New Album Review  Melody's Echo Chamber 「Emotional Eternal」

 Melody's  Echo Chamber  「Emotional Eternal」

 

 



Label:Domino Recordings


Release:April 29,2022

 

 

メロディーズ・エコー・チャンバーとして活動するメロディー・プロシェは、フランス・パリを拠点に活動するソローミュージシャン。現在、パリからフランス・アルプス地方に転居して、生まれたばかりの子供、そしてパートナーと暮らしているという。

 

今作「Emotional Eternal」は、メロディーズ・エコー・チャンバーにとって、通算三作目のスタジオ・アルバムとなり、8曲+1曲という特殊な形態の二枚組盤です。レコーディングは、ストックホルム近郊にあるスウェーデンの森で、最初のレコーディングが行われ、Lars Fredrik Swahn、スウェーデンのプログレバンドDungenのメンバーReine Fiskeといった面々がレコーディングに参加。クラシック、ジャズの素養を備えるJosefin Runsteenが複数の楽曲でストリングスを担当、ジャズドラマー、Moussa Faderaもレコーディングに加わっています。

 

Melody Echo's Chamberは、サブ・ポップ所属のビーチ・ハウス、ステレオラブといったバンドと引き合いに出されることもあるアーティスト。いわゆるドリーム・ポップの文脈で語られる事が多いように思えますが、もちろん、このアーティストの持つ魅力はそれだけにとどまりません。最新作「Emothinal Eternal」では、それらのバンドに代表されるドリーム・ポップの色合いに加え、ビートルズの体現したサイケデリックポップ、チェンバーポップの要素を込め、大衆性と実験性の双方をバランスよく配置したトラックを親しみやすい形で提示する。ストリングス、チェンバロ、シンセサイザー、ピアノ、ギターを交え、表向きには大衆性に根ざした音楽とは裏腹に、きわめて複雑な構造をなす楽曲が展開されていきます。

 

このアーティストの最大の持ち味は、おそらく1960年代のフランソワーズ・アルディに代表される「イエイエ」、もしくは、セルジュ・ゲンスブールの全盛期のおしゃれなフレンチポップの影響下にある音楽、その要素を20世紀のフランスの映画音楽のドラマティックな雰囲気とセンスよく掛け合わせていること。このことは、本人が意識しているかいなかにかかわらず、そういった往年のフランスのポピュラーミュージック、パリ映画が最盛期を迎えた時代の継承者としての役割を果たすアーティストであるように思えます。

 

アルバムでは、英語、そして、フランス語の双方の語感の魅力がボーカルトラックとして存分に引き出されています。おそらく、それは、メロディープロシェという人物が国際的な感性を持つ人物であり、世界市民であるからでしょう。とりわけ、表題曲「Emotional Eternal」に象徴されるように、往年のフレンチポップスの持つ独特なスタイリッシュさ、エスプリの風味がほんのり漂っているのが、このアルバムの聴き所といえるでしょう。描かれる音楽のストーリーの中盤では、シンセ・ポップ、ドリーム・ポップ、シューゲイズ、アートポップ、サイケデリック、きわめて多彩な要素を交えた楽曲がめくるめくように展開されていく。

 

さらに、アルバムの一連の物語のクライマックスに向かうにつれて、それらの幻惑は強まっていくが、メロディー・プロシェは誰も想像しえないような驚くべき着地点を見出す。メロディー・プロシェは、フランスの音楽を作品のクライマックスに配置しています。世界市民であろうとも、やはり、フランス文化を心から敬愛しているのです。


クライマックスとなる「Alma」は、アルバムのハイライトの一つで、セルジュ・ゲンスブール、ジェーン・バーキン、フランソワーズ・アルディ、シルヴィ・バルタンらが生み出したフレンチポップ最盛期の甘くうるわしい哀愁のアトモスフェールに包まれています。フランス・パリの大衆文化が最も華やいだ時代を彷彿とさせる淡いノスタルジアが満載となっている。この年代の音楽をよく知る人にとっては、じんわりした温かみをもたらすことは言うまでもなく、フレンチポップを知らないという世代にとっても、なにかしら新鮮味を感じさせる作品となっています。

 

72/100

 




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