昨日、5月13日に71歳の誕生日を迎えた伝説的なR&Bシンガー、スティービー・ワンダーは、今週行われた大衆の注目を集めるスピーチにおいて、公民権運動を擁護する意見を公の舞台で述べた。
ジャクソン・ファイブらとモータウンの知名度を引き上げた最大の貢献者であるシンガーは、これまでアメリカの社会問題について忌憚ない意見を述べてきた経緯がある。彼の古典的なR&Bのクロニクルともいえる70年代の一連のアルバムは、彼が取り組んでいるコンテクストに対する鋭い認識とミュージシャンシップを合致させるものである。そして、現在もなお影響力のあるアーティストとして人権に対するポリシーを持つのがこの偉大なミュージシャンでもある。
今週、NAACP 法務防衛基金の第三十四回全国平等正義賞と呼ばれるイベントのディナーにおいて、今回新たにアイコン賞を授与されたワンダーは、スピーチを通して市民への自由への支持を宣言した。
「アメリカは、危機の時代にある」とちょうどこの日に誕生日を迎えたスティーヴィー・ワンダーは聴衆の前で話し、「基本的人権を支持するため一緒に戦う」ように彼は請願した。
この中で、奇異にも、彼に比べて若い世代の象徴的なオピニオンリーダーであるケンドリック・ラマーが新作アルバムにおいて、内在的なテーマとして掲げる女性の人権についての考えと合致する。もちろん、これは婦人参政権運動を見ても分かる通り、アメリカ国内で20世紀初頭から取り組まれてきた課題であり、表向きには解決を見たとも思える。しかしながら、現代もなおこういった意見が複数のアーティストからあげられるというのは、いまだ社会現象の中に内在する差し迫った問題として引き継がれていることの証左でもあるのだ。聞くところに拠れば、女性の中絶禁止を支持する意見は、全州において30%にも満たないというデータも出ている。
アメリカ国内における、一般市民、ホワイトハウスの政治、両者の意見の乖離は、時代を減るごとにむしろ決定的に乖離しつづけているのではないか。自由の国の象徴は時代を減るごとに制限され、民主主義国家としての本義が薄れつつあるように思える。ケンドリック・ラマーが新作アルバムのアートワークで、フィアンセと共に子供を映し出したのには、深い意味が込められているように思える。例えば、表向きには報道されない、普通の市民が感じる何か普遍的な問題が暗示されているように思える。
「女性たちの身体を支配する権利、選挙権、そして、私たちの貴重な市民的な自由が暴行を受けている」とさらに続いて、この日のNAACPと呼ばれるイベントのスピーチでスティーヴィー・ワンダは以下のように意見を述べている。
「あなた方は、このことをご存知でしたか? まず間違いなく、アメリカは、危機の時代を迎えています。私の発言にしっかりと耳を傾けてくださるように願います。私たちは、共に最前線に立ち続けなければなりません」
さらに、この日のNAACPでのスピーチにおいて、スティーヴィー・ワンダーは全般的な人権の重要性についても意見を述べている。
昨今では、モンテスキューの提唱した「三権分立」の基本的な構造が崩れつつあるばかりでなく、その崩壊が政治や市民との関係性に波及しているように思える。そして、この演壇において、長いアメリカの歴史を見てきたワンダーにとって、キング牧師の時代から引き継がれる公民権をはじめとする黒人の権利獲得の経緯を見てきたワンダーにとって、抜き差しならぬ問題であることは明確である。彼が現代社会の内奥に見据える問題、これは市民よりも法や政治が大きな権力を持つ、危険な時代の到来である。以下の発言に、その自由の象徴として建国されたアメリカ合衆国の内在的なデモクラシーの腐敗に警鐘を鳴らしておきたいというアーティストの意図が伺える。
「私たちの次にやってくる子供や孫の時代において、十分なヘルスケアと教育を提供せねばなりません。
さらに、 アメリカを破壊する憎悪のスピーチの古い慣例から私たちは解き放たれなければなりません。そして、もっと大事なことは、すべての人々に、平等な権利、正義が与えられるべきだということです。私は、このスピーチを正義で終えたいと思います」
「何かが間違っている」と、スティーヴィー・ワンダーはこの日のスピーチを締めくくっている。
「もし、あなたがたが、不平等、不正を見出したのなら、この場所があなたがたにとっての国家であるということ、また、この場所があながたにとっての民主主義を意味することを思い出して、それについて声を上げてください。人権という概念を今一度、あなたがたの心に生み出し、人権という概念を保護し、そのことを後の時代も伝えてください。そうすることがより良い共同体を生み出すことに繋がるでしょう」
また、この日のスピーチに続いて、スティーヴィー・ワンダーは、ジョン・レジェンドとともに「普通の人々」を演奏している。