璧な大傑作の登場です!!
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