Yusuf/Cat Stevens 「Harold And Maude」

 

Yusuf/Cat Stevens

 

キャット・スティーヴンスはイギリスのミュージシャンである、現在はユスフ・イスラムを名乗っている。

 

キャット・スティーヴンスは1960年後半以来、世界中で6000万枚以上のアルバムセールスを誇る。アルバム「父と子」「ティーザーアンドファイヤーキャット」はアメリカ合衆国内だけでぞれぞれ300万枚以上のセールスを記録し、全米レコード協会によてトリプルプラチナムの認定を受けている。


続く、「キャッチ・ブル・アット・フォー」はアメリカ国内だけで、発売後の2週間で50万枚を売り上げ、ビルボードのアルバムチャートのトップの座を3週間に渡って守り続けた。楽曲「ザ・ファースト・カット・イズ・ザ・ディーベスト」がロッド・スチュワートをはじめ四人のアーティストのカバー楽曲がそれぞれ大ヒットしたことにより、彼の作品は2つのASCAPソングライティングアワードの表彰を受けた。

 

フォークアーティストとして栄光の頂点にあった1977年に、キャット・スティーヴンスはムスリムに改宗する。その翌年にはみずからの名をユスフ・イスラムに改めた。この時代からキャット・スティーヴンスは、ムスリム共同体の教育問題、慈善活動に身を捧げるために音楽業界から距離をとるようになった。しかし、2006年になって突如、ポピュラー・ミュージックシーンに電撃復帰し、「アン・アザー・カップ」と題されたアルバムをリリースしている。

 

これまで、キャット・スティーヴンスは慈善活動家としての功績が讃えられ、2004年には「マン・フォー・ピース・アワード」 、2007年にはメディタレニアン・プライズ・フォー・ピース」など世界平和を訴える活動により、これまでいくつかの賞を受賞している。

 

 




「Harold And Maude」 Island Records





Harold and Maude -Hq- [12 inch Analog]

 

 

Scoring

 

 

 

Tracklisting

 

1.Don't Be Shy

2.Dialogue 1(I Go To Funerals)

3.On The Road To Find Out-Remasterd 2020

4.I Wish,I Wish-Remasterd 2020

5.Tchaikovsky's Concerto No.1 in B

6.Dialogue 2(How Many Suicides)

7.Marching Band/Dialogue 3(Harold Meet Maude)

8.Miles From Nowhere-Remasterd 2020

9.Tea For The Tillerman-Remasterd 2020

10.I Think I See The Light-Remasterd 2020

11.Dialogue 4(Sunflower)

12.Where Do The Children Play?-Edit

13.If You Want Sing Out,Sing Out-Ruth Gordon & Bud Cort Vocal Version

14.Strauss' Blue Danube

15.Dialogue 5(Somersaults)

16.If You Sing Out,Sing Out

17.Dialogue 6(Harold Loves Maude)

18.Trouble-Remasterd 2020

19.If You Sing Out,Sing Out-Ending

 

 

 

「ハロルドとモード 少年は虹を渡る」は、ヘヴィーな映画マニアの方なら御存知の作品だろうと思われる。今から五十年前に公開されたカルト的な人気を誇るブラックコメディー映画で、コリン・ビギンズの原作を映画化したものである。

 

この作品「Harold And Maude」の大まかなストーリーは、自殺願望を持つ19歳の少年が他人の葬式に出ることを趣味とするようになったが、そこで、モードなる老年の破天荒な婦人と出会い、将来に明るい希望を見出すという筋書きである。


このモードという老婦人は、他人のクルマを盗んで乗り回したり、大きな木を勝手に伐採し、それを他の森に植え付けたりと破天荒な性質を持っている。その破天荒さに惹かれたハロルドは、この老婦人との関わりを通して、人生というものの醍醐味を学んでいく。正直、この作品だけでなく、スティーヴンスという音楽家について、私は長らく知らなかったわけで、もしかすると、本筋にそぐわない部分もあるかもしれないとあらかじめお断りしておきたい。


そもそもこの作品のサウンドトラックが2007年までリリースされなかったことについては、映画配給会社、レコード会社の意向に添ったものではなく、このサウンドトラックを担当したフォークシンガー、キャット・スティーヴンスの意向によるものだった。彼はまだこの映画音楽を担当した1970年代、自分がまだ駆け出しのミュージシャンであることを自覚していたため、このサウンドトラックがグレイテスト・ヒッツ、ベスト・アルバムとみなされるのを避けるため、かなりの間、このサウンドトラックをお蔵入りさせ、2007年まで音源としてリリースすることを躊躇していたという。

 

2000年代までのキャット・スティーヴンスの人生には様々な出来事があったと思われる。それは、ムスリムへの改宗、そして、慈善活動への転向。しかし、2006年に再び音楽業界に戻ってきたことが、2007年になって、この幻のサウンドトラック作品の公開へ踏み切らせたという経緯もあったかもしれない。それはともかくとして、この作品を聴いて、なんとなく感じるのは、懐かしい映画音楽への淡い慕情にくわえ、ユスフ・イスラムの音楽の才覚の鋭さなのである。

 

このサウンドトラックは、映画音楽として、非の打ち所の無い音源のように思える。音楽、あるいは、ダイアログ、劇中曲という3つの側面を通して映画音楽が物語を形作っている。これは書いてみると、結構、単純な要素と思えるかも知れないが、この約束事が守れている作品というのは意外にも少ないのである。

 

今回、およそ十五年ぶりに再編集された「Harold And Maude」の映画サウンドトラックは、キャット・スティーヴンスの手掛けた楽曲「If You Want Sing Out」を中心に構成されている。他にも、「Don’t  Be Shy」「Tea For The Tillerman」をはじめ、キャット・スティーヴンスの爽やかなフォークの名曲群が収録されているが、これは、ジョージ・ハリスンの全盛期の領域に近い神々しい光を放っているようにも思える。さらに、曲間に挿入される映画のダイアログも鳥肌が立ちそうな雰囲気が漂い、古い映画しか醸し出すことができない、独特な陶然としたアトモスフェールに満ちている。(これは映画ファンであれば、うなずいてもらえるだろうと思われる)

 

さらに、チャイコフスキーのピアノ協奏曲、あるいは、ヨハン・ストラウスの「スケーターズ・ワルツ」といった劇中曲として挿入される楽曲が、この映画音楽の年代感、ヴィンテージ感を引き立てている。

 

そして、本作の最大の魅力はなんといっても、アカデミー助演女優賞を二度受賞している、今は亡き女優ルース・ゴードンの生の歌声が記録されていること。もちろん、ルース・ゴードンの歌はお世辞にも上手いといえない。しかし、それさえも”演じている”のだとしたら・・・。そして、彼女の歌声はなぜかしれないが、私達に大きな勇気を与えてくれる。本来、私達の人生は、無限の希望と冒険に満ちあふれているという事を、名女優の歌声は教え諭してくれるのである。

 

この音源「Harold And Maurd」が、今回、新たにリリースされたことについては、アメリカのフォークファンだけでなく、映画マニアの表情をニヤリとさせるものがあるはずだ。この作品は、今回、よりサウンドトラックとしての純度を高めるため、サンフランシスコで、ユスフ・イスラムは新しく二曲のレコーディングを行っており、当時の作品の雰囲気を損ねないように、意図的に荒削りなリミックスがほどこされている。

 

キャット・スティーヴンスは、今回の作品の出来栄えについてこの上なく満足していると語る。それは長きにわたり活動を続けた音楽家としての矜持にあふれた本懐ともいえ、今回、若き日に感じた「グレイテスト・ヒッツ」という概念を超越することが出来たと実感したからにほかならないのだろう。

 

今回、マスタリングしなおされたキャット・スティーヴンスの1970年代の名曲群は、いくつかの語りとアナログノイズと絶妙な融合を果たし、モノクロ映画のような甘美で陶然とした魅力を放ってやまない。さらに、新たに書き下ろされた2つの新曲が音楽としての物語を緻密に形成し、重層的な構成をなしている。サウンドトラックは本来、映画の内容を「音」を介して物語らねばならない。繰り返しになるが、今作品ほぼ非の打ち所がない完璧な傑作と言える。

 

 

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