Tomasz Bednarcsyk
トマシュ・ベドナルチクは、ポーランドのヴロツワフ在住の電子音楽家、サウンドデザイナーです。
2004年以来、前衛的なアンビエントサウンドの解釈を通して、新鮮で親しみやすい性質を持った楽曲を数多く生み出して来ました。
ベドナルチクは、アコースティックループ、そして、自身のスマートフォンで録音したフィールドレコーディングをトラックとして緻密かつ入念に重ね合わせていき、奥行きがあり、時に暗鬱で、時に温かな、叙情性あふれるデザイン性の高いアンビエント音楽を数多く作り出しているアーティストです。
Wire Magazineは、トマス・ベドナルチクの音楽について、「・・・彼の作品は、音の断片に光に当て、それらの幾何学性を与え、音は絶妙な均衡を保っている。彼の作品は、アレクサンダー・カルダーの彫刻のように平均感覚を呼び覚ますものである」と2009年のレビューにおいて評しています。
ベドナルチクのデビュー作「Sonice」はAvangarde Audio Recordsからリリースされています。2007年、彼は、他のアーティスト、Flunk,Gusky,Mr.S、Novika,Old Time Radio、3 Moon boysの作品を取り上げ、独自のスタイルを追求しました。上記のリミックス作品のコンピレーションにより、彼は電子音楽家、サウンドプロデューサーとして注目を集めていきます。
オーストリアの著名なレーベルRoom 40からリリースされた二作目のスタジオアルバム「Summer Feeling」は、これまでのベドナルチクのキャリアにおいて代表作の一つに挙げられる作品です。
穏やかさと繊細さを兼ね備えたアンビエントのサウンドアプローチは、Wire Magazineを始め、多くの音楽評論家から好評を受けました。その後、「Wire Magazine MP3 Special」、「Shortcut to Polish Music」をはじめとするコンピレーション作品、日本のポスト・クラシカルシーンのアーティスト、Kato Sawakoのリミックス作品を始め、多くのリミックス作品を手掛けていくようになりました。
その後、Tomasz Bednarcsy名義のソロアルバムの発表を重ねていき、「Painting Sky Together」「Let's Make Better Mistakes Tomoroow」といった美麗なアンビエント作品を、Room 40,12Kといった著名な電子音楽専門レーベルからリリース。二作目のアルバム「Painting Sky Together」は、BBCラジオ3でオンエアされ、アンビエント作品として好評を受けています。
その後、三作目のスタジオアルバム「Let's Make Better Mistakes Tomoroow」発表後、2010年にトマス・ベドナルチクはソロ活動を引退すると発表しましたが、その後、その宣言を撤回、ソロ活動を再開。2018年に「Music For Balance and Relaxation Vol.1」をリリースした後、2021年までに四作の素晴らしいスタジオ・アルバムを発表しています。
「Windy Weather Always Makes Me Think Of You」 12k
Scoring
Tracklisting
1.Stormy
2.A Man With A Bagpipe
3.Underwater Kalimba
4.Playing Stairs
5.Thema Ⅲ
6.Out Of Tune
7.Somewher In Hawaii
8.Underknown Memories
9.What Happens Whe Glaciers Melt?
10.White Noise
ホワイトノイズを活かし、そのノイズの精彩な質感をフィールドレコーディングの録音と巧みにリミックスとして融合し、さらに、それを美麗なアンビエント音楽として昇華しているポーランドの作曲家トマス・ベドナルチクは、1月28日リリースされた「Windy Weather Always Makes Me Think Of You」においても、その音楽の方向性をさらに前進させたと言えるでしょう。
この作品は、数年をかけてトマス・ベドナルチクがスマートフォンの録音機能を介してレコーディングした音の素材を巧みにトラック制作で処理を重ねた「音の日記」のような意味を為しているように思えます。これまでの作品と同様、風景に接したときの人間の心の変化であったり、叙情を音という側面から観察し、それをきわめて抽象性の高い作風へと仕上げているのが見事です。
ベドナルチクの生み出す音の質感というのは繊細であり、それでいて奥行きが感じられるのが特徴で、その点は今作でも引き継がれているポイントといえ、電子音楽という形式ではありながら、オーケストラの生演奏を聴いているかのような温かみのある雰囲気も十二分に感じていただける作品です。
今回、この作品において、ベドナルチクは、コンセプト・アルバムのような形式を選び、アンビエント音楽としての風景、サウンドスケープがなんの停滞もなくゆるやかにうつろいかわっていきます。それはまさにアルバムアートワークに描かれているごとく、遠目から美麗な海岸沿いの風景を眺めるかのような美しさに満ち溢れた音楽です。
時には、嵐、また、時には、おだやかな海、そして、ベドナルチク自身がその風景と身近に接した瞬間の心の動きのようなものが音楽を介し表現されているようにも思えます。時に、それは、暗さを持ち、また、時には、明るさ、激しさ、穏やかさといった様々な形を取って展開されていきます。
サウンド・デザイナーとしての二十年に近い長いキャリアを持つ音楽家が長い間、直に接してきた印象的で抽象的な風景の数々が、この作品では実に美麗に描き出されています。それは、人の長い一生を表す物語に、耳をじっと澄ますかのような、味わい深さを持ったアンビエント作品と称することも出来るはずです。
bandcamp:
https://12kmusic.bandcamp.com/album/windy-weather-always-makes-me-think-of-you