Album of the year 2021 ーBreakthrough Albumー

Album of the year 2021  

 

 

ーBreakthrough Albumー

 


 

ここで取り上げるのは、鮮烈な2021年にデビューを飾った来年以降注目すべきアーティストのデビュー作。2022年のミュージックシーンがどのように変化するのか、これらのアーティストたちがその鍵を握っていると言えるかもしれません。





・Parannoul 

 

「To See The Next Part Of Dreams」 Parannoul

 

 

 Parannoul 「To See The Next Part Of Dreams」

 

To See the Next Part of the Dream  

 

 

 

サウスコリアのインディーズシーンでは、今、Asian Glowをはじめ、苛烈なシューゲイズに電子音楽の要素を混ぜ合わせた音楽が台頭していて、非常に勢いが感じられる。しかも、かなりラフでプリミティヴなミックスのまま完成品としてリリースしてしまうところに魅力があるように思える。

 

この雪崩を打って新たな概念を提示するアーティストが登場するような雰囲気こそ、何らかの「シーン」と呼ばれるものが現れる瞬間の予兆であり、それは、東京のシーンにLiteやToeが出現したポストロックの黎明期に重なる雰囲気がある。これからいくつかの新星がサウスコリアから登場すると思われるが、その筆頭格ともいえるのがこのパラノウルというソロアーティスト。


Parannoulは自身のプロフィール、バイオグラフィーについてオープンにしていない。学生のアーティストで、ホームーレコーディングを行って作品の発表を行うインディーミュージシャンであるということしか判明していない。


パラノウルは、最初の作品「Let's Walk on the Path of aBlue Cat」をWEB上で公開するところから活動をはじめた。


楽曲の公開は、2021年にBandcampという配信サイトを通じて行われただけにもかかわらず、Rate Your MusicやRedditでカルト的な人気を呼び、一躍パラノウルは世界的な知名度を得る。今後、2020年代、こういったWEBでの楽曲配信をメーンとするインディーミュージシャンが漸次的に増加していくような気配も感じられる。


「To See The Next Part Of Dreams」は、パラノウルの実質的なデビュー作である。LP,デジタルに加え、カセットテープ形式でリリースされているのも個性的な活動形態を感じさせる内容だ。パラノウルのこのデビュー作品は、特にインディー・ロックファンの間で好意的に受け入れられた作品で、日本にもファンは多い。

 

「To See The Next Part Of Dreams」独特な内省的なエナジーの強い奔出のようなものが感取られる個性的なアルバムである。そしてこの荒削りでゴツゴツした質感は現代の他の国々の高音質のデジタルレコーディングに失われてしまったものでもある。いわば、このパラノウルが自宅で一人きりで生み出した「音の粗さ」のようなものを多くの音楽ファンは求めているのかもしれない。


このデビュー作で、サウスコリアの宅録アーティスト、パラノウルが試みたアプローチは、明らかに、シューゲイズとテクノの融合、その挑戦が見事にデビュー作らしい美しい結晶を成した記念碑的な作品と呼べる。


他でも言われている通り、パラノウルの音楽性には、淡い青春のイメージが沸き起こされる。それは、アルバムジャケット、実際の音楽にも表されているとおり、なにか鬱屈とした内的な切なさのような情感を、激烈なディストーションサウンドによって彩ってみせている。


そして、アーティストがシンセサイザーを介して生み出す奇妙な迫力というのに、聞き手は驚かずにはいられない。そう、ものすごい迫力、パワーがこの作品には宿っているのだ。


二作目において、ポストロックのアプローチに転じたパラノウルだが、この最初の鮮烈なデビュー作にはこのアーティストの青春、そして、内的な感情に根ざした強いエネルギーが余すところなく込められている。


おそらく、誰もが若い頃に一度くらいは感じたことのある切ないエモーションを、パラノウルは電子音楽という形で見事に描き出している。

 

そして、このデビュー作品「To See The Next Part Of Dreams」がWeb配信中心のリリースであったにもかかわらず、アメリカのインディーシーンでもカルト的な人気を呼んだのは、この強い内省的なパワーに共感するリスナーが多かったからと思われる。パラノウルの描き出す青春は一人だけのものではなく、世界中の若者の心に響くにたる普遍性が込められていたのだろう。

 

パラノウルは、強い創作に対するエネルギーを保ち、この一、二年で、既に三作目の「Down Of The Neon Fall」を発表していることにも注目。今後もまだパラノウルの破格の勢いは途切れないように思われる。  

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

・Geese 

「Projector」 Partisan

 

 

Geese 「Projector」 


 PROJECTOR  

 

 

2021年現在、UKではポスト・ロックをはじめ、パンクムーブメントが再燃しているように思える。

 

騒乱にまみれた世界に対抗するには、上記のような若い力が音楽によって何らかの強いエナジーを示すことが必要なのかもしれない。つまり、若い人たちの前向きな力が生み出し、社会に働きかけるのがロックミュージックの醍醐味なのである。


もっとも、そのことは、今年、鮮烈なデビューを果たしたニューヨークのブルックリンを拠点に活動する十代の五人組、Geeseについても全く同じことが言えるかもしれない。


ギースは2000年代に特にNYで隆盛をきわめたガレージロックバンド、StrokesのDNAを受け継ぐ新世代のロックバンドといえる。


ギースの音楽活動は手狭な地下室で始まり、その地下室でのガレージロックに近い活動形態から生み出されるプリミティヴな音楽性、それに加え、シカゴの1980年代のポストロックバンド、ドンキャバレロのような、音楽を介しての前衛性がこのバンドの最大の魅力ともいえるだろう。


彼らのデビュー作「Projector」は、UKのラフ・トレードが「Album of the Month」として選出したレコードでもあり、 インディーロックの醍醐味が余すところなく発揮された快作である。それはアルバム全体に渡って、若いエナジー、ほとばしるようなパワフルさの込められた作品でなにか頼もしさすら感じてしまう。


その奔放さ、危うい舵取りについて、バンドサウンドの方向性が完全に定まっていないのではないか、という指摘もあるみたいだ。しかし、それでも、リードトラック「Rain Dance」を流した途端に感じる鮮烈な印象というのは、今年のデビュー作のリリースの中でも際立っていたように思える。


他にも、ストロークスの音楽性のクールさのDNAを受け継いだ「Low Era」、ドン・キャバレロやスリントに近いポスト・ロックに挑んだ「Exploding House」も十代とは思えないくらいのすさまじい迫力が込められている。


Geeseは、潜在能力が未知数で末恐ろしさすら感じられるバンド。来年以降、どのような画期的なリリースがあるのか、ファンとしてはワクワクして次作発表を心待ちにしておきたい。

 

 

 



 

 

・Gusokums (グソクムズ)      


 「Gusokums(グソクムズ)」 P-Vine



Gusokums (グソクムズ)      「Gusokums(グソクムズ)」


グソクムズ  

 

 

上記の3つのアーティストに加えてこのバンドを薦めておきたいのは、今後の作品のスタイルの方向性によっては、日本にとどまらず、海外でも人気を博す可能性をグソクムズは有しているからである。


その理由は以下に記すが、グソクムズは、田中えいぞを、を中心に結成された東京吉祥寺を拠点として活動するシティーフォークバンド。はっぴいえんど、シュガーベイブスといった日本の往年の名ポップスを継承する四人組だ。


彼らのバンドサウンド、バンドキャラクターについては、若い時代の細野晴臣、大滝詠一を彷彿とさせるような長髪のヒッピースタイルについても言わずもがな、音楽性についても日本のシティポップの系譜を新時代に伝えるものである。もちろん、吉祥寺のバンドということで、中央線沿線のサブカルチャー色に加え、まったりとした時代に流されない普遍的な雰囲気が漂っている。


P-vineから、満を持して発表されたデビュー作「グソクムズ」は、そういったシティフォークのコード感、あるいは、メロディの良さを再発見しようという試みがなされた痛快な一作である。


先行シングルとしてリリースされた「すべからく通り雨」 「グッドナイト」のセンスの良さもキラリと光るものがあり、リードトラックの「街に溶けて」の素晴らしさについても非の打ち所がないように思える。


繰り返しともなって大変申し訳ないけれども、今、マック・デマルコのカバーの影響もあってか、LAの若者の間で、細野晴臣、あるいは、シティポップの人気がそれがいくらか限定的なものであるとしても徐々に高まっているのは事実である。そして、Ariel Pinkを始めとするローファイサウンドやサイケデリック、また、リバイバルサウンドの盛んな西海岸のロサンゼルスのミュージックシーンでも、このグソクムズのデビュー作は、それらのバンドに近い雰囲気を持っているため、一定のコアな音楽ファンの間で好意的に受けいられそうな気配のある作品である。


グソクムズのデビュー作「Gusokums」は、インディーフォークやシティポップの色合いに加え、ローファイの雰囲気を併せ持ち、日本の歌謡曲に対する淡い現代人のノスタルジアに色濃く彩られている。日本のフォーク音楽の雰囲気を掴むのにうってつけの名盤のひとつといえる。







 

 


KEG 

「Assembly」


 

  



Assembly ['tatooine Sun' Orange Colored Vinyl] [Analog]


 

KEGは、英ブライトンを拠点に活動する七人組のポストパンクバンドである。ヨーロッパを中心に旅する過程の国々で集められたいわばEUのバンドともいえる。彼らのサウンドの下地には、1970年代のレジデンツのようなちょっと不気味なサンフランシスコのサイケデリア、そしてオハイオのディーヴォのニューウェイブの核心とも呼ぶべき音楽性を引き継いだバンドといえる。

 

近年、UKには、他にもブラックカントリー、ニューロードをはじめ、バンド形態というより、小さな楽団のような形の活動形態をとるバンドが多く、UKのミュージック・シーンで存在感を見せているが、このKEGについては、男のみで結成されたユニークさ、笑ってしまうような雰囲気を持ち合わせたバンドである。

 

実際の音楽にしても、バンドキャラークターにしてもサーカス団のような面白みを持ち合わせている。レコーディングに対しても暑苦しさを感じさせるヴォーカルのハイテンション、そして、その突き抜けた奔放さに一種の鎮静を与えているバックバンド、ジャズを下地にしたトロンボーンの音色が、コメディ番組に近いユニークさをもたらす。つまり、その前衛性については、The Residentsほどまでとはいかないが、シュールなユニークさというのがKEGの最大の魅力でもある。

 

今年の10月にリリースされた「Assembly」は、大きな話題を呼んだわけでもなく、商業的な成功をみた作品でもない。

 

しかし、それでも個人的に、このブライトンの七人の男たちに肩入れしたくなってしまうのは、KEGが、社会的な常識であるとか、通念だとかを跳ね返すような本来のアートのパワーを強固に保持しているからに尽きる。

 

もちろん、ここでは、反体制だとか、政治的なことについて言及したいのではない。ブライトンの海岸で結成されたKEGは、パンクロックの持つ本来の魅力を、どうにかして現代にほじくり返してやろうと試みる面白い奴らなのであって、彼らの音を奏でることを心から楽しむ姿勢が、この作品には目に浮かぶような形で溢れている。それは、ここ、二、三年のような厳しい社会情勢だからこそ、このバンドの持つ青春の輝きというのは対比的に強まるではないだろうか。

 

KEGの社会情勢を度外視したような淡い青春の一瞬の輝きは、パンクロックという形で繰り広げられる。彼らのテンションは余りに嵩じているが、しかし、一定数のコアなロックファン、パンクファンの心に揺り動かすに足るものと思う。