Kota the Friend
コタ・ザ・フレンドは、NYのブルックリンを拠点に活動を行っているアヴェリー・マルセル・ジョシュア・ジョーンズのヒップホップ・プロジェクト。
ジョシュア・ジョーンズはブルックリン出身で、若い時代から音楽に親しみ、トランペット、キーボード、ギター、ベースなど多種多様な楽器の演奏を習得する。ブルックリンアートハイスクールを卒業した後、ファイブ・タウン・カレッジに通い、トランペットを専攻。大学在学中に、ジョシュア・ジョーンズはヒップホップアーティストとしての活動を始め、Nappy Hairというトリオで活動を行い、ミックステープ、「Autumn」「Nappy Hair」をリリースしている。
2015年からコタ・ザ・フレンドのステージネームを冠し、ミュージシャンとしての本格的な活動を開始。この「KODA」という名には、ディズニー映画「ブラザー・ベア」に登場する子熊に因んでいるらしく、誰もが友人を必要としていて、自分の生み出す音楽が友人を見つけるためのインスピレーションになれば嬉しい、というジョシュア・ジョーンズの温かい思いが込められている。
コタ・ザ・フレンドは徹底して、DIYの精神を貫き、インディーラッパーとしてこれまでの活動を継続している。
デビュー前に、メジャーレーベルからの契約の誘いを断り、その代わりに、自主レーベルとアパレルショップを立ち上げた後、2018年に「Anything」、2019年にはデビュー作「FOTO」をリリースし、アメリカのイーストヒップホップシーンにおいて大きな存在感を示した。
コタ・ザ・フレンドは、幼い頃に両親が聴いていた、チルアウト・ジャズ、ソウル・ミュージック、それからNujabes、N.E.R.D、NAS、Biggiie、JAY-Zのような、幅広いヒップホップアーティストに音楽のバックグランドを持つ。
「Lyrics To Go Vol.3」fltbys LLC
Tracklisting
1.Scapegoat
2.Twenty-Nine
3.Bitter
4.Prodigal Son
5.Breath
6.For Troubled Boys
7.Dear Fear
8.Shame
9.Boy
10.Cherry Beach
さて、今週の一枚として紹介させていただくのは、アメリカ東海岸のヒップホップシーンの最重要アーティスト、コタ・ザ・フレンドの1月14日リリースの新作「Lyrics to GO Vol.3」となります。
この「Lyrics to GO」という作品は、一つの意識の流れを意味し、必ずしも、完全な曲としてリリースされたものではなく、アイディアを集約した作品で、オリジナルアルバムをリリースする間に挟むことにより、創作を円滑に繋ぎ合わせるというアーティストの意図が込められています。
全ての楽曲は、一分半、二分のランタイム。ジョシュア・ジョーンズが、今、メッセージとしてぜひとも伝えておきたいことをフロウに込める簡潔な雰囲気の作品です。一作目の「Lyrics to GO Vol.1」は、インディーアーティストながら、ビルボードのUSチャートトップ10にランクインした話題作。そして、この作品は、「Lyrics to GO」三部作の完結と見てもよいかもしれません。
この作品「Lyrics to GO Vol.3」が素晴らしいのは、表向きに見えるシンプルな楽曲構成の魅力もさることながら、叙情的な雰囲気が漂っていることに加え、ヒップホップに旋律性や和音性をもたらそうとしている点。
また、ジョシュア・ジョーンズの本格派のフロウはバックトラックのジャジーな雰囲気と相まって、独特な美しいハーモニクスを生み出しています。正確に言えば、和音が意図して構成されていないにも関わらず、アンビエンスの倍音によって複雑な和音が生み出されているのが見事と言えます。
全体的には、コタ・ザ・フレンドのこれまでの既存の作品の音楽性を引き継ぎ、家族や友人といった出来事に歌詞のテーマが絞られ、ローファイ・ホップの雰囲気を持った楽曲が数多く収録されています。これまでの作風と同じく、コタ・ザ・フレンドは、多彩なアプローチを図り、ヒップホップの中に、ソウル、ジャズ、フォークの要素をオシャレにそつなく取り入れています。
「Lyrics to GO Vol.3」は、メモ書きのような意味を持つ作品のため、本義のオリジナルアルバムとは言いがたいかもしれません。いや、それでも、これらのトラックに込められたジョシュア・ジョーンズのフロウの軽やかさを聞き逃すことなかれ。この作品は、爽快かつリラックスして聴くことのできる個性的な楽曲ばかり揃っていて、聴いていると、ほんわかした気分を与えてくれます。
「アイディアの集約」という意図で制作されたデモテープのニュアンスに近いリリースであり、長い時間を掛けて制作されたわけではないからか、アルバム全体には、爽快で軽やかな雰囲気が漂っています。
しかしその一方、長く聴けるような渋さも十分に併せ持った作品でもある。また、このコンピレーションで繰り広げられるコタ・ザ・フレンドの痛快で軽やかなフロウは、先行きの不透明な現代社会だからこそ意味深いもの。きっと多くのリスナーに、明るく、温かな息吹を与えてくれるはず。
今作は、本格派のフロウでありながら、通好みのローファイ感が満載。まさに、コタ・ザ・フレンドの名の通り、ヒップホップファンにとっての「長きにわたる友」と言えるような雰囲気に満ちた魅力的な作品。