Widowspeak
ウィドウスピークは、アメリカ合衆国、ニューヨーク市ブルックリンを拠点に活動するインディーロックバンド。これまでのスタジオ・アルバムをすべて同市のインディーズレーベルであるCaptured Tracksからリリースしており、謂わばレーベルの看板アーティストともいうべき存在である。
バンドは、ギタリスト兼ボーカリストのモリー・ハミルトン、そしてギタリストのロバート・アール・トーマスで構成されている。基本的にはデュオとして活動しているが、レコーディング、ライブ時にはサポートとして、ウィリー・ミューズ(ベース)、ジェームス・ジャノ(ドラム)が参加してバンド体制となる。
2010年、ウィドウスピークは、ニューヨーク・ブルックリンで、タコマ・ワシントン出身のモリー・ハミルトン、友人のマイケル・スタジアックによって結成された。彼らは、10代の頃から顔見知りだった。その後、二人は、ギタリストのロバート・アール・トーマスと出会い、一緒に練習を始める。
2011年にデビュー作「Widowspeak」をブルックリンに本拠を置くレーベル「Captured Track」からリリースし、インディー・ロックバンドとして高い評価を得た。
シングル「Hash Realm」は、TVシリーズ「アメリカンホラーストーリー」のエピソードとして紹介された。2012年、バンドはその後のツアーのため、Pamela Garabano-Coolboughをバンドメンバーとして採用する。
ファースト・アルバムのリリースツアーを行った後、 最初のメンバーであったスタジアック、ガラバノ・クールバーグが脱退する。
2012年の初め、二枚目のフルアルバム「Almanac」の制作を開始する。この作品のレコーディングエンジニアは、プロデューサーのケビン・マクマホンが抜擢されている。また、ウィドウスピークは同年のオア割に、ハドソンリバーバレーの100年前の納屋で録音を行い、2013年1月にこの作品をリリースした。
2015年、ウィドウスピークは、三作目のスタジオ・アルバム「All Yours」をリリースした。このアルバムには「Stoned」というドリームポップのアンセムソングが収録されている。また、その後、四作目のアルバム「Expect The Best」を2017年にリリース。この作品は、モリー・ハミルトンがワシントン州のタコマに戻り、ソングライティングを手掛けた彼らの始まりへの回帰をしめす作品であり、ニューヨーク州ニューヴァルツのMarcata Recordingで録音が行われた。
その後、ウィドウスピークは2020年に五作目となるスタジオ・アルバム「Plum」を制作した。デビュー当時から一貫してキャプチャードトラックスからのリリースを行っており、派手さこそないものの、秀逸なポップセンスを持った良質なインディーロックバンドとして活動を続けている。
「The Jacket」 Captured Tracks Release Date: 3/11 2022
Tracklisting
1.While You Wait
2.Everything Is Simple
3.Salt
4.True Blue
5.The Jacket
6.Unwind
7.The Drive
8.Slow Dance
9.Forget It
10.Sleeper
さて、今週の一枚として紹介させていただくのは、昨日、3月11日に、Captured Trackからリリースされたウィドウスピークの通算6作目のスタジオ・アルバム「The Jacket」です。既に、先行シングルとして、「Everything Is Simple」「While You Wait」 「The Jacket」という三作品が先々月からファンの前にお目見えしていましたが、遂に、昨日、フルアルバムがリリース、ストリーミング配信、CD、及びLP盤の発売も合わせて解禁となりました。
先行シングル「Everything Is Simple」がデジタル配信、MVが公開された時点から、この6作目のウィドウスピークのアルバムがバンドにとって記念碑的な作品、また、最高傑作になることを確信していましたが、いざ、昨日に届いた新作を聴いてみると、期待以上の素晴らしい完成度を持つ作品です。これまで、2010年から十年にわたるキャリアを持つウィドウスピークの、バンド、デュオとしてのキャリアの集大成をなすような作品が生み出されました。さらに、このアルバムは、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドからのインディーローファイの系譜が引き継がれて、それが現代のバンドとして大きな結実を果たした作品とも言えるでしょう。
「The Jacket」は、Homer Steinweiss(Sharon Jone&the Dap-Kings,El Michels Affair),Robert Earl Thomasの両者による共同プロデュース作品で、ミキシングはChris Coady(Beach House,Yeah Yeah Yeahs)が担当しています。表面的には、モリー・ハミルトンのアンニュイでキュートなキャラクターが前面に押し出されているものの、アルバム作品の全体的な世界観を巧みにコントロールするのは、ギタリストのロバート・アール・トーマスで、ウェスタンミュージックの影響を感じさせるワイルドな雰囲気が作品全体に妖しげに揺曳しています。
この要素が、モリー・ハミルトンのアンニュイなボーカルと絶妙に合わさることにより、ローファイかつ甘美な雰囲気が作品全体にほのかに漂い、聞き手を魅了させもし陶然とした境地へと導くことでしょう。ローファイ感あふれる芳醇な時間の流れは、現実の時間そのものを忘れさせる世界観を持っています。また、おわかりの通り、ウィドウスピークの最新作「The Jacket」は、表向きには音楽という形態を取りつつ、ときに、映画的でもあり、また、ときに、物語然としたコンセプト作にも近いサウンドの印象を併せ持っています。これは確かに、前作の「Plum」までのアルバムには感じられなかった要素で、十年の間、バンドとして熟成されてきた才覚の芽のようなものが、遂に、通算六作目のアルバムにおいて花開いた瞬間と形容出来るでしょう。
サウンド面では、The Jacketはバンドが普段どおりベストな状態であると言えます。このアルバムは、深く呼吸しており、開放的で豊かな瞬間、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのようなラフで直接的なアプローチが行われています。レイヤーを重ねたギター、埃っぽいパーカッション、アンブリングなベースラインで構成され、穏やかで漂うようなバラードが、ジャムの間でダイナミックかつシームレスに変化を果たす。
気まぐれなフルート、コーラス・テクスチャー、オルガンも聴くことが出来る。アール・トーマスのギタープレイは、これまでと同様、叙情的で感情的であり、他方、ハミルトンのボーカルは、程よく力が抜けています。さらに、シームレスなダイナミックさは、クリス・コーディーのミックスによって増幅されていきます。バンドは、Yo La Tengo,Neil Young,Cowboy Junkies,Cat Power,Richar&Linda Thompson,など、彼ら二人が長年にわたって影響を受け続けているアーティストを今なお「ジャケット」として華麗に袖に纏っているのです。
スロウコア、ドリーム・ポップ、パシフィック・ノースウェスト、インディー・ロック、アウトロー・カントリー、実に多種多様な要素を巧みに取り入れ、60年代と90年代を融合させた美的感覚を生み出しているのが非常に見事。さらに、興味深い事に、独自の言語で多層的な物語をより良く伝えるための道具として、独自の美的なフィードバックループを駆使しています。このアルバムの音楽のノスタルジー性は、古い自己、見いだされた自己、本当の自分を振り返る歌詞に新たな意味をもたらしています。
「The Jacket」は、現代的な快適さを持つレコードであり、集団としての一時停止のような奇異な感覚をもたらすバンドとしての心安さが浸透した傑作です。ギター・ロック、ソングライターのレコードでありながら、聴き馴染みのある構成がなされており、何かしら新鮮味を感じさせる良盤です。
Featured Track 「The Drive」