Peach Fit
ピーチ・フィットは、カナダ・バンクーバー出身、四人組のインディーポップバンド。ニール・スミス、クリストファー・ヴァンダークーイ、ピーター・ウィルトン、マイキー・パスクッチィを中心に、高校時代の友人を中心として結成された。
2016年6月、ピーチフィットは、セルフタイトル「Peach Fit」をメジャーレーベルからリリース。この作品はSpotifyで25億再生を記録する。
翌年、デビューEP「Sweet FA」をリリース。この作品には「Seventeen」というヒットシングルが含まれている。
2018年、コロムビア・レコードと契約を結び、デビューアルバム「Being So Normal」をリリースした。このアルバムにはアンセム「Tommy's Party」が収録され、この楽曲はデジタル配信として13億の再生数を記録した。2020年、セイント・ヴィンセントやベスト・コーストの作品を手掛けるエンジニア、John Congletonを迎え、二枚組のアルバム「You and Your Friends」を制作している。
ピーチ・フィットは、定期的に作品リリースを行いながら、ライブツアーを精力的にこなし、インディーポップバンドとしての実績を着実に積み上げた。2022年までに、Bonnaroo Music &Art Festival,Shaky Knees Music Festival,CBC Music Festivalといった音楽フェスティバルに出演を果たしている。
ピーチ・フィットの音楽を、バンド自身は「噛んだようなバブルガム・ポップ」と説明する。また、音楽批評家は彼らのサウンドを「サッドポップ、サーフロック」と評している。
サーフミュージックのジャック・ジャクソンを彷彿とさせる柔らかなヴォーカルスタイル、そして、さらに、アコースティックとエレクトリックを絶妙に組み合わせた、躍動感のあるギターロックを主な特徴とする。
「From 2 to 3」 Columbia
Tracklisting
1.Up Granville
2.Vickie
3.Lip Like Yours
4.Pepsi on the House
5.Look Out!
6.Everything About You
7.Give Up Baby Go
8.Last Days Of Lonesome
9.Drips on a Wine
10.2015
11.From 2 to 3
今週の一枚としてご紹介させていただくのは、3月4日にリリースされたカナダ・バンクーバーのインディーポップバンドのBeach Pitの新譜「From 2 to 3」となります。
今回のアルバム制作で、ピーチ・フィットは、60年代から70年代からのポップ、ロック、フォークに強いインスピレーションを受けてソングライティングを行ったと話し、その中には、ポール・マッカートニー、ニール・ヤング、グレン・キャンベル、イーグルス、ジョージ・ハリソンの名が挙げられています。またそのほか、サイモン&ガーファンクルの影響も感じられます。
上記のバンドからの影響を公言してることからも分かる通り、このスタジオアルバム「 From 2 to 3」に通奏低音のように響きわたっているのは、懐かしいバブルガム・ポップ、フォーク・ロックのノスタルジアです。それが、ニール・スミスの柔らかく、爽やかな雰囲気をもったヴォーカル、クリストファー・ヴァンダークーイのツボを抑えたギターのフレーズ、比較的タイトな印象のあるマイキー・パスクッチィのドラミングによって、叙情的でありながら、ダイナミックさも失わない麗しい60−70年代のサウンドが展開。どこかで聴いたことがある時代に埋もれていった懐かしい雰囲気。この作品では、それらのマージー・ビート、フォーク、そして、サーフミュージックの音楽性が絶妙な融合を果たし、独特なサウンドがゆるやかに繰り広げられていきます。
このアルバムが、デジタル、アナログだけで発売されていることからも分かる通り、ピーチ・フィットの今作「From 2 to 3」で掲げるサウンドのコンセプトは、明らかに60−70年代のポピュラー音楽の再解釈で、マッカートニーのメロディーの影響を色濃く受け継いだサウンドが特徴です。これは、近年、オルタネイティヴ・ミュージックが主流になっていくにつれ、王道のポップスが脇においやられてしまったような印象のある今日のミュージックシーンおいて、新鮮で清々しい感慨をリスナーにもたらすことでしょう。アナログではなく、デジタルで聴いたとしても、古いレコードプレイヤーから聞こえるような懐古的な雰囲気が全体的に漂っています。
今回のアルバムで聴き所といえそうなのが、一曲目の「Up Granville」、「Look Out!」。さらに、タイトルトラックの「From 2 to 3」は、このスタジオアルバムの最高のハイライトといえるかもしれません。
今作では、ジャック・ジャクソンのような爽やかなサーフ音楽の風味、1960年代のバブルガム・ポップ、そして、ビートルズの初期のサウンドを組み合わせた軽やかなサウンドが停滞もなく彩り豊かに展開していきます。このサウンドがリスナーにとってなんとなく心地よいのは、彼らのサウンドが自然味あふれるものであり、余計な力が入っておらず、現代の緊迫した世界の雰囲気から一定の距離を置き、この四人組が、純粋に心地よいポピュラー・ミュージックを追求しているからに尽きるかもしれません。
さらに、ピーチ・ピットのカルテットとしてのアンサンブルは、今回のレコーディングにおいて見事に息がとれていて、バンドサウンド(ひとつの小さな社会)としての調和、平かさ、緩やかさが生み出されています。
現代の戦争の時代に、今作に見受けられるような、平らかさ、穏やか、緩やかな音の需要は少ないはず。ピーチ・フィットのサウンドが心地よく、美しくさえかんじられるのは、この時代において、彼らが何を信じるべきなのかを熟知しているからなのでしょう。彼らは、決して時代のトレンドに流されず、バンドとして求めるべきものが何かを知りつくしているという気がします。
つまり、それは、彼らが高校時代から、気心の知れた仲間として音楽を気楽に奏でているからこそ必然的に生まれ出るものなのです。「From 2 to 3」は、四人組の友情関係によって紡がれるあたたかな情感の表出、また、彼らが今作において提示するのは、闘争、競争といった価値観とは全く逆の、平和、調和、穏やかさ、大らかさ、現代の人類が最も忘れてはならない重要な概念です。このさわやかな風味に満ちた作品が、平和の運動が出現したカナダから出てきたのは偶然とは言えないでしょう。
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