Ambient Music Selection 2022 今年上半期の注目すべきアンビエント作品をリストアップ!!



・Patricia Wolf 

 

「I'm Looking For You In Others」

 



パトリシア・ウルフは、純粋な電子音楽家というより、シンガーソングライターとして知られるイギリス・サウスロンドンのミュージシャンです。一般的な楽器として、ウクレレ、ピアノ、ビオラを演奏しますが、電子音楽のサンプリングとクラシックを融合した独特な作風を擁するアーティストです。

 

最新アルバムにおいて、パトリシア・ウルフは、モダンアンビエントの領域を開拓しています。タイトル「あなたの中に他者を探す」という哲学的な主題が掲げられており、清涼感のあるアンビエントから暗鬱なサウンドまで、このアーティストの内面世界が電子音楽、シンセサイザーのシークエンスによって多彩に展開されていく。聞きやすいアンビエント作品としておすすめです。



 

・Suso Suiz 

 

「Just Before Silence」

 



スペイン・カディスのミニマル/アンビエントミュージシャンのSuso Suiz(スーソ・サイス)の大御所の最新作は、アンビエントの名盤として挙げても差し支えないかもしれません。クラシックという分野を、ボーカル芸術、電子音楽の切り口から開拓してみせた斬新な雰囲気を持つ作品です。

 

アンビエント音楽として抽象的な作風ではあるものの、背後に展開されるシンセサイザーのシークセンスは独特な和音を有している。奥行きを感じさせるアンビエントは、時に宇宙的な広がりを持ち、霊的な雰囲気も持ち合わせています。今年65歳になる電子音楽家が挑んだヴォーカル芸術と電子音楽の融合の極限。問答無用の大傑作です。 

 


・Alejandro Morse 

 

「Adversalial Policies」

 

 


 

アレジャンドロ・モースは、メキシコを活動拠点とするドローンアンビエント・アーティストです。

 

アレジャンドロ・モースは、昨今の平板なアンビエントとは異なり、迫力のあるアンビエントを生み出す演奏家です。表現性については、アブストラクトな色合いを持つものの、独特な低音の響きがこの作品の世界観をミステリアスなものとしています。低音域の出音、それに対比的に組み込まれる高音域のシンセサイザーのフレーズが何か聞き手に高らかな祝福のような感慨を授けてくれる作品。自然を感じさせるような楽曲から、時にはインダストリアルな雰囲気を持つ楽曲にいたるまで、幅広いアンビエントの表現がこの作品では探求されています。

 

 

 

・Messeage to Bears(Worridaboustsatan Rework)

 

「Folding Leaves」

 



Messeage to Bearsの最新作「Folding Leaves」は、荘厳なゴシック建築のような趣を持つピアノとシンセサイザーを融合した既存のアンビエントから見ると、画期的な作風です。このアルバムのオープニングを飾る「Daylight Goodbye」は、ピアノの旋律を活かすのではなく、ピアノやアコースティックギターを音響的に解釈し、それを空間的な広がりとして表現しているのが見事です。

さらにそこに、電子音楽家メッセージ・トゥ・ベアーズは、ブリストルサウンドというべきか、ブリストルのクールなダンスミュージックのグルーブ感を加味しています。また、純粋なアンビエントトラックの他にも、テクノ寄りのアプローチがあったり、さらに、フォーク寄りのサウンドを持つ秀逸なボーカルトラックがあったり、かなり幅広い柔軟な音楽性が味わえる作品です。                
 
 

 

 

・Francis Harris 

 

「Thresholds」



 

NY、ブルックリンを拠点に活動する電子音楽家、フランシス・ハリスの最新アルバム「Thresholds」は、アバンギャルドの雰囲気も持ちつつ、多種多様な電子音楽が展開されています。

 

時に、会話のサンプリングが取り入れられたり、ピアノのフレーズがアレンジに取り入れられたり、さらには、グリッチノイズをリズム代わりに表側に押し出したりと、Caribouのような実験的あるいは数学的な試みが行われています。また、ヴォーカルをダブ的に解釈を行った楽曲もあり。そういった電子音楽寄りの楽曲の合間を縫って、緩やかで穏やかな雰囲気を持つアンビエントが作品全体の強度を持ち上げています。暗鬱でぼんやりとしたドローンアンビエント、それと対比的な色合いを持つモダンテクノの風味が掛け合わされた特異な作品です。 

 

 

 

・Pan American 

 

「The Patience Fader」




Pan−Americanの他にも、ギターアンビエントに旧来から取り組んでいるアーティストとしては、坂本龍一ともコラボレーションを行っているオーストリアのFenneszが挙げられますが、パン・アメリカンの新作は、クリスティアン・フェネスほどは、実験音楽、電子音楽の色合いは薄く、心休まるような雰囲気を持っています。


この最新作におけるパン・アメリカンのエレクトリック・ギターの演奏は、スティール・ギター、ウクレレのような純朴さ、穏やかさがあり、それをこのアーティストは温かなフレージングによって紡がれてゆく。ギターによって語りかけるような情感が込められ、南国のリゾート地にやってきたような開放感にあふれる極上の作品です。 

 

 

 

・Andrew Tasselmyer


「Limits」

 

 

現行ドローンアンビエント音楽の中でも屈指の人気を誇るメリーランド州ボルチモア出身のアンドリュー・タセルマイヤーは、アンビエントだけではなくポスト・クラシカルの領域でも活躍する音楽家です。

 

このアルバムにおいて、アンドリュー・タセルマイヤーは、ロスシルや畠山地平に近いアプローチを図り、風の揺らぎのようなニュアンスをシンセサイザーのシークエンスにより探求しています。さらに、トラック全体に深いディレイエフェクトを施すことにより、プリペイドピアノのとうな音色を作ったりと、実験音楽の要素も多分に取り入れられています。作品全体には、機械的な作風であるのにも関わらず、大自然の中で呼吸するかのような安らぎが込められています。 

 

 

 

・Recent Arts、Tobias Freund&Valentina Berthelon

 

 「Hypertext」 

 


 

2022年現時点までにリリースされたアンビエント作品の中で、スペインの大御所・スーソ・サイスの「Just Before Silence」と共に注目すべき作品として挙げられるのが、Recents Artsを中心に、三者の電子音楽家がコラボレーションを行った「Hypertext」です。アルバムでは、アンビエントの先のあるSFに近い作風が取り入れられており、「SF-Ambient」とも称するべき前衛的なサウンドアプローチが生み出されています。

 

その他にも多彩な表現性が込められており、グリッチテクノに近いアプローチがあったかと思えば、モダンアヴァンギャルドの領域に踏み入れていく場合もあり、ヒップホップのサンプリングに近い雰囲気も取り入れられています。もしかすると、今後、こういった近未来を象徴するような斬新なSFアンビエントサウンドが数多く生み出されていくのではないか、そんなふうに期待させてくれる作品です。お世辞にも、聴きやすいアンビエント音楽とはいえないものの、今年までは存在しなかった音楽性が提示された、前衛的な電子音楽として、最後に挙げておきます。

 

*Ambient Music Selection 2022 2nd Halfはもし余裕があったらやります。あまり期待せずお待ち下さい。