Eydis Evensen
エイディス・イーヴンセンはアイスランド北部の小さな町、Blönduós(ブリョンドゥオゥス)出身の作曲家兼ピアニストです。
音楽好きの両親の元に生まれ、六歳の頃にピアノを習いはじめ、七歳の時に最初の曲を書いている。
イーヴンセンは最初の故郷、そして、音楽性のルーツでもあるBlönduóという小さな町についてこのように回想する。
「日照時間が長い夏は、本当に素敵なんです。冬はそれとは正反対で、途方も無い孤独感に襲われます。1、2日の間、町中が雪に閉ざされることもありました。そんな時は、キャンドルに火を灯し、ボードゲームをするくらいしかやることがありませんでした。
風が強くなって来た、そんなふうに感じると、喜びも少しくらいは湧きますが、それが嵐になってしまうと、重苦しい気持ち、暗鬱、メランコリアが呼び起こされるんです」
13歳になる頃、すでにイヴンセンは早熟の才能を発揮し、7、8のピアノ曲を作曲、自作のCDを制作している。
また、イヴンセンは若い時代、オーストリア、ウィーンでクラシック音楽を勉強する計画を立てていたが、そのプランを取りやめ、19歳の時に故郷アイスランドを離れ、イギリスのロンドンに移住し、モデルとしてのキャリアを積みながら、ニューヨークをはじめとする世界を旅した。その後、2020年、音楽家としての活動に専心するため、故郷のアイスランドに戻っている。
ソロアーティスト、Eydis Evensenとしてのキャリアは、いくつかのシングル作に始まり、これまでに8作のシングル盤をリリースしている。デビュー・アルバム「Bylur」(アイスランド語でブリザードを意味)は、2021年4月に、ソニーミュージックのXXIMレコードから発表された。また、同年10月には、ロイヤル・アルバート・ホールのエルガールームでコンサートを行っている。
エイディス・イヴンセンの音楽は、ポスト・クラシカル、ネオ・クラシカルに該当し、アイスランドのアーティストということで、シグルソン、オーラブル・アーノルズに続く三番目の期待のネオクラシカルミュージシャンの台頭といえそうだ。
ウィディス・イーヴンセン自身は、音楽のルーツとして、ピンク・フロイド、レッド・ツェッペリン、ディープ・パープル、トム・ヨーク、といったロックバンドに加え、フィリップ・グラス、ニルス・フラームといったアーティストを挙げている。
Quote:Eydis Evensen Twitter |
「Bylur」XXIM Records 2021
「Bylur」 |
1.Deep Under
2.Dagdaraumer
3.The Northern Sky
4.Wandering Ⅰ
5.Ventur Genginn i Gard
6.Fyrir MIkael
7.Wandering Ⅱ
8.Circlulation
9.Innsti Kjarni og Tilbrigdi
10.Naeturdogg
11.Midnaight Moon(feat.GDRN)
12.Brotin
13.Bylur
2021年4月23日、ソニー・ミュージックからリリースされたエイディス・イーヴンセンのデビュー・アルバム「Bylur」は、アイスランドのレイキャビクで2020年の7月に録音された作品。
全ての楽曲は、ピアノ、そして、弦楽器四重奏の合奏のスタイルを採用しています。その他、コントラバス、金管楽器が、これらのイーヴンソン自身の流麗で叙情的なピアノ演奏をより優雅たらしめています。
このアルバム作品は、これまでリリースされたシングル作を数多く収録。故郷アイスランド、その他、イーヴンソンがモデルとして旅してきた、ニューヨーク、南アフリカ、ケープタウンの土地に捧げられた楽曲も収録されています。
驚くのは、これらの楽曲全てに、なにか音自体が息をしているかのような生彩が感じられることです。それは、イーヴンソンの演奏力が洗練されており、艷やかな質感をもっているのだけではなく、なおかつ、その周囲に広がりをましていく弦楽器のハーモニーが豊潤な空間性を演出しているからなのでしょう。そして、音楽性についても、いくつか取り上げることがあるとするなら、イーヴンソンのピアノ演奏の特徴は、フィリップ・グラスを彷彿とさせるミニマル学派への傾倒を見せつつ、またそこに、同郷の故ヨハン・ヨハンソンに近い映画音楽のような視覚的な音響性がもたらされる。楽曲の最初には、ごくシンプルなピアノ曲の印象であったものが最終盤になると、美しい弦楽器のハーモニクスにより、奥深い幽玄な世界が丹念に描き出されていく。
エイディス・イーヴンソンのピアノ演奏は、繊細で、艷やかであり、スタイリッシュな響きに富んでいます。
そして、何かしらアイスランドの雪深い情景を思い起こさせるような力感が込められていることを、これらの楽曲を聴くにつけ感じていただけるでしょう。
また、ピアノ演奏を起点として、様々に繰り広げられる弦楽の色彩的なハーモニーは目のくらむようなあざやかみを増していき、そして、金管楽器の持つたおやかな響きは、楽曲の最後になると、イントロでは全く想起できなかったような奥行きのある劇的な展開が生ずる。
これは、ピアノの演奏を中心点として、その周囲に、同心円を描きながら繰りひろげられる弦楽器、金管楽器をはじめとする音の壮大なストーリー、そして、音楽における旅、と形容しても過言ではないかもしれません。
この作品リリースのコメントにおいて、並々ならぬ故郷アイスランドへの深い慕情を語ったイーヴンソン。
それは表題曲「Bylur」に代表されるように、彼女の原初の記憶であるアイスランド北部のちいさな町、Blönduósが雪一面に覆われる「風景ーサウンドスケープ」を聞き手に想起させ、もちろん言うまでもなく、それは、この世で考えられる中で最も美麗な形で聞き手の脳裏に再現されるでしょう。
また、そして、GDRNをゲストヴォーカルとして招いた「Midnight Moon」では、故郷に対するイーヴンソンの情熱的な慕情がボーカルトラックとして大きな実を結んだといえるでしょう。
「Bylur Reworks」 XXIM Records 2021
「Bylur Reworks」 |
1.Dagdraumer Janus Rasmusen Remix
2.Wandering Ⅱ Ed Carlsen Remix
3.Circulation Uele Lamore Remix
4.Midnight Moon(feat.GDRN) Remix
5.Wandering Ⅱ Paddy Mulcahy Remix
6. Fyrir Mikael Slow Meadow Remix
7. Wandering Ⅱ Thylacine Remix
「Bylur Reworks」は11月12日に発表された先行アルバム「Bylur」のリミックス作品となります。
この作品では、オリジナル作品のクラシック性とは異なるポップス性が味わえるでしょう。初期のヴァルゲイル・シグルソンのようなエレクトリック音楽のアプローチを図った作品です。
Kiasmosの活動でもよく知られているアイスランドの電子音楽アーティスト、Jenus Rasmusenをはじめ、イタリア出身、現在はデンマーク、コペンハーゲンを拠点に活動するEd Carlsenといった豪華なアーティストがイーヴンソンの「Bylur」のリミックスを手掛けています。
いかにもアイスランドらしいクールなエレクトリック、そしてアンビエント、テクノといった幅広いリミックスが施された快作です。アルバム「Bylur」のハイライトの1つといえる「Moon Light」の別ヴァージョンのヴォーカルトラックも収録されている他、原曲の魅力をそのままに、テクノ寄りのアレンジが施された「Wandering Ⅱ」も、非常に魅力的な楽曲と言えるでしょう。