New Album Review [.que] 「Spring」 EP

 [.que]

 

 [.que]は徳島県出身のカキモト・ナオの音楽プロジェクト。幼少期からギターを学んだ後、2010年から [.que]として活動を開始する。フォークトロニカ界隈で注目を浴び、一聴して伝わるキャッチーで癒やしに富んだメロディーが最大の魅力、その美しい楽曲は世界中から賞賛を浴びている。

 

 近年では、インスト曲のみならず、作詞、作曲、編曲とプロデューサーとして多彩な領域で活躍を見せ、枠に捕らわれない幅広い音楽性を発揮している。これまでの活動において、オリジナル作品にとどまらず、CM音楽、空間演出のための音楽、また、他のアーティストへの楽曲提供やリミックスなど多岐にわたるジャンルのアーティストのコラボレーションをおこなっている。

 

ライブでは、音楽フェスティバルへの出演経験に加えて、海外アーティストとの共演、海外ツアーなども敢行している。音楽的なコンセプトとして、カキモト・ナオは、常に今、鳴らしたい音を鳴らし続ける。

 



「Spring」 EP Embrace

 


 

Tracklist

 

1.Prelude

2.New Day

3.Re:memories

4.Spring

5.Q

6.Moment

   

 

 

[.que]の最新作「Spring」は、現時点では、Spotify、Apple、Amazon Musicをはじめとするデジタル配信のみでリリースされています。

 

EPのアートワーク、それからタイトルに象徴されるように、春の到来の予感を感じさせるさわやかな作品で、作品全体がなんとも喜ばしい季節の到来を寿ぐかのようなやわらいだぬくもりに満ちています。全体的な作品としては、ピアノ曲としての印象が色濃い前半部、そして、フォークトロニカの印象が色濃い後半部に大別されます。カキモト・ナオさんは、この作品で日本らしい柔らかな叙情性をポスト・クラシカル、エレクトロニックという方向性で表現してみせています。

 

ぜひとも、長いながい厳しい寒さの冬が終わりを告げ、小さなヒヨドリや、地中で冬眠していたかわいらしい小動物がうららかな日差しの差す春真っ盛りの地上に、ゆっくりはいでてくる様子を思い浮かべてみていただきたい。さらに、その地上の世界には、さんさんたる太陽の光が降り注ぎ、華やいだ色とりどりの風物があふれる新たな希望に溢れる世界が彼らの眼前にはみちひろがっている。そして、そのことは多くの人達にとっても無関係ではないはず。この作品は、そういった冬から春にかけての季節の移ろい、過ごしやすくてぬくもりのある世を色彩感覚を交え、上記のようなポスト・クラシカルと電子音楽の領域における音楽表現を試みた作品といえるかもしれません。

 

[.que]の表現力は、頭一つ抜きん出ています。これまでのCM音楽をはじめとする劇伴音楽として培ってきた経験が、そういった春の風物に相対して、どのような音色を選び、どのようなシーケンスを導入し、どのような鍵盤楽器の旋律を奏でるのか、すっかり熟知しているように思えます。今回、カキモト・ナオさんは、映像に同期する音楽という枠組みを飛び越えて、現実世界に同期する印象的な六曲の楽曲を生み出しています。特に、最終トラックの「Moment」でのディレイエフェクトは、フォークトロニカの主要なサウンド・デザインの一つであるが、癒やしの雰囲気に加えて、このアーティストの表現する「喜びの感情」が、今にも音から溢れ出そうです。

 

「Spring」EPは現実風景をカンバスになぞらえた音楽という形式における絵画のスケッチとも言い換えられる。「春」という印象的な季節の到来を高らかに告げる、癒やしに満ち溢れた小作品集です。