1. Eli Kezler「The Vaulting Sky」
ニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動する実験音楽家・パーカッション奏者のイーライ・ケスラー。
3月リリースされた新作シングル「The Vaulting Sky」は、これまでのケスラーの音楽性と同様、実験音楽として未知の領域に踏み入れており、アンビエント音楽をパーカッションの視点から解釈しているように思えます。前作のアルバム「Icons」で見せた涼し気な打楽器的なアプローチと、都会的なアンビエンスが絶妙に組み合わされた独特な音楽がここに生み出されました。
2.Patric Shiroishi 「 442」
モダンジャズ、またアヴァンギャルドジャズのアルトサックス奏者として、LAを拠点に活動するパトリック・シロイシ。
今月にリリースされた「442」は、二つの異なる解釈を交えた実験音楽です。現代音楽とモダンジャズの要素を融合した独特の作風が生み出されています。アルトサックスの芳醇で落ち着いた音色が魅力の作品です。一曲目はアバンギャルドジャズ、現代音楽として、二曲目はノイズアバンギャルドの領域に踏み入れた実験性の高い作風です。
3.Maia Friedman 「Sunny Room」
メイヤ・フリードマンは、NY・ブルックリンを拠点に活動するマルチインストゥルメンタリスト/シンガーソングライター。ダーティー・プロジェクターズとしても、2018年から活動している。
メイヤ・フリードマンは、先日、アルバム「Under The New Light」を発表していますが、この作品を紹介しそびれたので、今回、アルバムの六曲目に収録の「Sunny Room」を取り上げておきます。
メイヤ・フリードマンの紡ぐ音楽は自然味にあふれ、余分な力が抜けており、あるがままで心やすさが込められています。メイヤ・フリードマンは、ソングライターとして秀でた才覚に恵まれており、インディーポップ/フォーク音楽を介して独特な物語性を作品中に込めています。しかし、現在、それほど注目を受けていないので、これからの活躍が非常に楽しみなシンガーソングライターです。
女性シンガーソングライターの爽やかで清涼感のある作品をお探しの方はぜひこのシングル「Sunny Room」、そして、アルバム「Under The New Light」をおすすめしておきます。
4.Aldous Harding 「Fever」
オルダス・ハーディングは、ニュージーランドを拠点に活動するシンガーソングライターです。ユミ・ゾウマを始め、ニュージーランドには魅力的な音楽を奏でるアーティストが数多く活躍しています。
そして、オルダス・ハーディングもまたニュージーランドシーンの注目すべきシンガーソングライターに挙げられます。
この先行シングル作品「Fever」で、人を選ばず、多くの方に楽しんでいただける内容。往年のバブルガム・ポップの近いアプローチが採られ、1960-70年近辺の懐かしいポピュラー・ミュージックの方向性が図られ、跳ねるようなリズムを持った音楽が提示されています。また、オルダス・ハーディングは、先週、注目作のアルバム「Warm Chris」をリリースしていますので、こちらの方もおすすめです。全体的なサウンドの印象としましては、とっつきやすい雰囲気のあるバブルガム・ポップで、往年のビートルズファンには何か琴線に触れるものがあるかもしれません。
5.Sven Wunder 「Mosaic」
「スウェーデンの謎多き鬼才」と称される音楽家のスヴェン・ワンダーは、今回、3月にリリースされた「Mosaic」において西洋音楽のアプローチとは一定の距離を置き、イスラム圏、あるいはインドや日本の雰囲気を感じさせる異国情緒漂う作風を確立。
スヴェン・ワンダーは、今作において、民族楽器とオーケストレーションの融合を図り、リムスキー・コルサコフの「シェエザラード」のアラビアンナイトのようなロマンチシズム、或いは、西洋社会から見た東洋のエキゾチズムを音楽を介し表現しています。ジャズとも、クラシックとも、ポップスとも、また、映画音楽ともつかない、ミステリアスな雰囲気を持つ注目のシングル作です。
6.Eydis Evensen 「The Light Ⅰ」
アイディス・イーヴェンセンは、一度注目のアーティストとして取り上げていますが、アイスランドのポスト・クラシカルシーンの中でも期待のアーティストです。
今回、リリースされた「The Light Ⅰ」では、これまでと同様、アイディス・イーヴェンセンはレイキャビクのオーラブル・アルナルズにように、古典音楽のロマン派に近い叙情的なピアノ曲に取り組んでいます。
このシングル曲では、イーヴェンセンの元モデルとしてのセンスの良さが滲み、そこに物語性あふれる起伏にとんだピアノ曲が生み出されています。アイスランドのレイキャビクの四季折々の厳しさと麗しさの両側面を持つ北欧の風景を思い浮かばせるかのようで、明るさと暗さの両極端な叙情性が、イーヴェンセンの繊細な演奏タッチによって見事に描き出された楽曲です。
7.Lullatone 「Shapes In Time」
ララトーンは、名古屋を拠点に活動中のショーン・ジェームス・シーモア、その妻の富田叔美による電子音楽ユニットです。これまで、ささやかではありながら、素晴らしい活動を続けています。
エレクトロニック(電子音楽)とフォーク音楽を絶妙にかけ合わせた落ちついてリラックスできる作品を数多く残しているララトーンは、今回も心やさしいサウンドのコンセプトについてはなんら変わることはありません。たとえるなら、春の海辺で、穏やかな波風に揺られるような温もり、心地よさ。昔の日本の民謡を耳にするようなノスタルジーに溢れるとても素敵な一曲です。