【Review】 Loscil 「The Sail's,Pt.1」

 

Loscil

 

ロスシルは、カナダ・バンクーバーを拠点に活動するスコット・モルガンのエレクトロリック/アンビエントのソロプロジェクト。

 

モーガンは1998年にバンクーバーでこのプロジェクトを立ち上げ、ブランディングライトと呼ばれるアンダーグランドシネマで視聴覚イベントを開催している。ロスシルと言う名は、「ループオシレーター」を指す関数(loscil)に由来する。

 

既にアンビエントアーティストとしては確固たる地位を獲得している。これまでオリジナル制作の他にも、坂本龍一、ムスコフ/ヴァネッサ・ワグナー、サラ・ノイフェルド、bvdub、レイチェル・グリムス、ケリー・ワイスといった幅広いジャンルのアーティストの作品に参加している。

 

 

 

「The Sails,Pt.1 」 Scott Morgan


 

 

Tracklisting

 

1.Upstream

2.Fiction

3.Twenty-One

4.Wells

5.Still

6.Trap

7.Cobalt

8.Container

9.Wolf Wind

 


・「The Sails, Pt.1」

 

 

スコット・モルガンは、自身の音楽性について、「ループの要素は、私の楽曲制作の重要な部分です。電子的に作曲を行う際、ループの要素を元に素材を追加したり、フィルタリング、編集を行なって余計な音を削り、耳に心地よい音へと到達できるように努めています」と語っています。

 

つまり、モルガンは、ミニマル派の技法を電子音楽という側面から解釈し音楽を提示してきているわけです。彼はこれまで、上記のような短いフレーズをループさせ、シンセサイザーのオシレーター処理を行うことにより、アンビエントとも電子音楽ともつかない穏やかで心地よいサウンドを生み出してきています。


しかし、今回リリースされた「The Sails,Pt.1」については、以前までの作風を受け継ぎながら、そこに独特なエレクロの要素が含まれており、ロスシルの既存の作風を知るリスナーに意外な印象もたらす作品です。

 

これまでの抽象的、いわゆるアブストラクトな音作りは、今作において反対に具象性を増しており、旋律の流れ、あるいは、リズム性という面で、旧来のアルバムに比べると、いくらかつかみやすい印象を受ける作品です。これまで、ロスシルの音楽が抽象的で理解しづらかった方にとっては、「The Sails,Pt.1」は最適なアルバムといえるかもしれません。しかし、だからといって、このアーティストらしい思索性が失われたというのではありません。この作品で繰り広げられるのは、絵画的な音の世界、奥行きのある音響空間であり、叙情的なアンビエンスが取り入れられていることに変わりはありません。

 

もちろん、表向きには、これまでと同じようにアンビエントの王道を行く音作りも行われていますが、今作におけるモルガンの音楽性には、今回、新たに、シュトックハウゼンのクラスターの要素を取り入れているのが革新的です。スコット・モルガンは「The Sails, pt.1」において、アンビエントとハウス、テクノのクロスオーバーに挑み、これまでのリズム性の希薄な作風と異なり、リズム、フレーズの旋律、ループ、これらの要素を立体的に組みわせて、エレクトロ、ハウス、テクノ、こういったダンスミュージックの核心に迫ろうとしています。

 

実際的な音楽というより、強固な概念にも似た何かがこの音楽には込められており、それは何か力強い光を放っている。これはスコット・モルガンの以前までの作品にあまり見受けられなかったなかった要素です。もちろん、そこまた、ロスシルらしい清涼感、叙情性、壮大な自然を思わせるような麗しさも多分に込められています。今作「The Sails」シリーズは「Pt.2」が今後制作される予定です。これからの続編の到着も、アンビエント、エレクトロファンとしては、心待ちにしていきたいところでしょう。