Album Reviews  Ricardo Villalobos Einzelkind  「Arnorac EP」

 ・Ricardo Villalobos


 

1970年、チリ、サンティアゴ出身のリカルド・ヴィラロボスは、アウグスト・ピノチェトの独裁政権から逃れるため、1973年に両親とともにドイツに移住した。

 

リカルド・ヴィラロボスは、11歳の頃から、コンガ、ボンゴといった打楽器の演奏を始めたが、ミュージシャンとしての才覚に自信が持てなかった。その後、電子音楽の作曲に取り組むようになったのは、1980年代後期になってから。

 

イギリスのロックバンド、デペッシュ・モードに影響を受けた他、Daniel Millerをはじめ、南米音楽にも強い触発を受けている。

 

1994年には、Playhouseから最初の音源をリリースし、1988年にはDJとして本格的な活動を開始した。その後、盟友ZIPによるレーベル、perionを中心に数多くの音源をリリース。また、DJとして活躍するかたわら、リミックス音源も数多く手掛けている。

 

追記としてはECMレコードのリミックスアルバム「RE:ECM」をリリースしている。2008年には、ダンスミュージック系大手ウェブサイト「Resident Advisor」では、2008年度のナンバーワンDJに選出されている。




・Einkind

 

  

ドイツ、フランクフルトを拠点に活動するアインゼルカインドは、Pressure Traxx/La Pena Recordsのレーベルオーナーである。

 

世界中のコアな音楽ファンから支持を受け、アンダーグランドなDJであれば誰もがあこがれるフランクフルトの隣町、オッフェンバッハの老舗クラブの「Robert Johnson」のレジデントDJを務めている。二十年以上の長いキャリアを誇るアインカインドは、熟練された確かなDJスキルを持ち合わせ、SonarやADEなど海外の大型フェスティバルでも名を見かけるほどである。

 

アインゼルカインドは、トラック制作でもこれまでに数多くの作品を世に送り出しており、イギリスのアンダーグラウンドシーンを担うFuse Londonの提携レーベル「Infuse」から「Dirtdrive EP」をリリースするなど、ドイツ国内だけでなく多くのミュージックファンにその力量を認められている。

 

盟友であるフロスト、クリスティアン・ブルクハルトとともに運営するレーベル「Pressure Trax」の活動も目まぐるしく、2014年秋には、上記のリカルド・ヴァルロボスの音源をリリースしている。





「Arnorac EP」 Pressure Traxx

 

 

 



Scoring



Tracklist

 

1.Arnorac A

2.Arnorac B

3.Arnorac C

4.Arnorac D



 

ドイツ国内の電子音楽家、DJとして活躍を続けてきたリカルド・ヴァルボラス、アインゼルカインドのレーベルを通してのコラボレーションを図った「Arnorac EP」は、アインゼルカインドの主宰する「Pressure Traxx」から、オリジナル盤は2017年1月にリリースされた作品で、長らく入手困難になっていたようで、今回、デジタルバージョンとして解禁され、Spotifyで視聴可能となった作品である。

 

今作はドイツの現代テクノシーンを象徴づけるようなクールな作品に挙げられる。これまで、ヴァルボラスはグリッチテクノの要素を感じさせるリミックスを中心に行ってきたが、そのヴァルボラスの音楽の方向性が色濃く出た作品といえるかもしれない。

 

シンセサイザーの音源は、ドイツのNative Instruments社のソフトウェア音源「Reactor」の音色を彷彿とさせ、モジュラーシンセのような独特な響きを持ち、それが全体的なヴァルボラスらしいエグみのあるリズムトラックを形作っている。この独特の質感、リズム性をほのかに残しながらもデジタルノイズに近い音色をモジュラーシンセにより生み出すのが、ヴァルボラスのトラック制作のすごさといえるのである。

 

また、リズムトラックの音色をフィルターのエフェクトを通して巧みに変化させ、曲の表情にバリエーションをもたせる手法が取り入れられているのが、このEP作品「Arnorac」の最も面白さを感じる部分で、こちらの方は、アインゼルカインドのDJとしての素晴らしい手腕といえるだろうか。

 

これらのヴァリエーションに近い意義を持つ4つのトラックは、アメリカのジョン・テハダのテックハウスにも近い雰囲気を持つコアな電子音楽である。ハイエンドを強調したグリッチノイズ的手法が採られながらも、ハウスのような太いベースラインも併せ持つ。

 

ミニマルテクノの通好みのオシャレさ、ハウスの強いダンス要素を融合した新しさの感じさせるエレクトロで、アフターの真夜中のフロアの陶酔したオーディエンスを意識した、UKベースラインのようなエグみのある雰囲気を持っている。いかにもテクノ好きをうならせるような快作のひとつです。