New Album Review Calexico 「El Mirador」

Calexico  El Mirador

 



 

Label:Anti

Release: 2022 4/8 



キャレクシコは、かつて、シカゴのインディーレーベル、Touch and Goの傘下にあたる「Quarter Sticks」からリリースを行っていたこともあります。


ブロンド・レッドヘッド、ヤー・ヤー・ヤーズを一番最初に発掘したタッチ・アンド・ゴーは、現在、レーベルとしての経営が行き詰まっており、新しいレコードのリリースが出来なくなってしまっていますので、是非、このあたりの音楽が好きな方は、タッチ・アンド・ゴーの旧作リリースを購入して、御支援いただきたいと思っています。そして、タッチ・アンド・ゴーの傘下にあるQuarter Sticksも、ポストロックやエモシーンの良質なバンドを数多く輩出したレーベルで、RodanやRachel'sを始めとする個性的なバンドの作品のリリースを率先して行っていました。

 

このキャレクシコもまた、タッチ・アンド・ゴーのレーベルカラーに添ったバンドであり、アリゾナ州のツーソンのロックバンドです。しかし、ロックバンドというべきなのかは判断に迷う部分もあるようです。というのも、このバンドは、アメリカーナ、中央アメリカ、そして、南アメリカの音楽を継承する希少なグループなのです。しかし、バンドとしての最初のカラーをだんだん失ってしまい、どうやら最近では、アメリカーナ色の強いリリースは行っていなかった様子ではあるものの、最新のアルバム「El Mirador」において、彼らは、バンドの原点、メキシカン、アメリカーナへの回帰を果たし、ワイルドさやエモーションが込められた快作を生み出しています。

 

アルバム「El Mieador」は、バンドのメンバー、キーボード奏者のセルジオ・メンドーサの所有するスタジオで録音が行われ、世界における友情のようなテーマが込められ、制作がなされています。彼らは、今作において、アリゾナの砂漠地帯、アメリカの国境を超えたメキシコの音楽性を巧みに取り入れ、独特なワイルドさを持つアルバムに仕上げています。そこには、パーシー・アーロンが描いた映画「バグダッド・カフェ」に見られるような、砂漠地帯の哀愁の感慨がこのアルバムに漂っている。バンドとして例を挙げるなら、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブに近い、スパニッシュな渋さ、ダンディズムが込められた音楽性といえるかもしれません。

 

もちろん、作品の色付けだけにとどまらず、スティールギターやシンセの使用は古典的なアメリカーナと現代的な音楽の回路のような役割を果たし、現実的でありながら、ユニークでアニメーションのような性格が作品全体に感じられます。さらにいえば、往年の西部劇のようなユニーク性、つかみやすいメキシコのキャラクター性が込められているのも、このバンドやアメリカーナに馴染みのないリスナーに近づきやすさをもたらすと思われます。全体的には、メキシコの広大な砂漠のむこうの蜃気楼の果てに浮かび上がる、サボテン、メキシカンハット、度数の高いテキーラを提供するスタンドバー、そういった幻想的な風景をおもわせる魅力的な雰囲気に塗れています。

 

そして、さらに、キャレクシコがいくらかポスト・ロックの実験的な性格を持つのを表しているのが「Then You Might See」であり、渋さのあるニューウェイブ・ポスト・パンクに近い新鮮な作風にも取り組んでいる。しかし、彼らが単なる遊び心で、アメリカーナを奏でているわけでないことは、「The El Busso Song」に顕著な形で表れ出ています。いかなる気持ちでこの新作に取り組んだのかは、実際、提示された音楽に見出せます。太陽のように陽気であり、純粋に音楽を楽しもうとする姿勢にかけて、キャレクシコは、他の追随を許さない存在です。そう、「El Mirador」は彼らのアメリカーナへの長い長い旅路であり、レコーディングに際して目の前の音楽を謳歌するカレクシコのメンバーの姿が目の裏にありありと浮かび上がってくるような作品です。


 

68/100

 


 

 

 

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