Weekly Recommend Nils Frahm 「Old Friends New Friends」


Nils Frahm


ニルス・フラームは、ハンブルグ出身、現在はベルリンを拠点に活動するミュージシャンです。

 

作風はネオクラシカルのカテゴリーに属しており、主な音楽性については、アコースティック楽器と電子楽器を組み合わせたもので、特にピアノとシンセサイザーに焦点を置いています。フラーム自身の所有するレコーディングスタジオにおいても、また、ステージにおいても、彼の作品はヴィンテージ楽器と、型破りなマイクのポジションと演奏技術を取り入れることにより、独特で叙情的なサウンドを生み出しています。

 

これまでのニルス・フラームの作品には、サウンドトラック、ソロピアノ作品、プリペイドピアノを活用した作品、シンセサイザーを主体とした作品のいくつかに大別されます。彼はまたトリオ編成のNonkeenの一員として活動し、エレクトロ作品もリリースしています。コラボレーション製作の経験も豊富であり、これまでアンネ・ミュラー、オーラヴル・アルナルズ、DJShadowと多岐にわたるジャンルのミュージシャンと共作を発表しています。ライブ作品については、これまで2013年に「Spaces」、そして2020年に「Tripping With Nils Frahm」の二作がアルバムとなっています。


ECMレコードの写真家を父親に持ち、ドイツ、ハンブルグで生まれ育ったニルス・フラームは、クラシックピアノをナウム・ブロドスキーに師事して8年間学んだ後、ベルリンに移住し、本格的な音楽活動を開始する。2005年に、電子グリッチとアコースティック楽器を組み合わせたデビューLP「Streichefisch」をAtelier Musik Recordingsからリリース。それから、Machinefabiekとの共作シングル「Dauw」を発表した後、イギリスの電子音楽を中心にリリースするErased Tapesと契約し、「Wintermusik」「The Bells」と快作を発表し、音楽評論家から高い評価を受ける。それまで存在しなかった”ネオ・クラシカル”というジャンルをアイスランドのオーラブル・アルナルズと共にヨーロッパのミュージック・シーンに確立していくことになります。

 

2011年の「Felt」では、初めて、プリペイドピアノの作曲を介してジョン・ケージの系譜にあたる実験音楽に取り組み、また、シンセサイザーを基調とした「Juno」をErased Tapesからリリース。2012年には、ミニマル学派の作風に取り組んだフラームの代表作「Screws」をリリース、盟友オーラヴル・アルナルズとの最初の共同製作「Stare」を発表。順調に著名なミュージシャンとの共作に取り組んでいき、「Juno Reworked」では、ルーク・アボットとクラークといった電子音楽の著名なアーティストが作品のリミックスに参加しています。

 

また、その後も創造性豊かな作品を次々に製作していき、2013年末に、ニルス・フラームはフィールドレコーディングから生み出された二年に及ぶライブ音源集「Spaces」を完成させています。この作品は、フラームの最高傑作の呼び声高く、数々の音楽メディアから絶賛を受けています。2015年には、ピアノ・ソロ作品「Solo」を「World Piano Day」とフラーム自身が名付けた3月29日に無料で公表。ネオクラシカルのミュージシャンとしての地位を不動なものとしていく。またこの年代から映画音楽のサウンドトラック製作にも携わるようになり、ドイツのシングルテイクの映画の音楽を担当、「Music For the motion Picture Victoria」を発表する。


2016年には、2012年に発表された旧作「Screws」の再編集盤「Screw Reworked」を発表する。フラーム自身が厳選したファンや音楽仲間がリミックスを手掛けた画期的な作品において、旧作を見事に生まれ変わらせ、前衛的で壮大なピアノ音楽を新たに産み落としている。また、同年には、ソロ名義での活動に加え、二度目のコラボレーションとなるオーラブル・アルナルズとの共作「Trance Frendz」、ドイツの電子音楽シーンで活躍するF.S.Blummとの共作「Tag Ein Tag Zwei」、及びオリジナルサウンドトラック「Woodkid」を発表しています。

 

その後、ニルス・フラームはベルリンに自身のスタジオを二年間を費やして設立し、シンセサイザーとピアノ音楽を見事に融合した作品「All Melody」を2018年に発表した後、ワールド・ツアーを敢行。翌年には「All Encores」を発表。この作品は2012年に短編映画のサウンドトラック作品のために録音され、2015年の「Solo」と同じく、3月26日の「World Piano Day」に合わせてリリースされています。

 

2020年には「All Merody」のツアー時に録音されたファンク・ハウス・ベルリン"のコンサートの音源「Tripping With Nils Frahm」をリリース。その後はPeter Proderickがゲスト参加したピアノ作品「Graz」をErased Tapesから発表する傍ら、マネージャーと設立したベルリンの新レーベル”Leiter"からF.S.Blummとの実験的なダブ作品「2×1=4」を発表しています。また、近年、BBC Promsにも出演を果たしており、EU圏にとどまらず、他の地域においても徐々に知名度を獲得しつつあります。ドイツ、ネオクラシカルの至宝といってもなんら差し支えないであろう素晴らしいアーティストです。

 

 

 

 

 

「Old Friends New Friends」 Leiter Verlag  2021

 

 

 

 

 

Tracklisting

 

 

1. 4:33 (A Tribute To John Cage)
2. Late
3. Berduxe
4. Rain Take
5. Todo Nada
6. Weddinger Walzer
7. In The Making
8. Further In The Making
9. All Numbers End
10. The Idea Machine
11. Then Patterns
12. Corn
13. New Friend
14. Nils Has A New Piano
15. Acting
16. As A Reminder
17. Iced Wood
18. Strickleiter
19. The Chords
20. The Chords Broken Down
21. Fogetmenot
22. Restive
23. Old Friend

 

 

 

 

今週の一枚としてご紹介させていただくのは、ニルス・フラームが自身のマネージャーと共に設立しベルリンのレーベルLeiterから12月3日にリリースした「Old Friends New Friends」となります。

 

この作品は、ニルス・フラームが2009年から2021年までに録音してはいたものの未発表曲となっていた音源を二枚組に収録したコレクション作品です。

 

アルバム作品としてのヴォリューム感もさることながら、なぜ今まで発表されてこなかったのだろうと思うほど秀逸な楽曲が数多く収録されていて、ニルス・フラームのベスト盤のような意味合いを持つ作品集と言えるでしょう。

 

ニルス・フラームはこの作品リリースに「これまでの私の音楽的思考、そして、演奏法のすべてを解剖したような作品」というニュアンスを語っていますが、実際に、これまでの12年というキャリア、その中には指を負傷するという大きなアクシデントにも見舞われた。それにもかかわらず、一貫して作品をストイックに発表し続けてきたことへの自分自身に対する深い矜持のようなものが見てとれると言ってよいのかもしれません。

 

なおかつ、そしてこの作品は、ネオクラシカルというクラシック音楽とポピュラー音楽の隔たりを埋める音楽ジャンルを最も把握しやすい作品でしょう。ここで、フラームはこれまでのキャリアで積み上げてきた音楽的な概念、手法、解釈のようなものをすべて聞き手に提示しており、その中には、ブラームスをはじめとする、ドイツロマン派の系譜にあたる伝統的な音楽、はたまた、フランスのドビュッシーに象徴されるフランス近代音楽、そしてビル・エバンスのようなジャズを現代のアーティストとして一つにまとめあげようと試みているように思えます。そして、これらの音楽は、さながらドイツのゴシック建築のように、深い叙情性あふれる雰囲気、堅牢な和声法により支えられています。

 

一曲目の「4:33」は、もちろん、ジョン・ケージに捧げられたトリビュート作品で、ケージの提示した概念とは異なる「現代的な沈黙」が深い叙情性と哀感をたずさえて、新たに提示されているといえるでしょう。また、その他にも先行シングルとしてリリースされていた「Late」「All Numbers End」といったドイツロマン派のクラシックとジャズの音楽性をかけあわせた雰囲気のある良質な楽曲の魅力もさることながら、きわめて叙情的な楽曲が数多く収録されています。フェルトストラップをピアノの弦間に挿入することにより、ニルス・フラームはこういった弦の響きを強調したようなアンビエンスを生みだしていますが、そういったネオ・クラシカルという音楽の基本的なサウンド手法、いわばレコーディングにおいて、手の内をすべてこの作品「Old New Friends New Friends」において、余すところなく見せてくれています。

 

特に、このコレクション作品が、これまでのフラームのソロ・ピアノ作とは異なる魅力を見出すとするなら、ピアノの低音が以前の作品よりもはるかに強調されていることでしょうか。この堅牢な和声法とも称するべき低音の迫力は、ドイツロマン派のブラームスやシューベルトの音楽性にも相通じるような深い叙情的な印象を作品全体にもたらしています。


もちろん、それはミキシング段階において、テープディレイのような加工をトラックに部分的に施すネオクラシカルらしい手法も見受けられ、そのあたりが旧来の古典音楽と、現代の電子音楽、エレクトロニックという何百年もかけ離れた年代の音楽の理解をひとつにつなげよう、という試みがなされているようにも思えます。

 

とりわけ、ニルス・フラームがこれまでの十二年の長いキャリアで提示してきた概念は、ドイツの古典音楽の伝統性に対する深い愛情、そして、それを現代の様々な音楽的な手法を駆使して再構築する、ということに尽きるように思え、それはまさに、今作のこれまでのコレクションのような意義を持つ作品において最大限に感じられる要素と言えるでしょう。

 

そして言うまでもなく、この作品は、ニルス・フラーム自身が「私の資料」というように少し諧謔みをまじえて語っている通り、ニルス・フラームのキャリアを総括するクロニクルの意義を持つ作品であることは確かですが、もちろん、このアーティストの次のアルバムへの布石も感じられるような楽曲もいくつか収録されていることにも注目したいところです。  


 

Nils Frahmの新作「Our Friend New Friends」のリリース情報の詳細つきましては、Leiter Verlagの公式サイト、又はNils Frahmの公式サイトを御覧下さい。 

 

 

 

・Leiter Verlag  HP

 


https://leiter-verlag.com/ 

 

 

 ・Nils Frahm HP

 


https://www.nilsfrahm.com/

 


references


all.music.com


https://www.allmusic.com/artist/nils-frahm-mn0001098849/biography?1638593239636 

 

resident-music.com


https://www.resident-music.com/productdetails&product_id=84876