小瀬村 晶 「Pause(almost equal to)Play」 EP
Label: Schole/Universal Music
Relase Date:2022年5月29日
日本のポスト・クラシカル・シーンを代表するアーティストでもあり、レーベル「Scole」の主宰者でもある小瀬村晶さんは、ここ最近は、ピアノの小品をシングル形式でリリースしていました。ほとんど実はすべてチェックしていてなかなか取り上げる機会がありませんでしたので、今回、あらためてレビューとして取り上げさせていただきます。元々、日本国内でもエレクトロとは文脈を異にするアイスランドのMumをはじめとするミュージックシーンに代表されるエレクトロニカ/フォークトロニカというジャンルがそれほど有名ではなかった2000年代から活動を行ってきた小瀬村晶さんは、アメリカのGoldmundやドイツのNils Frahm、アイスランドのOlafur Arnaldsの初期の作風を彷彿とさせる繊細かつ叙情性を持ったピアノ曲を数多く作曲していて、他にも、日本ではドラマなどのサウンドトラックを手掛けています。彼の最新作となる「Pause(almost equal to)Play」EPは、このところシングルリリースを続けていたアーティストの久しぶりのミニアルバム形式の作品です。
このEP「Pause(almost equal to Play)Play」は、近年のピアノ曲の作風とは明らかに雰囲気が異なり、単なるピアノ作品ではありません。このアーティストの方向転換を予感させるようでいて、一方、最初期のレーベルのコンセプトであるエレクトロニカに近いアルバムです。つまり、この作品において、小瀬村さんは、レーベル「schole」が始まった当初のコンセプトのいわば原点に立ちかえり、その魅力やルーツを今一度見直そうとしているように思えます。それらは、これまでのレーベルのエレクトロニカ/フォークトロニカ、ポスト・クラシカルといった音のクロニクルのようなものを自身の作品の中で捉え直そうという意図も伺えます。
特に、オープニングを飾る「Pause」は知る限りでは、これまで小瀬村さんが作曲してこなかったタイプの楽曲であり、少し語弊はあるかもしれませんが、スクウェア・エニックスのロールプレイングゲームのサントラのような雰囲気が漂い、さらに独特な内向的なノスタルジアがほのかに漂っている。これらのゲームサントラが素晴らしいことを知るリスナーにとっては、新たな発見がもたらされるはずです。元々、テクノ/ミニマルグリッチ的な指向性を持ち合わせたサウンドプロダクションを行うレーベルとして発足したインディーズレーベル「Scole」のレーベルオーナーとして矜持のようなものがこの曲に顕れているように思えます。
その他にも、ミニマルとしてのピアノ曲「elbis」では、このアーティストの持ち味である繊細さ、内向性を保ったまま、そこに、ドイツのニルス・フラームに近い、実験的な電子音楽のアプローチを交えていたり、また、これまで多くの日本国内のテレビドラマの作曲を手掛けてきた劇伴音楽家としての矜持が伺えるのが、ラストに収録されているタイトルトラック「Pause 」であり、やはり、これまでの小瀬村作品と同様、映画音楽を思わせるような視覚的な効果に満ち溢れており、思索的(ピアノを弾きながら何か深い考えにふける)でもあり、ドビュッシーのようなフランス近代のアーティストの印象派に近いアプローチが図られているのにも注目しておきたいです。
個人的には、これまでの小瀬村さんの書いてきたアルバムの中で、円熟味、深い味わいが感じられるように思え、ミックスの段階でアルバムの音楽性が壊れないように細心の注意が払われており、また、同じように、隅々までどのように音を配置するのかに心が配られ、音が細かい部分まで丹念に作り込まれている印象。これまでのシングルより前衛的な作風と見ていて、このアーティストの意外性を示した作品として位置付けています。今後、以前より、電子音楽において実験的な方向性に進んでいくのではないかと期待させるものがあり、「日常のやすらぎ」というレーベルのコンセプトに沿ったミニアルバムであり、これまでの小瀬村作品に触れてこなかったリスナーの入門編としても強くおすすめします。
Critical Ratings:
85/100