New Album Review  Oceanator 「Nothing's Ever Fine」



Oceanator

 

オセアネーターは、ニューヨーク・ブルックリンを拠点にするアメリカのマルチインストゥルメンタルミュージシャン、Elise Okusamiのバンドプロジェクトである。

 

このプロジェクトの中心人物であるエリーゼ・オクサミは、9歳の頃から独学でギターの習得をはじめ、その後、兄と友達と一緒にバンドを始めた。その後、ニューヨークで複数のバンドプロジェクトに参加しながら、ソロアーティストとして活路を見出していった。オセアネーターは、1990年代のグランジとパンクに強い影響を受けたサウンドに、最近の流行のシンセ・ポップの色合いを付け加えたバンドである。しかし、その音楽性は、掴みやすさがある一方で、往年のハードロックバンドのようなパワフルな重低音に裏打ちされた力強さの両局面を併せ持つ。オセアネータの音楽性については「アポカリック・サウンド」というようにも称されている。

 

オセアネーターは、2017年にデビュー・アルバム「Oceanator」を自主レーベルからリリースする。このアルバムの発表から時を経ずに、複数の音楽メディアに注目を浴びる。StereogumやSpinから賞賛を受け、「2020年の20の最も興味深いニューアーティスト」にも選出されている。その後、 新たにアメリカのインディペンデントレーベルであるポリヴァイナル・レコードと契約を結び、2020年には二作目となるアルバム「Things I Never Said」をリリースしている。

 

 

 

「Nothing's Ever Fine」 Polyvinyl   



Tracklisting


1.Morning

2.Nightmare Machine

3.The Last Summer

4.Beach Days(Alive Again)

5.Solar Flares

6.Post Meridian 

7.Stuck

8.From the Van

9.Bad Brain Daze

10.Summer Rain

11.Evening 




何となく、この作品を聴いていて思い浮かべたのは、古い作品になるが、ザ・ラナウェイズの1976年の傑作「The Runaways」でした。

 

ザ・ラナウェイズは、1970年代に活躍したパンクロックバンドで、アメリカで最初の女性だけで構成されたパンクバンドでもあります。その後、女性だけのメンバーで結成されたバンドとしてはデトロイトのNikki and the Covettesもいた。これらの北米のロックバンドの中古盤は、まだ私が高校生だった時代に、奇妙なこそばゆさのようなものをもたらしてくれました。その思い出は他のUSインディーロックバンドと共に長らく忘れかけていたのだが、ノスタルジーあふれる思い出がこのオセアネーターの新作「Nothing's Ever Fine」で不意に蘇ってきたのです。

 

つい先週にリリースされたオセアネーターの最新作「Nothing's Ever Fine」は、おそらく、それらの過去に埋もれかけているグリッターロック/グラムロックを新たに再解釈しようというものなのでしょう。このアルバムは、例えばLAのリンダリンダズとは異なる雰囲気が漂っているのをリスナーはお気づきになられるかもしれません。パンクロックのパワフルなサウンド、それに加え、いかにもアメリカン・ロック、ハードロックの色合いを加えた音楽をオセアネーターは奏でている。そこにそこはかとなく垣間見えるのは、アメリカらしいロックの雰囲気です。既に、音楽市場や、そこに参加するアーティストにもグローバル化は進んでいき、イギリスのアーティストがアメリカの音楽を取り入れたり、反面、アメリカのアーティストがイギリスの音楽を取り入れたりと自由活発に音楽性の交換が行われるようになりました。そのこと自体は全然悪くはないと思います。しかしながら、その弊害としては、日本のアーティストについても同じことではあるが、自国の音楽とは何だろう、ということが年々わかりづらくなってきているのは事実なのでしょう。

 

しかしながら、このオセアネーターの最新作「Nothing’s Ever Fine」はそのかぎりではないように思えます。このアルバムの中に含まれている「Cherry Cokes」はランナウェイズのオマージュなのかまではつかぬものの、いかにもアメリカン・ロックと形容できる懐かしい音楽の風味がほんのりと漂っています。


ニューヨーク、デトロイトを始めとする北米の音楽シーンは、2000年近辺までに無数の偉大なバンドを数多く輩出したが、このアーティストは北米のバンドの音楽の系譜を逞しく継承しようとしているように思われます。今、思えば、私が昔の時代に後追いで聴いた中古盤のザ・ランナウェイズのようなグリッターな中性的なロックバンドの音楽がここに鮮やかに復活していることを心から嬉しく思っています。そして、さらに、このオセアネーターのエリーゼ・オクサミの歌声には、キャット・パワーのようななんともいえぬ渋みが漂っているのに、この作品に触れられた方はお気づきなったことでしょう。

 

例えばまた、ファーザー・ジョン・ミスティの音楽が男性的な哀愁をあらわすものとするなら、このエリーゼ・オクサミの生み出す音楽に表れているのは女性的な渋さであり、そして、ほのかな哀愁にほかなりません。これらの音楽性の根幹にあるのは、一日やそこらで醸し出せるものではないアーティストの人生を反映するしたたかな経験、それが、このアルバムの麗しい輝きをもたらし、もっといえば、内面的な輝きから、こういった強固なサウンドが生まれ出て、ある種の清々しさを伴うロックンロールとして提示されています。


ロック音楽は世に氾濫していても、ロックンロールを奏でるミュージシャンは今日のシーンにおいてきわめて数少ない。しかしながら、オセアネーターは、フォークやパンクと融合し、それを易々とやってのけているのが非常に見事です。さらに、それらが、現代的なドリームポップのスタイリッシュさと共に提示されているとあらば、個人的には、このアルバムに対して、最大の賛辞を送るよりほかありません。先週の数多くのリリースされた中の隠れたインディーロックの良盤として挙げておきたい作品となります。

 


 




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