New Album Review Black Country,New Road 「Ants From Up There」

 Black Contry,New Road


 

ブラック・ニューカントリー、ニュー・ロードは、2018年、イギリス・ケンブリッジシャーにて結成された。タイラー・ハイド、ルイス・エヴァンス、ジョージア・エレリー、メイカー・ショー、チャーリー・マーク、アイザック・ウッドが最初のコアメンバーとして出発した。


BCNRは、アメリカの1990年代のポストロック/インストゥルメンタルロックの継承者であり、スリント、ドン・キャバレロといった最初期の雰囲気に加えて、ヴァイオリン、サックスなどオーケストラレーションの楽器を取り入れ、スティーヴ・ライヒに近い現代音楽の作曲法を取り入れたロックバンドとして、2019年のシングル「Athens,France」で鮮烈なデビューを飾った。

 

2021年に、Ninja Tuneからリリースされたデビューアルバム「For The First Time」は批評家の間で好評を博し、The Gurdian、NME,The Timesといった大手誌が文句なしの満点評価を与えた。批評家にとどまらず、世界中のロックファンにも好意的に受け入れられた作品でもあった。

 

清新なデビューアルバム「For The First Time」は、英国、アイルランド圏内の最もすぐれたアルバムを選出する「マーキュリー賞」にもノミネートされ、全英チャートでも最高四位を獲得し、大きな話題を呼んだ。インディーロックバンドのデビュー作としては大成功を収めた作品だった。

 

2022年、待望のセカンド・アルバム「Ants From Up There」発表前にバンドのギターとボーカルを担当するアイザック・ウッドの脱退が発表された。バンドは活動の続行を宣言している。現在、次作品の制作に取り掛かっている最中である。




「Ants From Up There」 Ninja Tune





Scoring  





Tracklisting

 

1.Intro

2.Chaos Space Marine

3.Concorde

4.Bread Song

5.Good Will Hunting

6.Haldern

7.Mark's Thema

8.The Place Where He Inserted The Blade

9.Snow Globes

10.Basketball Shoes


 

 

Listen on「Ants From Up There」:


https://bcnr.lnk.to/afut



このバンドの中心人物の一人、アイザック・ウッドの脱退というアルバムリリース前の衝撃的な出来事が起こったにもかかわず、BCNRのセカンドアルバムは好意的な評価を与えられたように思える。

 

2021年のマーキュリー賞の授賞式の際に、NMEの取材に対し、バンドは既に二作目の作業がほとんど完了していることを告げて、さらに、その作品の内容に関しては「悲しい叙事詩、そしてデビュー作よりも好感が持てるアルバムになるでしょう」と話していましたが、実際、彼らのその時のコメントは二作目を聴くかぎり、正直な感慨を言い表していたとも言えるでしょう。また、ベーシストのタイラー・ハイドは、この二作目のアルバムについて、「より口当たりの良い曲が多い」、「一曲のランタイムは短い、三分半の曲を書こうと意図しました」と話していました。

 

BCNRの二作目「Ants From Up There」のレコーディングは、ワイト島のChale Abbey Studioにて、セルジオ・マシェスコをエンジニアに迎えて行われました。ワイト島はジミ・ヘンドリックスを始めとする多くのイギリスのミュージシャンが伝説的なライブを行った場所であり、イギリスのロックミュージシャンにとっては聖地のような場所だといえます。このことから、今回、ブラック・カントリー、ニュー・ロード、及びこのバンドのマーケティングを管理しているNinja Tuneは、この二作目のアルバムに並々ならぬ期待と決意を込めていたのが読めます。

 

アルバムの制作については、英国がCOVID-19のためにロックダウンを行い、都市を封鎖した当初の2020年の冬に開始されました。バンドのメンバー、ハイドとウェインは、この当時のボリス・ジョンソン首相の行動に嫌悪感を示しており、実際の歌詞については確かなことは言えませんけれども、作風自体に何らかの政治的な暗喩が込められているようにも感じられます。

 

年が変わり、2021年の6月に、バンドはツアーに乗り出し、いくつかの新曲を実際に演奏し、ライブパフォーマンスにおいてのオーディエンスの反応と楽曲の出来について手応えを感じていたようです。さらに、ツアーを終えてから、2021年の夏の終りにこのアルバムのレコーディングがワイト島のスタジオで開始されました。この時のことについて、バンドは以下のよに語っています。

 

「録音を開始した日は、イギリスがロックダウンから開放された日だった。ただ、それでも、私達はクルマでしかアクセスできない田舎の農家に滞在していたので、ある意味では、ロックダウンが継続されたようなものでした」


彼らの言葉に依拠するならば、一作目と異なり、一種の「閉鎖的な空間性」を感じさせるような内向性に満ちているのが、この「Ants From Up There」の本質とも言えるかも知れません。今考えてみれば、アイザック・ウッドのヴォーカルも後付の解釈になってしまうものの、一種の陰鬱さに彩られているように感じられます。それがどちらかといえば、活発で開放的な印象を受けたBCNRの鮮烈なデビュー作「For The First Time」との明確な違いであり、社会に蔓延する閉塞した空気感のようなものを体現したサウンドだというようにも言えるかもしれません。

 

もちろん、ポストロック/インストゥルメンタルの楽曲は最初のアルバム「For The First Time」より渋さや深みを増し、それはこのバンドの成長の証と捉えられます。それは、「Bread Song」や「Haidern」といったアメリカのシカゴ周辺のポストロックサウンドの雰囲気を受け継いだ楽曲では、最初のアルバムの楽曲より聴き応えのある良曲を生み出したといえるでしょう。

 

その他にも、デビュー作よりも、管弦楽器の存在感が強められ、以前よりもダイナミックさを増し、室内楽を介してのロックという新境地を見出した作品と称せる。さらには、アイザック・ウッドのヴォーカルもさらに迫力を増し、フロイドやクイーンの打ち立てた「ロックオペラ」にも似た質感を持っていることが、BCNRの二作目のサウンドの醍醐味とも言えるでしょう。

 

只、これらの三分半という楽曲の短さが、それらのロックオペラ風の楽曲のダイナミックな印象を薄めてしまっている部分もなくはないということです。それに加え、ヴォーカリストのアイザック・ウッドの最後の参加作品となってしまったという事実も、ちょっとだけ寂しさをおぼえてしまうのです。個人的な意見としては、やはり、そのことが頭の隅に引っかかってしまいます。果たして、アルバムの発売直前になって、主要メンバーの脱退を公に知らせるというのは、ファンとしては何故か寂しさを感じざるをえない。つまり、それにより、作品自体の聴き方だとか捉え方だとかが180°変わってしまい、フラットな状態で聴くことが凄く難しくなってしまったのです。

 

しかし、既に多くの音楽メディアの高評価を受けていることからも分かるとおり、もちろん、「Ants From Up There」は、新世代のポストロックとして、2022年の注目作品で、ポストロックの良盤のひとつに数えられることに変わりありません。また、現在、ブラック・カントリー、ニュー・ロードは、新しい作品に取り組んでいるということで、この二作目の楽曲を聴きながら、次の作品がどんな素晴らしい出来になるか、あるいは、今後、このロックバンドがどういった新しい道を切り開いていくのか、ファンとしては楽しみにしていきたいところでしょう。

 


 

 

 

 

・Black Country,New Road 「Ants From Up There」のリリース情報につきましては、以下、Ninja Tuneのオフィシャルサイトを御覧下さい。

 

https://ninjatune.net/release/black-country-new-road/ants-from-up-there